第6章 予感
  もう当に夜半は過ぎているだろう。 
 眼下の都市も、官庁街以外は光もおぼろだ。
 小姓が飲み物を用意して退出した後、室内には静寂が満ちた。
 デスラーはソファにゆったりと腰を下ろし、スターシアを真向いに座るよう指し示した。
「体調はどうか? 一頃よりは大分顔色も良くなったようだが」
「恐れ入ります。今ではもう、すっかり回復いたしました」
 その邪気のない青い瞳にまっすぐ見つめられた時、デスラーの身内を曰く言いがたい感覚が一瞬駆け抜けた。
 彼女の背後に、ふいにイスカンダルの、あの緑濃い針葉樹林の森が垣間見えるような思いがしたのだ。
(やはりこの少女は、まぎれもなくスターシアの血を・・・)
 しかし、彼女が決して女王の現し身ではなく、17歳の少女としての人格を持ち、明らかにその母親とは異なる気質の持ち主だということは、ほんの数言、言葉を交わしただけでもわかった。
 スターシアの少女らしい仕種の一つ一つ、決して饒舌とは言えないが、言葉を丹念に選ぶようにして話す様子、思わず笑みくずれた時の年相応のあどけなさ、その全てが、デスラーにとっては好もしいものに思えた。
「故郷の地を覚えているか?」
 デスラーの問いに対し、少女はかすかに首をふった。
「そうだな。ゴルバとの戦いの時、君はまだほんの赤子だった」
 女王が残した今一人の娘サーシャは、明るく闊達で、陽の光がよく似合う健やかな少女だったという。
(スターシアと二人揃えば、花のような姉妹になったものを。今さら望んでも詮のないことではあるが・・・)
 若くして逝った彼女の姉のことを思うと、今眼前にいるスターシアだけは、何としても恒久の平和の中で幸福な生を全うしてほしい、とデスラーは密かに思う。
(その為の助力ならば、私は少しも惜しまないだろう)
 今の彼にとっては、そうすることが非業の死を遂げた女王への、せめてもの罪滅ぼしにすら思えたのだ。
 その時、室内にインターコムが鳴り響いた。恐らく、定時の戦況報告だろう。デスラーは苦笑しつつ、ゆっくりと立ち上がった。
「もっと語り合いたいのだが、どうやらそうもゆかないようだ。今夜はこれで失礼するよ、スターシア」
「はい」
 少女は頷き、デスラーを見上げる。
 次の瞬間、デスラーは静かに手をのばし、そっとスターシアの頬にふれた。その肌が、わずかに上気しているのが感じられた。
「くれぐれも体を厭うように。又会える時を楽しみにしている」

 
  
りょうちゃん
2001年08月22日(水) 01時34分19秒 公開
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■作者からのメッセージ
こんにちわ。
御声援ありがとうございます。皆様の声が、ホント、励みになります。うれしいっす。
えーと、このお話の設定は、『ヤマトIII』の世界です。(だと、思います・・・)でも性格的にかなりおおざっぱなので、時空がワープしてしまうかもしれませんです。わはは。
どうかこれからもよろしくお願いします。

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