はるかなり故郷サンザー


『【第一章 平和な日々】』

 >>>とよちん   -- 04/11/22-09:11..No.[1]  
    無限に広がる大宇宙。そこには生命が満ちあふれていた。
死んでいく星もあれば、生まれてくる星もある・・・・
そう、あのデスラー総統の野望と共に滅びたガミラス星は死にゆく星であり、その青さを取り戻した地球は新生の時を迎えた惑星であった。
時に西暦2200年10月。

 ヤマトの想像を絶する29万6千光年の大航海によってもたらされたコスモクリーナーは地表に充満する放射能を消滅させ、再び人類に恵みの大地と、暖かな日の光を与えた。しかし完全に破壊された地上とその自然環境の回復には、イスカンダルよりもたらされたオーバーテクノロジーをもってしても、更なる時を必要としていた。
 地球は、ヤマトの帰還以降本土の再建に必要な物資の供給を太陽系の他の惑星に求めた。ガミラスとの宇宙大戦以前においても惑星の探査と資源開発は小規模ながら行われてきた。月にはチタンとヘリウム3の採掘加工工場があり、ガミラス戦当時でも、細々と操業されていた。しかし、今地球が必要とする資源は生き残った数十億の人間が、8年にも渡って抑圧されてきた欲求を取り戻すためのものである。過去の数百年に渡る産業活動によって採掘され尽くされ、更にガミラスの遊星爆弾攻撃で受けた地表の破壊によって、地球あるいは月までを含めた開拓圏内でその要求を賄うことはとうてい無理な相談であった。
 あのイスカンダルへの航海においてヤマトが資材補給に立ち寄った様に、土星の衛星であるタイタンは鉱物資源が豊富であり、地球復興計画初期においてその開発が最優先として位置づけられていた。

 地球へ帰還した古代たちヤマト乗組員にはここ1ヶ月、定住すべき住居すら無い状態であった。独身の男性乗組員は旧横浜の臨海部に仮設された宇宙戦艦用ドックに係留されたヤマト内で未だに起居する有様だった。ヤマトの航海中できるだけ深い地下都市へ市民を押し込んだ為、地球を離れた彼らの住居は接収されていた。また放射能帯に曝された区画は放棄され人間の居住に耐える状態ではなかった。地上の都市は建設途上であり、まだ多くの人々が地下都市での生活を甘んじて続けていた。とりあえず、乗組員にはヤマト艦内勤務の辞令が降りていたが、動力の止まった動かない戦闘艦で、戦闘班クルーはこれといった仕事もなかった。

「艦内全機構異常なし。艦内機構稼働率0.2%、生命維持装置稼働率1.2%、機関室タキオン封鎖セクションのみ。全ハッチ開放中っと。迷い込んだ子供が2名と、猫2匹を保安員が確保・・・なんだこりゃ。世は事も無しで定時報告終わり。」
「了解。」一応、返礼しておこう、とでも言う感じで古代が返事をする。
どことなく平和な、というより気の抜けた雰囲気の第一艦橋。
「古代、このところ土星空域で遭難する輸送船が多いじゃないか。」
島は新聞を広げながら呟く。艦内新聞ではなく、日刊紙である。第一艦橋の入り口には「第一艦橋」とマジック書きされた段ボール箱が無造作に置かれ、郵便物や新聞が放り込まれている。

