第98話「本音」
 とんとん…「艦長、起きてらっしゃいますか!艦長!!」
 ヤマト艦長室前で、今日もひとりの剃りこみ男が叫んでいた。
 ヤマト艦長沖田は、仕方なく、ベッドから起き上がり、リモコンでテレビを消した。「技師長め、わしがエッチなビデオをみとるときにノックしやがって」と、沖田は苦々しく思いつつ、衣服を整え、「どうぞ」といった。真田技師長は、相変わらずハイテンションで部屋に入りこんできた。「真田工場長、入ります!」無用にきびきびしている。また、変なくすりを発明してハイになっているのだろう。
「どうしたのかね、真田君…」
 沖田は、聞いてやる。すると、真田は目をらんらんと輝かせていうのだった。
「艦長、佐渡先生に伺ったのですが、随分ストレスがたまってらっしゃるようですね。艦の指揮を取る人がそれでは困ります」
「それで?」
「そこで、『こんなこともあろうと』一刻も早くこの状況を打開すべく、開発したのが、こいつです!」 
 真田は、23世紀なのに、青焼きの丸めた図面を艦長室のテーブルに広げるのだった。ぷーんと青焼きの匂いがした。沖田は、この匂いをかぐのはアステロイドシップ計画以来何度目だろう、と述懐した。そして、「これは?」と聞いた。
 真田は、風呂敷の中から、人形を取出した。
 真田そっくりの木で出来た人形だった。
 そして、目を閉じながら、自信ありげに答えた。
「本音排泄装置、です。彼、が私の本音を吐き出してくれて、私はすっきりと仕事が出来ています」
「ほう」
 沖田は、ちらと人形を一瞥する。
 真田は「では、試してみましょう」
 真田は「いいかな、小真田くん?」
 すると人形は「いいよ、シローくん」と答えた。

 甲高い声だった。
 沖田は、ちょっとびっくりしたが、やがて、冷静に真田に告げるのだった。
「それは・・・腹話術ではないのかね…」
 真田は「はっ!!私としたことが!!どうして、もっと早く気付かなかったんだ!!」と、相変わらず、ハイテンションで頭を抱えて叫びながら、艦長室を去っていくのだった。
 取り残された「小真田人形」を沖田はじっとみつめた。そして、手にして「こんにちは十三くん」と腹話術で甲高い声を出してみた。「わしもなかなか芸達者だな」…沖田は、「に」と微笑んだ。
 イスカンダルは、まだ、遠い。(おわり)
長田亀吉
2001年07月20日(金) 20時08分05秒 公開
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■作者からのメッセージ
これは自分では良く出来たと思ってます。ネタもきれいだしね(笑)

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