第21章 真実
  デスラーが艦隊を率いてスカラゲック星団に到着した時、先攻していたボラ−艦隊は、すでに異次元空間への侵入をはじめていた。
「ボラ−にシャルバートの武力を渡してはならぬ。急げ!」
 新型デスラー艦の能力いっぱいに速度をあげ、なだれこむように異次元空間へと突入する。空洞の光と陰のゆらめきをくぐり抜けると、宇宙はようやく通常の状態に戻った。そして、眼前には、淡く青い光を放つ美しい惑星が現れた。
「あれがシャルバート星か」
「地球によく似た、美しい形状をしておりますな」
 タランが感じ入ったように呟く。と、その時、シャルバート星の地表から、小さな光が炸裂するのが見えた。
「ボラ−のミサイルか?」
 光はいくつもシャルバート星の地上に生まれ、それらが一つになって、みるみるうちに広がってゆく。
「艦をシャルバートの大気圏内に突入させろ! ボラ−を追撃する! 」
 デスラーの怒号が艦内になり響いた。
 
 ボラ−艦隊との激しい攻防戦が終わった後、ようやくシャルバート星の地表に降り立ったデスラーが目の当たりにしたのは、牧歌的ともいえるほどの、あまりにものどかな田園風景だった。
 案内された宮殿は土作りのひなびたもので、あたかも未開種族の王宮に招かれたかのような錯覚に捕われる。
「これが、伝説に残るシャルバートの帝都とは…一体この星の何処に、全宇宙を震撼させたという武力があるというのでしょう」
 ただ独り、伴ってきたタランが、驚愕を禁じえないかのように呟く。
「先ほどの戦闘でも、全く戦意を喪失した惑星としか思えませんでしたが…」
 激しいボラ−の追撃の前に成すすべもなく、次々と倒れてゆくシャルバート人たちの姿が、デスラーの脳裏にも生々しく焼き付いている。戦闘要員と思える若い男性すら、全くの丸腰であり、幾多もの戦を経てきた彼にとってそれは、およそ信じ難い光景であった。
(一体シャルバートとは、どのような惑星なのだ…)
 デスラーの疑念は膨らむばかりであった。
 
 正面に古代の姿を認めると、デスラーは背後の腹心に向かって振り返った。
「タラン。ここで待て」
「はっ。しかし…」
「案ずるな。古代が共にいるのだ。万が一、不逞の族がいたとしても、ここではさほどのこともあるまい」
 なおも気づかわしげなタランを後に残し、デスラーは王宮の壇上を上り始めた。
 
「デスラー。シャルバート星のルダ王女だ」
 彼の目の前に立ったのは、腰まで届く豊かな栗色の髪と茶水晶の瞳を持ち、簡素なうす青い衣を纏った、独りの少女だった。年の頃はスターシアとさほど変わらないだろうか。その清楚なたたずまいはどこか、彼が母星に残してきた少女を彷佛とさせた。けれども、スターシアの瞳が、いつもどこか夢を見ているかのような淡い眼差しをしていたのに対し、 王女のそれは、凛然とした強い光を宿しており、生まれながらに民を統べる立場にある者の誇り高さを伺わせた。
 王女は優雅な仕種でデスラーに向かって一礼し、彼等を王家の谷に案内すべく、先に立って歩き出した。
 
