第七話『ケルベロス、地獄の番犬(前編)』 Cerberos From Hell. |
「遅くなりました!」 髪を振り乱して駆け込んできた男は、室内に入るなりそう叫んだ。 ヤマト艦内の、通常、パーティーやレセプションなどが行われれる大広間内。 だが、そこにはいつもとは違い、壁際には大型の情報端末機が、中央部には実験機械などが所狭しと並べられ、床には各機械を結ぶ通信ケーブルが幾筋も張り巡らされていた。 うっかりすると足を取られて転倒してしまいそうだ。 相原がもう一度、遅くなりました、と声を張り上げる。 だがその声に反応する者はいない。 ただならぬ室内の雰囲気に戸惑い、相原はその場に立ちつくした。 だれしもが忙しそうに室内を動き回っている。 だがその割には活気がある、という感じではない。 誰もが沈んだ表情を浮かべ、まるで見えない何かに怯えているかのようだ。 せわしなく動き回っているのは、そうしていないと不安で仕方がないから、といった所だろう。 「・・・何があったんですか?・・」 相原は傍らにいた真田に近づき、そっと尋ねてみた。 真田がじろっと相原をにらみつける。その表情が邪魔をするなと言っていた。 相原が小さくスイマセン、とつぶやくと、真田は無言で視線を手にした携帯用情報端末機に戻す。 相原がチラッと覗くとその情報端末機では、恐らく何かの情報をダウンロードしているのだろう、画面上で文字やグラフ、それに映像が猛烈な勢いで下から上へと流れていた。 真田は身じろぎもせず、それを眺めている。 ただ眺めているだけではない。 それらの情報を咀嚼し、飲み込み、分析する。 真田の脳細胞がフル回転をしている、それが彼の張りつめた顔から見て取れた。 その時、突撃銃を肩から下げた戦闘隊員が相原の前に立つと、外に出てください、と告げた。 「なんだと?おい、お前! 僕は通信部門のチーフとして・・。」 「あなたは現在、“対策室”に入室を許可されていません。 退出を願います。」 “対策室”? ・・許可が無い? いったい何の事だ? 答えを求めてさまよう相原の視線の先に艦長代理、古代進の姿が目に入った。 「相原、彼の言うとおりにするんだ。事情は後で説明する。すまんが出ていってくれ。」 古代の意外な言葉に相原は一瞬、自分の耳を疑った。 「何を言っているんですか、古代さん。まだ事情はよく分かりませんが、僕で役に立つ事があれば・・・。」 「よけいな事は言うな。早く出ていけ!」 いきなりの叱責に、そんな言い方をしなくたって、と文句のひとつも言ってやろうとした相原だったが、その肩を後ろから誰かが叩いた。 思わず相原が振り向くと、やあ、と声を掛けて居心地の悪そうな笑みを浮かべた島大介が立っていた。 「俺も追い立てを喰らったよ。」 彼はそう言うと、着いてこい、という感じで手を振ると相原に背を向けて歩き出した。 相原もシブシブ彼の後ろについて室内を出た。 彼らの背後で扉が閉まる。 閉まった扉の両脇には、やはり突撃銃を構えた戦闘班員が詰めていた。 ・・・いったい、何があったんだ?・・・ 相原の頭の中では大量の疑問符が飛び交っていた。 「まったくひどいじゃないですか! そんな重大事に、なんで起こしてくれなかったんですか!」 ヤマト大食堂内、休息コーナーの一角で相原と島はテーブルを挟み、向かい合い座っていた。 島大介からこれまでの経過を聞き終わると、相原は彼にしては珍しく顔色を変えて怒り始めた。 「役に立たないからさ。」 島はあっさりそう答えると、音を立てて飲料パックから濃縮栄養剤をすすった。 「そう怒るなよ。 それに仲間はずれにされたのはお前だけじゃない。 俺だってそうだ。 操縦や航法しか知らない俺や通信が専門のお前は、こんな事態の時には居たってしょうがないんだよ。」 俺達は役立たず、ってわけさ。そう島は力なく言うと空になった飲料パックをダストシューターに向かって投げた。 ダストシューターは備え付けの超音波センサーで接近する飲料パックを感知。 パックの飛んでくる方向やスピード、人工重力による落下率を計算してタイミングを合わせると、フタを開けて飲料パックをゴミとして飲み込み、自動的にフタが閉まる。