まぶたの母 |
とんとん…「艦長、起きてらっしゃいますか!艦長!!」 ヤマト艦長室前で、今日もひとりの剃りこみ男が叫んでいた。 艦長沖田は、仕方なく、ベッドから起き上がり、リモコンでテレビを消した。 「技師長め、いつも、わしがエッチなビデオをみとるときにノックしやがって」 沖田は苦々しく思いつつ、衣服を整えた。 「どうぞ」 真田技師長は、相変わらずハイテンションで部屋に入りこんできた。 「真田工場長、入ります!!」 ます!!」 「おわぁーーッ!! サ、さ、真田君!? いったい君・・いやっ、君たちは何だね?」 沖田艦長が椅子から転げ落ちそうになる。 無理もない。 彼の目の前には真田技師長が二人いた。 で、その二人、相変わらず無用にきびきびしている。 どうせまた、変なくすりを発明してハイになっているに違いない・・。 「いやぁ、申し訳ありません。実はここん所 忙しくて、忙しくて。 ネコの手も借りたいほど忙しかったものですから。 つい、自分のクローンを作ってしまいました。 と、いうことで。 レッツ・ミュージック、スタート!」 ♪♪テケテンテケ♪テンテケ♪テレツクテンテン♪♪ 「どぉ〜もぉ〜〜 『真田・ドッペル』でぇ〜す!」 「どぉ〜もぉ〜〜 『ゲンガー・志郎』でぇ〜す!」 「「「ふたりあわせて、『真田・ドッペルゲンガー・志郎』でぇ〜〜す!」」」 【現在、ステレオ式音声多重放送でお送りしてます】 アホかっ! おのれらぁーーーーっ!!! 「コラッ!売れない漫才師みたいに左右から出てきて“決めポーズ”までとるんじゃないっ! ・・いいかね、真田くん・・いや、真田君たち。 私だって忙しいんだ。いったい何の用だね?」 沖田は、聞いてやる。 すると、真田(たち)は目をらんらんと輝かせていうのだった。 「よくぞ聞いてくれました。 が、その前に。 私は仕事がありますので、これで失礼します。 もう一人の私、後は頼んだぞ。アディオス・アミーゴ!」 真田がチャオ、と手を振りながら部屋を出て行った。 「・・で、真田くん・・」 「お待ちください。私は『ゲンガー・志郎』の方なんですが・・」 「・・そ、そうか、志郎君。で、どんな用件かな?」 「実は最近、長い航海のせいで乗組員たちの多くがホームシックに罹っています。 ですがイメージルームで心を癒(いや)そうにも、予約がいっぱいで順番【一ヶ月待ち】という、ひどい状態です。 そこで、『こんなこともあろうかと』、密かに開発しておいたのがこの目薬なのです」 真田はポケットから薬ビンを取り出した。 「注(さ)せば目薬の成分が脳の記憶中枢を刺激し、目を閉じれば自然と脳裏に母親の姿が浮かび上がって心を癒してくれる優れもの。 名づけて、『瞼(まぶた)の母X』っ!」 「・・・・(ー_ー#)」 沖田は頭を抱えてしまった。 ふ・・古い、ネーミングのセンスが古すぎる・・。 今どき、長谷川伸の『瞼の母』を知ってるのは、健康ランドで大衆演劇を見る爺さん婆さんぐらいのものだ。 「・・しかし、志郎君。 本当にそんなことが出来るのかね?」 「フフフッフ・・ご心配なく。すでに人体実験は済ませてあります」 ウォ〜ん。ウォ〜ん。ウォ〜ん。 突然警報が響くと、スピーカーから声が流れ出した。 『艦長!こちら格納庫! 大変です。 相原通信班長が外へ出ようと大暴れしてます!』 『は、離せェーッ 離してくれェ〜〜。 地球に帰るんだぁ〜〜 お母さんが目をつむると見えるんだァ〜〜 お母さんの身に何かあったに違いないんだァ〜〜〜〜』 ・・・お、鬼ィーーーッ!!! よりにもよって、マザコン気味の相原を実験台にするなっ! 「どうです? 効き目充分でしょう?」 「あ〜の〜なぁ〜〜(怒) ・・心を癒すどころか、ホームシックを重症にさせとるじゃないか! こんな薬、危なくて使えるかっ!」 「う〜ん。効き目が強すぎたか。しかし、『こんなこともあろうかと』用意しておいた次の薬、この『瞼の父Z』ならどうだ!」 ウォ〜ん。ウォ〜ん。ウォ〜ん。 『艦長、大変です!戦闘班長が暴れています!』 『ええいっ、離せェっ! 父さん、危ない!そっちには遊星バクダンがぁ〜〜〜〜』 「・・今度はこの『瞼の弟DX(デラックス)』で・・」 ウォ〜ん。ウォ〜ん。ウォ〜ん。 『艦長、大変です!航海長が暴れています!』 『ああっ、次郎ぉーッ! 今、お兄ちゃんが助けに行くぞっ!!』 「・・では、とっておきの品『瞼の孫G(ゴールド)』を・・」 ウォ〜ん。ウォ〜ん。ウォ〜ん。 『こちら機関室! 大変です! 機関長が(以下略・・・』 『アイ子〜〜 アイ子ぉ〜〜〜〜(以下略・・』 「よ〜し♪ ついでに、この『瞼のネコS(スーパー)』で佐渡先生もホームシックにしちゃえ♪」 「こらこらこらぁーーッ! なにげに目的が変わってるぞ、真田君。 乗組員を片っ端からノイローゼにしてどうする! 君はガミラスの破壊工作員か? とにかく、その薬は使用禁止だ。持って帰りたまえ!」 ちぇっ、つまんないの。と、艦長室からつまみ出された真田は、アナライザーと出くわした。 「おおっ! 良い所に来た、アナライザー。この目薬を捨てといてくれ」 「勘弁シテクダサイ、技師長。私ハ忙シインデス。ソレグライ自分デヤッテ下サイヨ」 「そう言わずに頼むよ。 そうだ、お前にこれをやろう。『瞼の森雪XXX(トリプル・エックス)』だ。 この目薬を注して瞼を閉じれば、いつでも好きな時に森君のエッチな姿が見れるぞ」 「・・・・(ナンデソンナ物、持ッテルンダ?)」 かすかな疑問が浮かんだものの。 ネコにカツブシ、アナライザーに森雪。 一も二もなく目薬を引き受けると、上機嫌で医務室へ戻り、さっそく薬を自分に振り掛ける。 一時間・・二時間・・三時間・・、何も起きない。 さすがにアナライザーも気がついた。 「アノ〜 佐渡センセイ。ろぼっとニ、『マブタ』ハアルンデショウカ?」 「あるわけないじゃん」 「・・・☆*♂♀$ッ!!!」 アナライザーは、その日ほんの少しだけブルーだった。 |
ぺきんぱ
2003年06月01日(日) 03時45分16秒 公開 ■この作品の著作権はぺきんぱさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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「瞼のxxx」は別に珍しい言葉でも何でもないのに、それをここまで膨らませる、その手腕というか、発想がすごい!笑わせる話っていうのは、文章もさることながら、アイディアが命だと思います。すごく楽しい発想ですね。母、父、弟ときて、孫!あっはっはっはっは! | Alice | ■2003年06月03日(火) 08時50分47秒 |
ひとりひとりの場合をきちんと考えて、最後にアナライザーで落とす!!素晴らしい!! | 長田亀吉 | ■2003年06月02日(月) 23時41分15秒 |
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