第659話「無限のパラレルワールド」
 とんとん…「艦長、起きてらっしゃいますか!艦長!!」
 ヤマト艦長室前で、今日もひとりの剃りこみ男が叫んでいた。
 ヤマト艦長沖田は、仕方なく、ベッドから起き上がり、リモコンでテレビを消した。「技師長め、わしがエッチなビデオをみとるときにノックしやがって」と、沖田は苦々しく思いつつ、衣服を整え、「どうぞ」といった。ヤマト艦長に復帰する前は、彗星が襲って来ようが、地球に金隠し爆弾が打ち込まれようが、誰にも邪魔されず、個室でエッチなビデオを見られたのに。復帰したとたん、またこの男か!沖田は眉間にしわを寄せた・・・。
 真田技師長は、相変わらずハイテンションで部屋に入りこんできた。「真田工場長、入ります!」無用にきびきびしている。また、変なくすりを発明してハイになっているのだろう。
「どうしたのかね、真田君…」
 沖田は、聞いてやる。すると、真田は目をらんらんと輝かせていうのだった。
「艦長、今回のご復帰お祝い申し上げます。前任の古代艦長は私の提案を受け容れてはくれるのですが、そこに理解は無かった。私のアイデアの価値を真に理解した上で考慮いただけるのは艦長だけです!」
「をを、そうか」
 沖田はまんざらでも無い。実は画面に出てこない女性クルーは艦長が古代から沖田に代わったと聴いた瞬間からテンションが下がっていると佐渡から余計な報告を受け、拗ねていたところだったのだ・・・。
 沖田はいつもより少し優しく真田を観た。
「現在、我々は回遊惑星アクエリアスのワープを阻止しようとしています。場合によっては、ヤマトを自爆させてでも・・・」
「それで?」沖田は聞いてやった。
「そこで、『こんなこともあろうと』一刻も早くこの状況を打開すべく、開発したのが、こいつです!」 
 真田は、23世紀なのに、青焼きの丸めた図面を艦長室のテーブルに広げるのだった。ぷーんと青焼きの匂いがした。沖田は、この匂いをかぐのはアステロイドシップ計画以来何度目だろう、と述懐した。そして、「これは?」と聞いた。
 真田は、目を閉じながら、自信ありげに答える。
「『無限次元事象再実行装置』です!」
「ほう」
「アクエリアスの接近は何としても阻止しなければなりません。しかし、古代はじめ問題の多いクルーを抱えるヤマトには不確定要素が多すぎます。もしものことがあった場合、「その時点」に戻ってやり直すことが必要です」
「しかし、やり直そうと思っても、そういう事態になれば私が艦長として最後まで艦と運命を共にするだろう。やり直しようが無いではないか」
「いえ、この機械はヤマト艦内に本体を設置しますが、起動装置は自分が持っています」
「え?」
「事態の成り行きは自分が責任をもって見極めます。そしてスイッチを押す必要が生じれば、私の体内に組み込んだスイッチで」
「今回はどこに組み込んだんだ」
 真田は恥ずかしそうに照れた。
 沖田は再び気難しい表情になった。
 艦長室内に、微妙な生暖かい空気が澱んだ・・・。

 そして、数日後、ヤマトが自沈準備に入った時・・・。
 真田は「無限次元事象再実行装置」を機関室に取り付けた。レバーが一本増えた。
 機関室に入ってきた古代に見つかりかけた時はひやひやしたが、古代は機関室にどれだけレバーがあるなんて気にしては居なかった。いや、実は徳川や山崎ですら実はそうだった。話数によってレバーの数が変わることなど、ヤマトでは当たり前だ。第一艦橋の窓の数が変わっても皆、冷静に勤務できるくらいだ。
 真田は「俺も手伝うぞ」と古代に云い、無限次元事象再実行装置のレバーをグいっと引いた。

 そして、何度かその装置は機能した。
 最初は、35o番で古代と雪のラブシーンが流れ、悔しかったため。
 改訂して、古代と雪のシーンを削除した!

 さらに数年後・・・大幅にストーリーを改変し、再度リセット。
 しかし、何度やっても気に入ったストーリーにはならなかった。
 しかも、さらにその続編があって、自分が禿ると云うのも納得行かなかった。
 真田は何度も何度もストーリーを再構築するため、装置を機能させた。
 機能させるたびに少しずつ前の時間に遡れるようにもしていった。

 そんなことが積み重なったあげく真田は宇宙の初期、ビッグバンまで歴史を遡ることとした。人類丸ごと真田好みに育てていこうというのである。
 
 沖田「真田君、これは…イデオンではないのかね?」
 霊魂となった沖田が真田にそうつぶやいた。
 真田は「はっ!!私としたことが!!どうして、もっと早く気付かなかったんだ!!」と、相変わらず、ハイテンションで頭を抱えて叫びながら、この次元から、去っていくのだった。
 取り残された「無限次元事象再実行装置」を沖田はじっとみつめた。そして、再びスイッチを入れた。(おわり)
長田亀吉
http://yamatozero.cool.ne.jp/
2007年11月18日(日) 19時20分26秒 公開
■この作品の著作権は長田亀吉さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
ちょっと下ネタに走ってしまいました。
無限事象再生装置は本業であれ、趣味として話を書いてる人であれ、誰でも使っている装置だと思います(笑)。
真田さんは「さらば」と「2」あたりで使ってたかもしれません。

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