飲み込まれた飲料パックは組み込まれた微量放射線物質(マーカー)によって分別先を指定され、リサイクル物資集積ボックスへと吸引されていった。 「それにお前、警報が出された時には腫瘍摘出手術の真っ最中だったじゃないか。 途中で止めさせる訳にはいかないだろう?」 「そりゃあ、そうですが・・・、 でもその後もAOM(全自動手術機械)やANM(全自動看護機械)に任せっぱなしするなんて・・おまけに機械の設定までミスりやがって・・・。 おかげで術後麻酔から覚醒するまでに三日もかかったんですよ。その間ほったらかし、ってのはどういうわけなんですか!」 「医務室の連中もこの件に掛かりっきりなんだよ。 お前の事は機械に任せて大丈夫と判断したんだろう。」 そう怒るなと、島はいつもの冷静な口調で相原をたしなめた。 「よくそんなに冷静でいられますね、島さん。 あなたの話だと、今ヤマトは第二非常配置、準戦闘態勢にある。 それなのに一部の人間だけで情報を独占して、僕たち部門のリーダーがこの件についてオフ・リミット、っていうのはどういう事なんですか?」 よほど悔しいのだろう。相原は拳でテーブルを叩いた。 冷静?俺が冷静だと?・・・笑わせるな。 「お前、殺せるか?」 島がぼそりとつぶやいた。 「なんですって?」 「バイオハザード警報、対応マニュアルを思い出せ。 現在の状況はレベル4。 被汚染者の隔離に留まっている。」 だがな、と島はテーブル上、自分の握り拳を見つめながら続けた。 「もし被汚染者がなんらかの事情で俺達への脅威となった場合、マニュアルに従うならば俺達は彼らを殺さなくちゃならない。」 「で、でも島さん。そんな事しないですよね?あの古代さんがそんなことを・・・、」 「まだ分からないのかッ、相原!」 島大介は座っていたイスを蹴り倒して立ち上がった。 食堂中に島の怒声が響き渡った。 「こんどの警報はそんな甘いものじゃないんだ。 その証拠に今、ヤマト中央コンピューターシステムは俺たち乗組員から独立した形で動いているんだぞ!」 「そ、それがどうしたって言うんですか!」 いきなり激昂した島に、たじろいだ相原だったが正直、相原も苛立っていた。 艦内の雰囲気に、乗組員達が感じている言いようのない不安感に、相原は苛立っていた。 それが彼をいつも以上に大胆にしていた。 なんだっていうんだ! みんなどうしたというんだ? 俺達は何度も絶体絶命の危機を乗り越えてきたじゃないか。 それなのに・・・どうしたんだ、この息苦しさは。 いったい何が起こっているんだ? 「いいか、ヤマト中央コンピューターシステムは今、緊急時行動規則監視プログラムによって制御されている。 そしてこれは俺たち乗組員には手が出せない。完全に独立した機構で動いているんだ。」 これが何を意味するか、わかるか。そう言って島は拳をテーブルに打ちつけた。 「俺たちが安全だ、と判断してもコンピューターが危険だと判断すれば、俺たちの行為は緊急時行動規則違反とみなされる。 そして被汚染者は自動的にコンピューターシステムの手で抹殺される。 俺たちに、それを止める手段は無いんだ。」 「まさか・・ユキさん、動かしたんですか? あの『ケルベロス』を?!」 島がその問いに無言でうなずいた。 彼女の要請した緊急警報のコードは【10―4】。 それは地獄の番犬を眠りから呼び覚ます合図だった。 緊急時行動規則監視プログラムの歴史は以外と古い。 その始まりは今から約60年前、ガミラスとの戦いが全太陽系規模に拡大してからの事だった。 21世紀末から始まったガミラスとの直接的な戦闘は、遊星爆弾の迎撃を除けば単発的な無人戦闘機械とのそれであったが、AD2130年頃を境にしてその戦い方に、はっきりとした変化が現れた。 今まではバラバラに行動していた無人機械たちが、互いに連携のとれた活動を起こし始めたのである。 地球防衛軍総司令部はすぐにこの現象に気づき、戦争は新たな新たな段階に進んだ事を認めなくてはならなかった。 