第5章 邂逅
「こちらでお待ち下さい」
 スターシアが通された部屋は総統自身の居室、プライベートルームの一角のようだった。
 恐らく彼の好みで統一されたと思われる、落ち着いた色彩の調度である。そこかしこに置かれた瓶に、盛り上がるように活けられたカリンカの白さが、一際目に鮮やかだった。
 スターシアがここに来て、初めて覚えた花の名である。 
やわらかな一重の花弁を持ち、淡い芳香を放つカリンカは、彼女がまだ病床にあった頃、毎朝のように枕辺に飾られていた。
 総統が最も好む花だと、後から聞かされたのだが。
 ようやく数日前に意識を取り戻し、ただ一人異星に取り残されたことを知った時には、やはり深い絶望感にとらわれた。
 全ての経過を鑑みれば、まずデスラー総統の厚情に深く感謝しなくてはならないことはよくわかっている。しかし理性では納得できても、スターシアの内心の葛藤は如何ともしがたく、叔父の進を深く恨まずにはおれなかった。
 だが、数日経った今は、さしもの彼女も精神的には大分落ち着きを取り戻してきていた。そこには医師や侍女達の手前、決して取り乱すことができなかった、という現実もあったのだが。
 数週間に渡っての巡視から帰国したデスラーが、スターシアを自室に呼んだのは、その矢先のことである。
 
 スターシアを案内した小姓は、彼女に好奇の色を示す風もなく、役目を終えると静かに一礼して退出した。
 スターシアは腰をおろしてはみたものの、どうにも落ち着かず、そっと立ち上がる。足音を忍ばせて次の間に入り、その瞬間、眼前に現れた光景に息をのんだ。
 そこは一室全てが巨大なサンルームとなっていた。分厚いカーテンは全部開け放たれ、あたかも大伽藍の中央にいるかのような錯覚にとらわれる。そして、その中心窓には、優しく青い光を放ちながら夜空に浮かぶ連星の姿があった。恐らくこの星の最も美しい景観を求めたに相違ない。
 スターシアは我を忘れて、宇宙海に浮かぶ見事な蒼星を見つめた。目にしみいるような青い輝きだった。
「私はあの星をスターシアと名づけたのだよ」
 不意に背後から低い声が響き、スターシアは振り返った。
「君が受け継いだ母上の名前だ」
 軍服姿の長身の男性が、壁にもたれるようにして立っていた。
(この方が・・・)
 身内が、震えた。
 彼の全身からかもし出される威圧感に圧倒され、スターシアは一言も発することができなかった。
 はりつめたような少女の表情に苦笑しながら、
「どうした? 私はそれほど恐ろしい様子をしているのかな」
「いいえ・・・いいえ。どうかお許しください」
 デスラーの目に写ったのは、ほっそりとした体躯の、まだどこかあどけなさの残る面立の少女だった。その瞳は彼女の母親とは異なり、優しい淡い青色をしている。
「突然のことでさぞ驚いたことと思う。だが、一度来君とはゆっくりと話してみたかった」
 デスラーの口調はどこまでも穏やかで、さしものスターシアも、ようやく緊張をといたようだった。

 









りょうちゃん
2001年08月11日(土) 23時33分55秒 公開
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をを、ついに宿命の再会が!!早くつづきを!!(笑)マジで期待してます。 長田亀吉 ■2001年08月13日(月) 21時39分06秒
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