第4章 覚醒
 スターシアは、白昼夢と現実との境目を彷徨っていた。

(体が重い・・・)
 渦巻く噴煙、眼前をかすめるレーザーの青白い光。声も立てず、目を見開いたまま、次々と倒れてゆくヤマトの戦士達。まるで人形のように。
 彼方で、誰かの悲鳴が聞こえたような気がした。
 だが最早、意識が混濁しつつあるスターシアには、眼前の光景は、あたかも霧がかかっているかのように、ぼんやりとしか写っていない。
 徐々にそのまぶたが重くなってゆく。右肩から下腹部にかけて、鈍痛が疼き、心臓の鼓動だけがやけに身内で大きく響く。破裂しそうだ。
 ふいに、がくりとうなだれる。最早、頭を上げていることさえ苦痛だった。
(死ぬ、のだろうか。このまま)
 不思議と、恐怖感はみじんもなかった。
 目の前に累々と倒れている、かつての仲間達の姿を目の当たりにしながら、一筋の涙も流れない。
(滅びさったイスカンダルの末裔の死に場所としては、似合いなのかもしれない)
 妙に乾いた思考で考える。
 生まれ落ちた時から、異邦人だった。物心ついた時に両親は既に亡く、双児の姉は、手のとどかない遠い場所にいた。17歳の今日まで、彼女に安寧の場はなかった。ただ一人、叔父の進と共にいる時以外は。
(でも、それも、もう・・・)
 最早、その両肩は、べっとりと濃い血のりに覆い尽くされ、夥しい量の生命の源が床の上に滴り落ちてゆく。
 体が、鉛のように重い。
 そのまま彼女の意識は、深い闇の底に沈み込んでいった。

「・・・シア」
 遠くで誰かが呼んでいる。
 ひどく優しい、ゆったりと包み込まれるような声だ。
(お母さま・・・迎えに来て下さったのですか?)
 スターシアは、おぼつかなげに空に手を差し伸べ、声の主に触れようとした。
 ゆっくりと瞳を開く。
 ぼんやりと、しかし徐々にではあるが、視界が定まってゆく。ひどく眩しい。
「スターシア様。お気がつかれましたか」
 声のした方に視線を移す。
 その瞬間、彼女の表情はこおりついた。
 そこには、見たこともない青灰色の肌をした女性が座っていた。

 意識を回復したスターシアが全ての経過を聞かされ、デスラーとの対面を果たしたのは、それから数日後のことであった。




りょうちゃん
2001年08月11日(土) 21時52分23秒 公開
■この作品の著作権はりょうちゃんさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
作者からのメッセージはありません。

この作品の感想をお寄せください。
うーむ、ますますいいです。ヤマトクルーだったことがドラマチックですね!! 長田亀吉 ■2001年08月13日(月) 21時38分01秒
お名前(必須) E-Mail(任意)
メッセージ
戻る
[ 感想記事削除 ]
PASSWORD