これまでの戦闘は、主に防衛軍の能力を測るための威力偵察だったのだろう。 そして無人戦闘機械たちはある明確な意志を持ち、そのための戦略に乗っ取った戦術を採りつつある。 地球戦力の情報収集、分析はもう充分、と判断したのだろう。となれば・・・。 本格的な地球侵攻は近い。 早急な対策が必要だった。 とりあえずは各惑星植民地の守りを固め、敵根拠地を早期に発見し、叩くことだ。 こうして地球防衛艦隊、その戦力のほとんどが敵根拠地捜索のため、太陽系全域へと散って行き、民間のものを含め地球の宇宙船が、かってないほど数、かってないほど長期に渡って太陽系を飛び回った。 だがここで、まったく意外な、そして深刻な問題が浮上することになった。 地球標準時 AD2144年 8月20日。 地球防衛軍、ユーラシア連合外惑星軌道艦隊所属、 高速宇宙巡航艦『クロンシュタット』が偵察任務からの帰還中、突然、無線封鎖を破りSOSを発信した。 救援に向かった僚艦『アドミラル・ナヒーモフ』が『クロンシュタット』艦内で見た光景はおぞましいものだった。 乗組員は全員死亡。 だが、その死に方が尋常ではない。 彼らの頭蓋は内部から破裂していたのである。 地球防衛軍司令部が、まず最初に疑ったのはガミラス生物兵器による攻撃ではないか?という事だった。 ところが調査が進むうち、意外な事実が判明した。 巡航艦『クロンシュタット』が、敵と接触した形跡は皆無だった。 そして調査員たちが艦内で見つけたのは、地球にごく当たり前に存在する、白癬菌の見たことも無い変異種だった。 通常それらは人間の皮膚の隙間にもぐり込み、増殖するにすぎない。 (俗にいう“水虫”というヤツだ。) そしてもちろん、それは人間の生命を脅かすものではない。 恐らくその白癬菌は、乗組員の一人と一緒にこの艦にもぐり込んだのだろう。 そして地磁気に分厚い大気層という、天然の放射線防護壁に守られた地球環境とは比べものにならない量の宇宙放射線を被曝、吸収し、そのありふれた白癬菌は猛烈な勢いでミューテーション(突然変異)を起こし始めたのである。 そしていつの間にかそれは、人間の頭蓋内で爆発的に増殖し、脳細胞をむさぼり喰い、放出したガスで頭蓋骨を破裂させる怪物へと変わっていった。 全ては『クロンシュタット』の対放射線防御の未熟さが原因であった。 だが、それは『クロンシュタット』だけの問題ではない。 この艦の対宇宙放射線防御は、地球防衛艦隊の標準装備でもある。 だから同じ様な事件は将来、地球防衛艦隊どの艦でも起こりうる事態だった。 この報告を受けて地球防衛艦隊総司令部は全艦艇に対して船体内外の徹底的な殺菌を行い、生物汚染の源を絶つことを要求した。 だがそれは無理な注文だった。 敵根拠地の捜索を急ぐ防衛軍にとって、そんな作業にさく時間的余裕は無かったし、 なにより根本の汚染原因は人間自身なのだ。 人間の体はもともと雑菌の固まりだ。 体表についた微生物を除去したとしても、体内の細菌類までも駆逐することは出来ない。 第一、そんな事をすれば人間の腸内に生息する有益バクテリアまでもを殺す事になり、それが人間の健康にどのような悪影響をもたらすか、まったく予想がつかなかった。 そしてそれは命令を発した司令部自身、よく分かっていた。 とりあえずは防疫医療体制の充実と、宇宙船の放射線防御対策を強化することに力を入れるしかなかった。 ※筆者補足1。 (筆者補足の記述は、【作者のメッセージ】にあります。 よろしければそちらをご覧になってから本筋に戻って頂いても問題ありませんし、先にそちらを読まないと後の話が上手くつながらない、といったことも有りませんので、後ほどまとめてお読み頂いても結構です、・・・多分(汗)。) それに、突然変異した雑菌の全てが殺し屋に変身するわけではない。 怪物が出現するのは、100年に一回、有るか無いかの事だろう。 今回の事件は偶然に偶然が重なった為だ。 例外的な事件なのだ。 『クロンシュタット』の乗組員たちは可哀相だが、運が無かったのだ・・・。 