プロローグ『不可触惑星(ジ・アンタッチャブル)』




「どうだ。セットできたか。」

 第一艦橋の入り口で真田は一瞬、ギョッとした。

 ナンなんだ、この人だかりは・・・。



赤、青、緑、に黄色。ちらほらと黒地に黄色まで。非番の乗組員のほとんどが集まっているのだろう。

真田は人をかき分け、かき分け奥へ入る。 通信席まで行くのが一苦労だ。


「あっ、真田さん。ご苦労様です。」

途中で声をかけてきた島大介に、真田は状況の説明を求めた。

「スイマセン。どうも情報が漏れたようです。」


そんな事だろうと思った。

真田は心の中で大きくため息をついた。





イスカンダルを発ってから約2ヶ月。
ガミラスの脅威も無くなり往路の航海に乗組員たちは退屈しきっていた。

そんな時、M26恒星系の謎のメッセージが解読されたという噂が艦内に流れた。


 噂は本当だった。 だが正確ではない。


正しくはデジタル信号の音声、映像化の情報処理方法が判明した、というだけだ。

後は処理された情報を暗号/言語解読システムに放り込んで解析結果を確認する、という段階が残っていた。
 もちろん解読された内容は公表するつもりだった。

しかしなんといっても異星文明のメッセージだ。 

まず各班のリーダー達が問題ないかを確認し正式な公表はそれから、という段取りを踏むはずだった。


・・・それがこのありさまだ。



第一艦橋に集まった連中は、盛り上がりに盛り上がっていた。

だれもが期待感で興奮し、部屋の中はメッセージの内容を勝手に予想する声で満ち溢れている。

この熱気で室温の三度や四度は上がっているに違いない。



お前らそんなに暇なのか・・・・。

真田は再びため息をついた。



こっちは放射能除去装置の組立てで死ぬ思いをしているというのに・・・、

この解読システムの立ち上げだって自分の睡眠時間を削って作業したんだ。

メッセージの内容に興味が向くのは分るが、こっちにご苦労さんの一言ぐらい欲しいもんだ・・・。



真田が心の中でグチをこぼしていると、セットできました、という相原の声が真田の耳に届いた。

ウオーという大歓声が艦橋内に響き渡たる。


ところが・・・。


「これから解析作業に入ります。解読に4、5分、時間を下さい。」

こんどはブーイングがいっせいに湧き上がった。

なんだよ、早くしろよ、とか、誰だよこんなポンコツ解読機を作ったのは? なんて声も真田の耳に入ってくる。



真田、今度は怒りで目の前が暗くなった。



 ポンコツだとォーッ、お前ら、俺があのシステムを組み上げるのにどれだけ苦労したのか知ってんのか!!

なんにもしてないくせに、お前ら、勝手な事ばっかり言いやがって。

大体、こんなことになるのも上に立つ人間の情報管理がしっかりしないから・・・。



そこまで考えると真田は、チラッと隣に立っている艦長代理の方を見た。


その真田の顔を見て、古代がどうしましょうかと聞いてきた。



なに寝言を言ってやがる。

元はと言えばお前が・・・いやいや、落ち着け、落ち着け。 

今さら何を言っても仕方があるまい。

それにあいつ一人だけの責任ってわけでもないし・・・・。



「今さらどうしようもないだろう? ここで解読を中止するなんて言ってみろ。

アイツら何をしでかすかわからんぞ。」

そう言って真田は古代に無理やり笑顔を作り、いわゆる大人の対応をしてみせた。

が、心の中では怒りの嵐が吹き荒れていることは言うまでもない。
 


だが、そんな真田の気持ちを知ってか知らずか。

古代は、やっぱそうですよねぇ、しょうがないですよねぇ、ハッハッハッと笑って見せた。


キリキリ、と真田の奥歯がきしむ。


「真田さん。 まあ、世の中なるようにしか成りませんから。」

笑顔からこぼれる彼の白い歯が実にさわやかだ・・・いや、さわやか過ぎた。


真田の堪忍袋の緒は、それを見た瞬間に吹っ飛んだ。


『なにがハッハッハだッ、 この野郎ッ!! 

