第13章 発端
「総統。2時間前に、ヘルマイヤー少佐の工作船が惑星ファンタムに向けて出立いたしました。航路は順調、あと2度程のワープで到着する予定です」
「うむ」
 キーリングが入ってきた時、デスラーは小姓に手伝わせて身支度の真最中だった。
「どのような手段を講じてもかまわぬ。徹底的に調査せよ」
「は」
 デスラーの口調は険しく、その表情は不興気に引き歪んでいた。
 帝国の観測ステーションが発見した惑星ファンタムに向けてヤマトが出航したのは数日前のことである。
 しかし、その後の古代からの報告は驚愕するべき事実ばかりであった。
 聞けば、ファンタムはあたかも地球そのものであるかのように、全てのデータが酷似しているという。それだけならば喜ばしい事実だったが、乗り組み員の全員が、地上で幻影を見た、という報告を聞くにいたっては、さしものデスラーも慄然とした。
 過日、ガルマン・ガミラス帝国が試みた地球の太陽制御作戦はことごとく失敗に終わった。ヤマトと地球の眼前で、不様な失態をさらしたのである。
(それだけでも許しがたいことだというのに・・・)
 何としても、今回の一件では帝国の面目を躍如しなくてはならない。再びの失態などということが、決してあってはならないのだ。惑星ファンタムの真実の姿を見極めない内は、デスラー自身も安穏としてはいられない。
「スターシアさまがお見えになられました」
 だが、イローゼに伴われたスターシアが入室してくると、デスラーの表情は目に見えて和らいだ。
 今夜の彼女の出で立ちは、肩を大きく出した正装のイブニングである。光沢のある真珠色の綺穀を使ったタイトなシルエットのものだったが、それが一層少女の華奢な体躯を優美に引き立てていた。まだ朝露の残っているかのような、みずみずしいカリンカの花を髪に編み込み、うっすらと化粧を施されたその表情は、実年齢よりも大人びてみえる。
「美しい」
 デスラーは満足気に目を細め、冷静な賞賛の言葉を口にした。
 スターシアは腰をかがめて深く頭を下げ、しかしその表情は堅く、どこか気づかわしげであった。先程のキリエの言葉もまだ生々しいままに、当の総統自身と対峙せねばならないことは、今のスターシアにとって責め苦にも等しかった。
 だがデスラーは、彼女の堅い表情を、緊張のあまりの強ばりと捉えて、
「案ずることはない。今宵の君を目のあたりにすれば、皆一目で納得するよ。何故私が君の後見を引き受けたか、ということを」
 日頃の彼には珍しく、軽口さえたたきながら、デスラーはスターシアの手を取った。

 既に、ガルマン・ガミラス宮廷には、イスカンダル女王の忘れ形見の出自と、その数奇な運命については知れ渡っている。
 彼女が総統の後見を受けるに足る人物であるか否か、大広間に集う人々の視線には、単なる好奇心以上に、まずスターシアを値踏みしようとするかのような、あからさまなものさえ感じられた。
 総統に伴われ、スターシアがゆっくりと姿を現した時、人々の間からかすかな、しかしおさえきれないどよめきがもれた。
(おお)
(何と、まだほんの少女ではないか)
(ごらんになられたか、あの髪と肌の色を。あれがイスカンダル人の・・)
 人々の目にうつったのは、あたかも一輪の白い花を思わせるような、どこかまだあどけなさの残る一人の少女だった。
 17歳と言う若さでただ独り、この異国の宮廷に身をおくことを決意した彼女に、どこかいたましささえ感じた者も、少なからずいたかもしれぬ。
「諸君。ここで改めて紹介しよう。イスカンダル王家の遺児スターシアである。かつて彼女の母星イスカンダルと我がガミラスとは双児星であった。この度様々な仕儀あって、彼女を我がガルマン・ガミラスに正式に迎え入れる事となった。どうか見知りおかれたい」
 ここでデスラーは一瞬言葉を切り、傍らのスターシアを愛おし気に見下ろした。
「今は単なる後見人であるが、いずれ折を見て、養女としての正規の縁組みを果たす心算でいる」
 スターシアは、瞬時に顔色を失った。
(養女とは!)
(総統も又、思いきった御発言を)
(しかしあの少女に、それほどの政治的な価値があるというのか?)
(最早時の彼方についえ去った惑星など・・)
(しかし、平和裡に帝国の販路を広げる為には希有な人材とも言えるのではないか。政略の駒には十分なり得る)
 人々の間に様々なざわめきがもれる。
 だが、当のスターシアには、周囲の言葉など全く耳には入っていなかった。
 それほどまでに、デスラーの言葉が彼女には俄には信じがたく、身内を突き抜けるような大きな衝撃であったのだ。
 一体今、総統は何と言われたのか?
 眼前の幾多もの眼差しが、いっせいに自分に突き刺さってくるような錯覚を覚え、大きな目眩がスターシアをとらえた。


りょうちゃん
2001年11月09日(金) 21時22分04秒 公開
■この作品の著作権はりょうちゃんさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
連ちゃんでこんばんわ。
刻一刻と寒さが増してますが、冬眠してしまいたくなる今日このごろです。ところで皆様!新生ヤマトが来年テレビ放映されるというお話、知ってますか?
ほんとにほんとなんでせうか。(何度かぽしゃってるし。)でももしほんとだったら、うれしいのだけど。
えーと、ここらへんでオリキャラがぽこぽこ出てきてますので、ちょっと御紹介。

イローゼ
 推定年令25才くらい。もとはガルマン民族の出。持ち前の美貌と伶俐さでデスラーの目にとまり、侍従長までとんとん拍子の出世。砂色の直毛の髪、黒い瞳のナイスバディ。イメージとしては、『永遠に』のサーダ女史が一番近いかな。どっちにしても、敵にまわすとこわいタイプかも。でもあんまりお友達にもなりたくないなあ、という感じ。

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人物解説のコメントは親切でいいですね。一気にイメージがさらに具体化します。新ヤマトについては(ぴー)なんですよ、ええ。それはともかく、スターシャの運命が気になります。幸せになって欲しいなあ。でも、悲劇もよんで見たい(どっちやねん)。これからも期待してます。 長田亀吉 ■2001年11月10日(土) 10時59分49秒
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