この件の処理に関わった者は、そう言い聞かせて自らを慰めるしかなかった。 だがその予測がいかに甘いものであったか。 二年後、彼らは嫌というほど思い知らされる羽目になった。 地球標準時 AD2146年 2月3日。 その一ヶ月ほど前から、 水星にある太陽エネルギー集積基地のひとつ、『マーキュリー17』では、謎の疫病が発生していた。 その症状は何の前触れも無く、体内の骨格組織が突然、崩壊するというものだった。 それ自体のみで生命に別状はない。 (もちろん重力による体組織への悪影響を防ぐため、無重力タンク内での完全看護と、造血機能喪失を補うための輸血が必要とはなるが・・・。) だが、今まで笑って会話していた人間が突然、目の前でくたくたと崩れ落ちるとグニャグニャの軟体生物に変わってしまうのだ。 人間大のクラゲ、一丁上がり。 その衝撃は人間の理性を狂わせるに十分なものだった。 基地指令は水星を脱出し、地球に逃げ帰ろうとする者達を懸命に押し止めた。 母なる地球にこの奇病を持ち込むわけにはいかない。 だが恐怖と狂気に支配された彼らは司令官を殺害、非常用脱出船を占拠した。 もはや彼らの行動を止める手段は一つしかない。 反乱からかろうじて逃げ延びた基地副司令官は、究極の決断を下すしかなかった。 脱出船が発進する直前、『マーキュリー17』の地下で中性子爆弾が炸裂した。 そして数千万度の熱線と荒れ狂う高速中性子がすべての問題に片をつけた。 決断を下した基地副指令官や、診療室の無重力タンク内に浮かぶ十数人の軟体人間たちと共に・・・。 『マーキュリー17』事件は防衛軍のみならず、連邦政府上層部でも大きな問題となった。 とりわけ被汚染者たちが恐怖に駆られ、理性的に行動せず、疫病を地球に持ち込もうとし、それが水際でかろじて阻止された、という事実は衝撃的だった。 人間は信用できない。 これが地球連邦政府の出した最終結論だった。 緊急事態が発生した場合、その状況によりとるべき行動はマニュアル(行動規則)により定められている。 (もちろん現場の判断も、ある程度は尊重されるのだが・・。) だがもし、人間が規則を破り、定められた行動をとらなかった場合はどうなるだろう? その行動が地球人類全体を危機に陥れる可能性があるとしたら? だが宇宙の彼方にいる彼らに、歯止めをかける者は存在しない。 その対策として考え出されたのが緊急時行動規則監視プログラムを含むコンピューターシステムおよび、システム専用の人工知能だった。 ※筆者補足2。 公式プロジェクト名、【ファイヤーウォール】(防火壁計画)は、こうして始まった。 だがそもそも、緊急時行動規則のマニュアルそのものが、厳しすぎる、と批判続出の代物だった。 なにしろ生物汚染が起こった時、感染者のみならず、少しでも感染の可能性が有る者も、場合によっては宇宙に放り出せ、と定めてあるのだ。 現場指揮官レベルでは、こんな規則は無視してやる、と公言してはばからない者さえ多かった。 しかしプロジェクトの目的は、あくまでもこの緊急時行動規則を人間達に厳守させることにある。 その目的のために開発者たちは、実に過激な手段を考え出した。 コンピューターシステムに、場合によっては被汚染者の殺害を実行し、無断で地球に帰還しようとすれば、宇宙船の航行を妨害する機能さえ持たせよう、というのだ。 このプロジェクトの構想が発表されるやいなや、反対意見が現場の人間から雲霞のごとく湧き上がってきた。 計画の意図は分かる。 だが、あまりにも宇宙船乗りや宇宙生活者の感情を逆撫でするものだ。 地球の人間たちがそんなに大事か? 俺たちの命はどうでもいいのか? 自分たちの手の届かない所で、仲間や家族、そして自分の生死が決められてしまうだと? それも一滴の血も通わないコンピューターシステムによって? 地球のお偉方は、なにも分かっちゃいない。 そんなに俺たちが信用できないのか! だが噂によれば、開発プロジェクトを取り仕切った地球連邦政府高官は、その疑問にこう答えたという。 そのとおり。 この世で一番あてにならず、信用のできない存在。 それが人間だ。 