元はといえば、艦長代理のお前がしっかりセンからダァーッ!!』


だが、そんな本音を口には出さず、


「そうだな、成るようにしかならんな。ハッハッハッ。」

と古代に調子を合わせながら、一緒に笑ってみせた。


だが心の中では、両手で力いっぱいキュウーっと古代の首を締め上げる・・・。


そんなイケナイ想像を頭の中でしてしまう。

真田志郎、28才。 まだまだ大人には成りきれない彼なのであった。

 





「分析が終わりました。今から再生します。」

相原の言葉に、マッてましたとばかり野次馬たちから、またもや大歓声があがった。


「ですが、その前に。」


歓声に負けないよう相原も大声を上げた。

「真田さん、こっちへ来て再生スイッチを押してください。」

相原が席を立って真田に席を譲ろうとする。



「メッセージを解読した一番の功労者は技師長ですから。どうかスイッチを押して下さい。」

周りの人間から、オオッと、どよめきが広がる。

なんと人を思いやる優しい言葉であろう。なかには感動のあまりに涙ぐむ者までいた。

誰かがオイッ道をあけろッ、と怒鳴ると群衆がサッと二つに別れ、通信席までの道を作った。



コイツはいい・・・旧約聖書の預言者モーゼになった気分だ。


そこを歩く真田はさっきまでの怒りはどこへやら、

あっさり機嫌をなおすと浴びせられる拍手と大歓声を受けながら、通信席までの道を歩いていった。



相原が解読データの納まったメモリーカードを手渡すと、ウインクをして見せた。

真田は笑いながら相原の頭を指で軽くこずく。

カードを受け取った真田は、みんな、と野次馬達に呼びかけた。



「これから解読されたメッセージを再生する。映像は皆が見やすいように大パネルに映すから注目していてくれよ。」



全員が一斉にパネルを見上げる。

それを見た真田は、素早く手を動かすとカードを再生装置に差し込んだ。

 彼の指が再生スイッチを押す。

パネルはわずかにチラつき、すぐに映像を映し出した。

だがそれはボンヤリと人影らしきものが写っているだけという代物だった。

どうやら劣化したデジタル信号の復元はこれが限界のようだ。

観衆の間から不満の声が漏れる。
だがそれもすぐに収まった。

なぜなら音声の方は非常に鮮明で全員が一言も聞き漏らさないよう耳を澄ましたからである。





『警告する。こちらはイスカンダル巡察宇宙軍のメフムト・アーリ・パーシャ。 第13管区航路保全統括管理官補佐である。

接近中の宇宙船に告ぐ。 

当惑星のリスク・カテゴリーはトリプルA。

イスカンダル本星の外宇宙航路安全評価委員会より、不可触惑星の指定を受けた非常に危険な星である。

接近すれば生命の保障はまったく出来ない。

ただちに接近を中止せよ。 警告する。 こちらは・・・・(以下繰り返し。)』




二回、三回とメッセージが繰り返された後、黙って聞いていた乗組員たちは口々に感想を話し出し、

第一艦橋内に再び狂騒と言ってもいい程の熱気と興奮が満ち溢れた。



「なんだか、やけに仰々しいメッセージでしたね。」

相原が乗組員たちの喧々諤々の論争のうるささに顔をしかめながら、隣の真田に言葉を掛けた。

 そうだな、と真田はつぶやいた。



「しかし以外だった、まさかイスカンダル星の言語だったとは。

・・・なぜわからなかったんだ? 

メッセージ受信時に自動翻訳ソフトが作動しなかったのはなぜだ?」

「そりゃあしょうがないですよ。」



相原は解読システムを再チェックしながら笑った。


「これを見てください。 サーシャさんが持っていた通信カプセルにあった、現代イスカンダル語との比較対照文です。」

相原はコンソールを叩くと、壁面の情報パネルにデータを表示した。



「基本的な文法は同じですがね・・・。 同じ単語でも表音が違います。

おまけにコレ、通信カプセルには無かった自動詞や他動詞がひんぱんに使われていますよ。

 形容詞の使い方だって似てるといえば似てますが、微妙に違います。

 イスカンダルでもらった言語データベースの支援でなんとか訳すことができた、て感じですよね。」


コイツも見て下さい、と相原は表示データを更新した。


「どちらかといえば、地球時間で約二千年前にイスカンダルの植民惑星で使われていたローカル言語・・・早い話が方言ですね。

これに近いです。

 おまけに日本語でいう【古文】ときたもんだ。
 
あの時点では情報不足で翻訳できっこないですよ。」


なるほどな、と真田は思わず苦笑した。


「となると、だ。 このメッセージは地中から発信されていたが、イスカンダル人があの惑星に発信器を打ち込んでいたわけだ。」



相原がイスの向きを真田の方へと変え、ウ〜ンと背伸びをしながら答えた。


「そうですねェ。昔の地球でも海に暗礁が在ったりすると、そこに警告用のブイを浮かべたりしますよね。 それと同じようなものなんでしょう。 それにしても・・・。」


言葉を切った後。 思わず出た大きなあくびが相原の口をこじ開けた。


すいません。 解読作業で徹夜したものですからと言い訳しながら、相原はあくびで出た涙をぬぐった。


「言語データから推測すると発信器は二千年以上前に地面の下に打ち込まれたと考えられるわけですが・・・。

あの惑星の防衛システムも少なくとも八万年も前から存在したんでしょう? 

