第8章 葛藤
「いや、しかし待ってくれ。それは一体どういうことだ、デスラー?」
 モニター越しの古代は、明らかに狼狽していた。
「聞いての通りだ、古代。先ほどの医師団の説明通り、スターシアの生理基準値は、地球よりもガルマンガミラスでの環境下に在った方が、全てにおいて良好な値を示している。彼女の将来を考えれば、地球に戻すことが得策とは到底思えぬ」
「だが・・・」
 古代は大きく天を仰ぐようにして首をふった。
「確かに君には深く感謝している。重体だったスターシアを快癒させてくれたことについては、どのように言葉を尽くしても足りるものではない。しかし、それとこれとは別問題だ。彼女は生まれてこの方、ずっと地球人として生きてきた。今急にそのようなことを言われても、ここで返答するわけにはいかない」
「・・・そうだろうな」
 デスラーは目を閉じた。
「だが、冷静に考えてほしい。全ては彼女の生命を守る為なのだ」

 通信が切れた後、ヤマト艦橋内には静寂が満ちた。
 惑星ファンタムに向かう航路上での、突然のデスラーからの申し出であった。
 沈黙を破ったのは島だった。
「俺は反対だ、古代。スターシアはやはりヤマトに戻すべきだよ。ガルマンガミラスは今だ戦乱の治まらない地だ。いつ戦闘に巻き込まれるやもしれない」
 南部が続ける。
「私もそう思います。あのように政情の不安定な軍事国家で、スターシアが幸福になれるとは思えません」
「地球が彼女の生理に合わないというのなら、イカルスやガニメデ、他にも地球の衛星に移住先を見つければよいことでは?」
 相原が静かに言った。
 ヤマトクルーの中には、今だにデスラーとガルマンガミラスに対して強い反感を持つ者が大勢いたし、今回彼女を帝国に抑留してきた古代の判断に異議を唱える者も多かったのだ。
 そもそもヤマト内でのスターシアの立場は戦闘員ではなく、医局員であったけれど、多忙な森ユキに変わって、佐渡医師をよく補佐していた。その冷静沈着な判断力と、技術の確かさ、温厚な人柄も相まって、クルーの中では非常な信頼感を勝ち得ていたのである。
 大方の乗り組み員は、彼女がイスカンダルの血を引いていることなど知らなかったし、又そのような事実があったとしても、今の彼等には全く頓着はなかったであろう。
 様々な意見が交わされる中、しかし佐渡医師と、かつてサーシャをイカルスで育てた真田だけは、沈痛な表情のまま、終始無言だった。
「とにかく・・・今のままでは結論など出せない。しばらく時間が必要だ」
 古代はいつになく焦躁した面持ちで呟いた。
りょうちゃん
2001年08月24日(金) 20時10分50秒 公開
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第1章から一気に読ませていただきました。スーッと読めるしドキドキするしで、これからの展開を楽しみにしていまーす!! ひろちゃん♪ ■2001年08月27日(月) 04時19分50秒
うん、佐渡先生のシリアスなシーンはお気に入りです。 長田亀吉 ■2001年08月25日(土) 00時05分57秒
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