結局、『マーキュリー17』事件から6年後、 周囲の轟々たる反対の声を押し切り、このシステムは完成した。 そして酷薄無情と言うしかないその代物は、完全に独立した正体不明のブラックボックスとして宇宙に存在するすべてのコンピューターシステムに組み込む事が、法律により義務づけられる事になったのである。 その性格上、ハッキング防止のためシステムに関する情報は非公開とされた。 どのような開発過程を経て完成し、どんなシステムを構築しており、それがどのような形でコンピュータープログラム内に組み込まれているのか? そのすべてが完全に秘密とされた。 しかし、その大まかな仕組みだけは一部公開されている。 それはパラメーターを微妙に変化させた三体の人工知能を使い、互いに討論、検討させて結論を導き出す、対話/検討型情報分析システムだった。 開発者たちはこのシステムを厳かにも『トリニティ』システムと名付けたが、その名が一般的に根付く事はなかった。 そして宇宙船乗りや宇宙生活者たちは嫌悪と畏怖、そして連邦政府上層部に対する蔑みの感情を込めてこう呼んだ。 『トリニティ』・・・天にまします父と子と精霊と、ってヤツか? ふざけるな。 あれはそんなありがたい代物なんかじゃない。 あいつは三つ首にして非情の化け物。 人を喰い殺す、機械仕掛けの血に飢えた怪物。 地獄の番犬、『ケルベロス』だ・・・。 ※筆者補足3。 「そんな・・そんなのってないですよ! せっかく放射能除去装置を手に入れて、後は地球に帰るだけだっていうのに・・・、 ユキさんコンピューターに殺されちゃうかもしれないんですか?」 相原のその言葉は悲鳴に近かった。 「正しくは、緊急時行動規則監視プログラムによって、だがな。」 相変わらず島は、テーブルの上、組んだ自分の両手をじっとみつめる。 そしてその手にぎゅっと力を入れた。 そうしなければ、指が震え出してしまいそうだった。 「もし俺たちが森君たちの命を助けようと努力しても、それが地球人類全体を危険にさらす、情に流された誤った行為だと賢い賢い“コンピューター様”が判断すれば、奴が人間の誤った行為を正してくださるってわけだ。」 島大介は唇の片隅をゆがめて皮肉っぽく笑った。 が、次の瞬間。 「どこの馬鹿がこんなシステムを作りやがッた! どんな間抜けがあんなプログラムを組んだんだ、畜生ッ!」 島はがっくりと顔を伏せると髪の毛をかきむしった。 相原はこんなにも弱気な、覇気のない島大介を見るのは初めてだった。 「で、でも・・まだ漏れた微生物が危険だと決まったわけじゃないんでしょう? ユキさんや山本は、まだ生きてるじゃないですか。大丈夫、なんとかなりますよ。」 「お前、なにも知らないんだな・・・。」 島が相原をにらみつける。 「ナ、なんですか? しょうがないでしょう。 だって僕はまだ麻酔から醒めて、まだ誰からもなにも・・・」 「森君は、もう3日も意識不明なんだ。」 島の言葉を聞いた瞬間。 相原の胸の内を、冷たい風が吹き抜けていった。 |
ぺきんぱ
2002年12月04日(水) 19時22分50秒 公開 ■この作品の著作権はぺきんぱさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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本格的なSFですね。若い頃、ハヤカワのSFを読み漁りましがた、基本的に好きなんです、こういうお話。ぺきんぱさんは、雑学(とっていいいのか)の知識が豊富で、いろいろためになります。 | Alice | ■2002年12月07日(土) 11時31分50秒 |
さすがです。僕は宗教関係の知識は高校の社会科の教科書レベルしかないのでうらやましいです。アナライザーの開発秘話も納得できます。素晴らしい!! | 長田亀吉 | ■2002年12月05日(木) 00時21分43秒 |
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