第17章 波乱
 だが、スターシアには、尚もデスラーに問わねばならないことがあった。ずっと心に重くのしかかっていた疑問の答えを正せる時は、今しかなかったのだ。
「信者の一人を自ら断罪されたと伺いました」
 自ら問いかけておきながら、しかしスターシアは、次にくるであろう総統の言葉を聞く事を、心底恐怖した。
「事実だとしたらどうする? 私を責めるかね?」
 だが、ややあって答えたデスラーの語調は平静そのものであり、その瞬間スターシアは、キリエの言葉が、まぎれもない真実であった事を確信した。
 はりつめた、奇妙に緊張した沈黙が流れる。
 その時、緊迫した表情のタランが慌ただしく駆け込んできた。
「何事だ、タラン」
「総統! ヤマトの古代艦長からホットラインが入っております」
 その表情がさしせまっているのを見て取り、副官の不粋を咎めることもなく、回線を繋がせた。
 次の瞬間、パネルに懐かしい叔父の姿が現れ、スターシアは思わず立ち上がった。だが、彼は総統の傍らにいる姪の姿には全く気付かぬほどに、切迫した険しい表情をしていた。
「デスラー総統! 何故あのような無法な命令を下したのだ!」
「無法な命令?」
 デスラーは意外そうに聞き返す。
「何故惑星ファンタムを破壊したのだ? あの星を滅ぼすような理由など、全くなかったはずだ!」
(ファンタムを・・破壊?)
 スターシアは耳を疑った。
 一瞬目の前が揺らいだ。その激しい動揺を見てとったタランが、思わず手をさしのべかける。が、それには目もくれず、デスクに手をつき、辛うじて身をささえる。 
 だが、次のデスラーの言葉は、スターシアには到底信じ難いものであった。
「それはどうかな、古代。惑星ファンタムは、私と我がガルマン・ガミラスに泥を塗った不埒な星だ。私にはそれが許せなかったのだよ」
「そんな馬鹿な・・ただそれだけの理由で、一つの星を消したのか?」
「それだけで十分ではないか。他に理由など必要無い」
 その時、スターシアの身内で、何かが激しい音をたてて崩れ落ちていった。
 二人の激しいやりとりは、なおも続いていた。が、最早少女の耳には、懐
かしい叔父の声も届いてはいないようだった。両腕を固く組み合わせ、叫び出さないように、自らを必死でおさえる。
 今、眼前にいる人間は、この上ない欺瞞に満ちた、残酷無比な統治者以外の何者でもない。かつて一瞬でも彼に心を許した自分自身を、スターシアは激しく嫌悪した。
 古代との通信をようやく切ったデスラーが見たのは、強ばり、青ざめた表情で、じっと自分をねめつけている少女の姿だった。
「何という・・何という非道なことを」
 スターシアは悲憤のあまり蒼白になり、小刻みに震えていた。
「シャルバート教の弾圧のみならず、惑星ファンタム破壊の命を下されたとは、尋常の沙汰とは思えません!」
 苦悶のあまり、あえぐように言う。
 デスラーの目が細められ、鋭い光を帯びた。
「スターシア。今の言葉は如何な君と言えども聞き捨てならぬ。一体自分が何を言ったのか、理解しているのかね?」
「無論です」
 スターシアは総統の厳しい眼差しを、臆した風もなく真っ向から受け止めた。
「貴方はガルマン・ガミラスに神は二人も不要だと言われました。しかし、人は決して神にはなり得ません。たとえどれほど全能の力の持ち主であろうと」
「スターシア様!」
 狼狽したタランが、尚も言いつのろうとするスターシアを押しとどめようと、前に進み出る。彼がひたすら危惧していた事態が、今まさに眼前に在った。が、総統の射るような視線に気捺され、そのまま引き下がってしまった。
「力は力によって滅ぼされるものです。武力の上に成った平和など、脆く崩れやすいもの」
 緊張した面持ちのまま、しかしスターシアは断固として言い放つ。あのどこかいたいけでさえあった少女の何処に、このように激しい一面が隠されていたのか。彼女の中に脈々と流れているであろう女王の血を、タランは今さらながらのように確信した。
「言いたいことはそれだけかね?」
 今やデスラーは微動だにせず、無気味な程に落ち着きはらっていた。その見開かれた目は無表情に凍りついている。
 そのような容貌をしている時の総統の冷酷無慈悲さを心底知り抜いているタランは、思わず戦慄した。
「・・覚悟はできております」
 押し殺したようなスターシアの声が室内に響く。
「よいだろう」
 総統の合図と同時に、スターシアの背後に二名の衛士が足音もなく歩み寄った。
「スターシアを自室へ。私からの沙汰があるまで、何人たりとも部屋を通してはならぬ」
「はっ」
 少女は無言で唇を噛み締めた。
りょうちゃん
2001年11月16日(金) 01時51分30秒 公開
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■作者からのメッセージ
 どもどもー。
お元気ですか?
なんか怒濤の勢いで書いてますが、基本的には12章くらいからの1連のエピソードは、ひとくくりにしてもいいかな、ぐらいの感じでした。でも書き続ける根性がないので、分けたのですけども。
ここから先が岐路になるのかどうかというのは、ちょっとわかりませず、みなさんはどういう展開を望まれますか?
なんて、無責任ですね。

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なんかすっご〜い展開。異色の宮廷ドラマを見ているようです。ローマ帝国や鎌倉時代やベルサイユ…いろんな時代や背景とだぶります。ヤマトの世界も超越してるかも…。 Alice ■2001年11月16日(金) 09時28分11秒
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