古代は送られてきた封書を無造作に開き、中身を見ながらキョトンとしている。一目見て出頭命令書だというのが分かる。
「島、この出頭命令にある、外周艦隊宙雷戦隊司令部ってのは、何だ」
第一艦橋で、コーヒーを啜りながら、命令書を見つめた古代は呟いた。
「ん。新しい部署の新設ラッシュだからな。どうせ、迎えの反重力車には行き先がプログラムされているよ。」
「ああ。坊ヶ崎沖のヤマト建造工場まで司令部の車で連れて行かれたときみたいだな。」
島はコーヒーを一気に飲みあげた。
「今にして思えば、あの行き先不明の反重力車からヤマトでの旅が始まったんだな。」
島は、コーヒーカップをワープインジケータの上に無造作に置くと、第一艦橋の窓から第二主砲を見下ろしていた。飲み残しのコーヒーが窓から差し込む光にキラリと光った。今、森雪は防衛司令部付き秘書官として地上勤務であり、不味いコーヒーを入れるものはいなかった。
「あいつら、主砲の上で日光浴とシャレこんでやがるぜ」
島は、あきれ顔で古代に振り向き、やってられないという手振りをして見せた。波動エンジンは整備点検と長期間動作時の内部構造劣化を調査するために停止していたし、エネルギー切れの補助エンジンも止まっていたため、生活に必要なエネルギーは作業用機器から盗電する有様だった。薄暗く、蒸し暑い艦内には洗濯物が所狭しと干され、つい最近まで晴れた日には、上甲板上で勝利を称える満艦飾のごとく、シーツやらシャツやらが干されていた。さすがに、世界各地の要人の見学やマスコミ取材も絶えないため、上甲板での物干しは禁止されていた。
「まあ、主砲の上ならお偉方にも見えんだろうよ。もっともヤマト艦内勤務なんていったって真田さんたち以外は何もやること無いし、戦闘班の主任務は今や生活環境との戦いだからな。健康維持のための日光浴だって任務だよ。」
古代は腕を頭の上で組みながら、席を倒した。
「相原の奴は月基地勤務だって一番最初に退艦したし、南部と太田は新司令部勤務。そうそう、来週には家族と新居への引っ越しだそうだ。」島も席を倒すとだれに言うとでもなく呟いた。
「第一艦橋も寂しくなったなあ。」
「ああ。」ふと艦長席に目をやる。しかし、そこに居るべき偉大な男はいない。

「司令部出頭はいつなんだ、古代」
「今日の3時だそうだ。2時には迎えが来るらしいけど。」
「司令部付きの車で迎えとは、いい身分だな。ちゃんと階級章を着けていかないとMPに職質されるぞ〜少佐殿。」
そんな憎まれ口をたたいていた島のコンソールにも命令書が届いた通知が点滅し、あわててコーヒーカップを床に落としてしまった。硬化テクタイト製の特製カップは軽い金属音を響かせながら割れるわけでもなく床を転がった。
「ヤマト航海記録を持参の上、外惑星補給艦隊司令部へ明日0900出頭せよだってさ。」
そんな部署も昨日までは、影も形もなかった。地球では全ての機関が復興に向けてあわただしく新設整備されていた。地球防衛軍もその例外ではなかった。
ヤマトが係留されている、第1ドックの隣では、6000トンクラスの巡洋艦らしい艦が同時に6隻建造されていた。そのスマートなフォルムは古代たちには見慣れないものであり、新しい時代を象徴するようであった。
島が、第二艦橋に降りて、航法コンピュータの電源確保に躍起になっている頃、古代の迎えがヤマトの舷側に横付けされた。
「とりあえず、行って来るよ」
第二艦橋までタラップで降りてきた古代は、電源を確保して安堵の表情の島に後ろから声をかけると電源が通っている第二艦橋からエレベータに乗り込んだ。島は、それどころではないという表情で、航法コンピュータからワープ記録をダウンロードしていた。
「ああ、古代、ついでに佐渡先生のところに寄って、アナライザーを連れてきてくれないか。あいつはヤマトで唯一電源のいらないコンピュータだからな。」
古代は了解のサインを出すと、エレベータのドアが小気味いい音を立てて閉まった。島一人きりの第二艦橋には、星間航法コンピュータの発する電子音が響いていた。

 大司令塔基部のハッチから兵装上甲板に出ると、浜風が匂ってくる。ここからガミラスの地表を眺めたのは遠い過去の様だった。地球環境復旧プログラムの一環で海水が戻りつつあったが、海中に生物はまだ居ない。遊星爆弾によって焼き尽くされた海洋底に残された有機物が海水に溶け込んで浜風に似たにおいを発している。太陽は眩しく、青空にまだ雲は少ない。一度徹底的に破壊された環境を戻すのは容易ではない。
 タラップを降りるとちょうど無人の反重力車がやってきた。ふとヤマトを振り返る。第一艦橋と第二艦橋の間に旗流信号翼にサルマタが翻る。フッと古代は笑みを浮かべて反重力車に乗り込んだ。
 反重力者に乗り込むと、オートドライビングシステムが軍籍カードを要求した。


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