 だが、王家の谷に一歩足をふみ入れたとたん、さしものデスラーも驚愕を抑えることができず、その場に立ちつくした。
 プロトンミサイル、ハイペロン爆弾、ガルマンガミラスの最新鋭を誇る兵器さえ圧倒するほどの、様々な超化学兵器群が、そこに整然と並んでいたからである。
(これは、一体…)
「あなた方は、これほどまでの兵器を持ちながら、何故、先ほどのボラ−の侵略の際には一切戦闘をしなかったのです?」
 デスラー同様に、驚きをかくせなかった古代が、思わず王女につめよった。これだけの装備が揃っていれば、先刻のボラ−艦隊など、一網打尽にできたはずだ。残されたわずかな戦力で、シャルバートを守る為に必死の攻防を続けたヤマトは、最早疲弊しきっている。古代が憤るのも当然かと思われた。
 だが、デスラーの思いは、彼とは又別のところにあった。
(これほどの軍備があれば…全銀河を制覇することなど、いとも容易いはず。しかしなぜシャルバート人は、このような辺境で、原住民さながらの生活に甘んじているのだ?)
 そのようなデスラーの思いを見すかしたかのように、王女は嫣然とほほえみながら言った。
「シャルバート人は、戦うことを放棄したのです」
「放棄?」
「たしかにかつて、我がシャルバートは、これらの兵器を駆使し、銀河系に君臨していました。宇宙には、未だにそのころのシャルバートの力が伝説となって、救いを求める信者が大勢います。しかし、わたくし達は気付いたのです。これらの武力を行使して戦をし、領土を拡げたところで、恒久の平和などというものは訪れないのだ、ということを。以来わたくしたちは、武器をこの王家の谷に、永久に葬り去りました」
「しかしそれ故に、敵の侵略を受けてシャルバートが滅びてしまったら…何にもならないではありませんか」
 だが、王女はゆっくりと頭をふった。
「よいのです。たとえ、わたくし達は滅んでも、その意志は、銀河系の中に伝え残るでしょう。そしていつか、第2、第3のシャルバートが、この宇宙に誕生してくれれば…」
 淡々と語る王女の言葉が、デスラーの中で、いつしかスターシアの声と重なっていった。その脳裏に再び、先頃のシャルバート人達の姿が、生々しく蘇る。
(我が身を盾としてまで、民族の意志を貫く、ということか… ) 
 確固たる意志に裏打ちされた王女の言葉には、戯れ言と一笑に付すことはできない、確かな重みがあった。

「デスラー。一つだけ、言っておきたいことがある」 
 別れ際、古代は意を決したようにデスラーを見つめた。
「スターシアは最早君に託した身の上だ。今の僕が何を言う権利もないことはわかっている。だが…」
「何だ?」
「たとえ、どのような場で生きることになろうとも、彼女の心根はイスカンダル人のものだ。それは決して変えることのできない真実なのだということを…」
 デスラーは、手を上げ、それ以上の彼の言葉を止めさせた。古代が一体何を危惧しているかということは、既に十分すぎるほどに理解していた。
「シャルバート人の生き様を目の当たりにして、私も大いに得るものがあったよ、古代。私を、信じてほしい」
「そうか」
 古代は、ようやく安堵したように表情を緩めた。
「スターシアのことを、どうかよろしく頼む」
 その声音には、別れた姪に対する、限り無い愛情に満ちていた。

「タラン」
「は」
 ガルマンガミラスに帰還途中の艦上である。
 王家の谷より戻って以来、ずっと沈黙を守っていた総統が、ふいに口を開いた。
「帝都に到着次第、すぐにキールへ向かう。準備を頼む」
 タランの面が、さっと色めきたった。
「はっ」
(それでは、いよいよ、御裁断を…)
 王家の谷で、総統が何を見、そして古代とどのような会話を交わしたのか、もちろんタランが知る由もない。
 気づかわしげに、タランは主の横顔を見つめたが、今度こそ彼は目を閉じ、完全に己が思考の中に埋没してしまったかのようであった。
りょうちゃん
2002年02月10日(日) 21時27分32秒 公開
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■作者からのメッセージ
どもどもー。
大変ごぶさたしておりますー。
秋から冬になり、またお座敷ブタさんになってしまう季節がやってまいりましたですね。
(それは私だけ?)
えーと、又この場にくる事ができまして、
望外の喜びでございますー。
「ヤマト3」にリンクしつつも、著者の勝手な思い込みも多分に入っていますが、又呼んで頂けたらうれしいです。
ではでは!

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呼びます、呼びます(笑)今回も素晴らしい出来ですね。お話作りには、その人の思いが素晴らしい調味料になりますよね。シャルバートとイスカンダルの重ね方が絶妙です。 長田亀吉 ■2002年02月10日(日) 22時43分07秒
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