第87話「捕虜その2」
 ドンドン!
「起きていらっしゃいますか?!艦長!」
 今日も艦長室の前で一人の剃り込み男が叫んでいた。
「うるさい奴だな、全く。今日こそは無視しよっと。」
 病人食と言いつつも、ステーキにワインをつけた食事を済ませ、いつものエッチビデオも観てすっかり色々満足した沖田は、毛布を頭まで被ろうとした。が、帽子が邪魔をして上手くいかなかった。クスリでハイなのか、真田は相変わらず廊下で叫んでいる。
「おのれ、いまいましい技師長め!」
 沖田は諦めてつぶやいた。
「入ってよ・・」
 沖田が「し!。」まで言い終わらぬうちにドアが開き、眼をらんらんと輝かせた真田技師長が駆け込んできた。沖田の心穏やかな夕べのひとときもこれで台無しである。
「艦長!昨日のガミラス捕虜に対する山田の行為についてでありますがっ!」
 真田はどうやら山田のことをあまり良く思ってないようである。
「肉体的に苦痛を与えることは、原始的で野蛮な行為でありますっ。そこで私は、身体に苦痛を与えること無く捕虜の忠誠心を奪い、自白させる装置を開発いたしましたっ!!」
「ふーん、そうか。では一つ、見せて頂くとするか。」
「はっ!有り難うございます、これでありますっ!」
 彼は密に背中に括り付けていた風呂敷包みを、沖田の足元の床に置いた。少し震え気味な手で真田はせわしなく包みを開いた。
「こっ、これは・・・。」沖田は絶句した。

 沖田の驚いた顔を見て、真田は得意満面で説明を始めた。
「捕虜の足元にこいつをセットするんです。嫌がったら、ちょっと肩を押すとかして。で、この上に乗ると脳にある種の作用が働き、一種の諦めにも似た感情が生じ、自分が守ろうとしているものは何だったのかという疑問も生じっ」
「これは踏み絵じゃないのかね?」
「はっ?今、何とおっしゃいましたか?」
「これは江戸時代の踏み絵とは違うかね?と言っておるんだよ。」沖田は辛抱強く言った。
「はっ・・そう言われれば確かに・・・・・。わ、私としたことが、どうしてそんなことに気付かなかったんだーっ!」
 真田は入ってきた時と同じ様に、物凄い勢いで出ていった。

「やれやれ。」沖田は足元に置かれた、銅板に彫られたデスラーの顔を見下ろした。
「ふうーん。」ちょっと、上に乗ってみた。気分がよかった。
「なかなか上出来だな、これは。」

 イスカンダルはまだ遠い。(おわり)
2001年07月20日(金) 20時09分49秒 公開
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■作者からのメッセージ
文庫より転載。鯛さんは、本当に良作をたくさん投稿してくれました。感謝してます。(コメントBY長田)

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