どうしてこう異星人のみなさんの造るものは、ものもちが良いんでしょうかねぇ?」

笑いながら相原は、冗談のつもりで真田にたずねた。



「そうだな・・・。」

真田は腕を組んで考え込むと、やがて真面目くさった顔で答えた。


「多分、あいつら・・・ケチなんだろう。」

「ハァ・・・・(なんだそりゃ?)」



この人、冗談で言っているのか真面目に言っているのか、・・・分かんない時があるんだよナァ・・。

相原はそんな事を考えながら笑ってもいいのか悪いのかと悩みながら、結局はどっちつかずのあいまいな表情を浮べてその場をごまかした。 

そして彼の口からはまたひとつ、大きなあくびが出る。

疲れているのは俺だけじゃない、か・・・。

真田は眠そうな相原を見ると、先程の怒ってばかりいた自分の態度を思い出し、少しだけ反省をした。

そして相原にご苦労さんと声を掛け真田は自分の本職に戻るべく、

今だ大論争の続く第一艦橋を後にしたのだった。
ぺきんぱ
2002年10月05日(土) 17時54分03秒 公開
■この作品の著作権はぺきんぱさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ



「皆様こんばんは、 作者のぺきんぱでゴザイマス〜。」

「アシスタントのキンキンでーす。」

「それではキンキン君、やりますか。」

「いきましょうか。」



(二人、声を合わせて)
「29万6千光年、おめでとーございまーすッ!! 
M19981―KOBE、バンザーイ、バンザーイ、バンザーイッ!!
 拍手ッ!!」



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「いやあ、『コピー&貼り付け』って楽だよねェ、キンキン君。(笑)」


「またこんなスペースの無駄遣いをしてッ! いい加減にせんカッ、この馬鹿者ォーッ!!」



(真面目な話、本当におめでとうございます!)

――――――――――――――――――――――――――――――



「さて。いよいよ本番ですネェ〜。」

「ウウッ、とうとうこの日が来てしまったのネ。
 アアッ、ぺきんぱ、とっても不安なの・・・ナヨナヨ。」



「(気色悪いナァ・・)なんか大金持ちの中年オヤジと無理やり結婚させられる生娘(きむすめ)のようなセリフですネェ〜。」


「コラッ、人を『真珠婦人』みたいに・・・いや、『新・愛の嵐』だったかな? どっちだっけ? キンキン君。」


「・・・どっちだっていいでしょ、そんなことッ! でも、どうしてそんなに不安なんですか?」




「ウ〜ン、実はね。 前回の『傷だらけの・・』は、連載開始時にストーリーも文章も九分九厘、出来上がっていたんだけど今回は、ストーリーは出来てるけど文章が5、6割程度しか仕上がってないのだよ。」


「でも小説の骨格はできてるんでしょ?後は文章書いて肉付けするだけじゃん。簡単じゃない。」


「そう思うでしょ? でもこれがなかなか・・。ここに投稿経験のある方ならお分かりだと思うけど、小説ってプラモデルと違って組立図通りには出来上がらないモンなんだよなァ。」




「そうなんですか・・・。でも作者の作ったプラモデルで組立図通りにできた物って今まで有りましたっけ?」


「よけいなお世話だッ、ボケッ!! 
とにかく全力をつくして頑張りますので皆様、よろしくお願いします。
 そしてこの小説が完成した暁には・・・。」


「アカツキには?」


「自分で自分を褒めてあげたいッ!」


「・・・ネ、ネタが古すぎる。アンタは有森 ○子かッ!!」

この作品の感想をお寄せください。
シリーズ再開、おめでとうございます。あの惑星の謎が≪今度こそ≫はっきりくっきり明快に解き明かされるんですね〜。ぺきんぱさんのストーリーは、SFとしても面白いので、楽しみです。執筆、がんばってください。 Alice ■2002年10月06日(日) 22時16分39秒
ぺきんぱさん、キンキンさん、ご祝辞ありがとうございます!新シリーズ楽しく読ませていただきました^^真田の反省シーンとかいいですね。人間らしい温かみが伝わってきます。今後の展開も楽しみにしています。頑張ってください!(キンキンも=笑) 長田亀吉 ■2002年10月06日(日) 02時23分47秒
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