はるかなり故郷サンザー


『【第二章 新しい仲間 】』

 >>>とよちん   -- 04/11/22-09:27..No.[2]  
     旧地下都市防衛軍司令部エリアに到着した反重力車は、プログラムされた通りの順路をたどって迷路の様な司令部エリア内の太陽系外周艦隊宙雷戦隊司令部へ向かった。
地下都市全体が引っ越ししているといっても過言ではない状態にあって、防衛司令部エリアの喧噪はひときわ激しかった。どこもかしこも、梱包用のコンテナであふれ返り、もし予め順路の指定がなければ容易に目的地に到着しそうになかった。
約100層からなる司令部エリアのほぼ最下層部に出頭先はあった。
この区画はもっとも先に引っ越しを終え、上層の喧噪は届かなかった。
「太陽系外周艦隊宙雷戦隊司令部」とこの時代では珍しい、手書きの模造紙が貼られたドアを開けると、そこはヤマトの大作戦室に非常に似た部屋であった。もともと太陽系内航路局の宇宙航路観測室であったことは、古代には知るよしもない。宇宙戦士訓練学校高等課程卒業と同時に火星に転属となり、そこで半年間特別課程を行い、地球に帰還した直後、ヤマトへの乗り組みを命じられた。そのため中枢地下都市の防衛軍司令部には数回出頭したにすぎない。
 部屋の中央には10脚ほどの折り畳み椅子に座った少佐の階級章の付いた上着を着た若い士官がおり、そして更に奥には、藤堂兵九郎長官と幕僚が数名立ち話をしているのが目に付いた。そして、携帯端末を持ち傍らに控える森雪の姿があった。古代は雪に気づくと笑みを投げかけた。それに気づいた雪も笑顔で返してくれる。
 「古代進、ただいま命令により出頭いたしました。」
一呼吸おいて、敬礼しながら出頭の報告をすると、長官以下の面々が古代の方へ振り向き返礼した。雪の周りは白く光っているようだった。「最後に会ったのは5日前だったかな」と心中で呟いた。
長官は雪に一言二言話しかけると、古代のもとへ歩み寄ってきた。雪の優しい笑顔が近寄ってくる。白い制服が眩しい。
 もともと古代や島達宇宙戦士訓練学校特別訓練課程の卒業生は、准尉で防衛軍に任官される。しかしヤマトは地球防衛軍にこだわらず、最良のクルーが選ばれたため少なからず民間人から起用された乗員が乗り組んでいた。従って、あえて軍隊としての色彩を押さえて班編制が行われていた。したがって、あくまで、古代は戦闘班長であって、「戦闘隊長」は加藤など防衛軍出身者が用いる敬称であった。また、もちろん古代准尉と呼ばれることもなかった。
 地球帰還後に異例中の異例である2階級特進の2連続で少佐に昇進した古代は慣れない左官用の制服、制帽を身に着けていた。同じく女性左官の白い制服を着た雪が近くに歩み寄ると、古代を中に入るよう促した。勤務中だからか、古代と私語を交わすこともなかった。しかし、明らかに瞳には嬉しさがにじんでいた。雪の後に続く古代はふっと微かに甘い香りに気が付いた。「ヤマト艦内勤務の時は化粧っけなんかなかったのにな。」そんな違和感を憶えつつ雪の後に従う古代。
「こちらにかけてお待ち下さい。」他の出頭者と同様に古代は着席すると、雪にちょっと小声で声をかけた。
「久しぶりだね。」
「古代君、仕事中ですよ。後でね。」
雪に嗜まれて、古代は少し苦笑いを浮かべて沈黙した。
 ややばつの悪い表情をして、古代は着席した。やや遅れて数人の佐官が到着して、全ての椅子が埋まった。長官は雪から報告を受けると、おもむろに立ち上がりった。それに伴い、起立する幕僚達と、古代達10名。全員が敬礼すると、長官は返礼し、全員に着席を促す。全てが軍の規律通りに進む。
「みんな、それぞれの部署で地球の再建に向けて頑張ってくれておるところを呼び出してすまない。諸君を招集したのは他でもない、現在の地球再建プランを妨害する敵が確認されたのだ。まずは、情報部の山田少佐から説明を受けてほしい。」
大スクリーンが点灯し、土星が大写しになる。さらに拡大があがり、タイタンとおぼしき薄ピンク色の天体が拡大される。緑色の制服に情報将校を表す、赤地にJ2の襟章が目に付く、やや痩せて神経質そうな顔立ちの男が立ち上がる。
「情報部第二課、対敵情報分析室の山田安彦だ。この度の作戦において諸君の力を借りたい、よろしく頼む。」
「これを見て欲しい。これは、タイタン付近に配備した外惑星系警戒衛星の可視光画像だ。」
タイタンの大気圏から上昇する3つの光点が現れ、やがて土星本星の方へと移動して消えた。土星の陰に入り太陽光線の反射が無くなったせいだ。
「次がアクティブセンサーによる解析像だ。」
画像はフィードバックされ、3つの光点が拡大され、さらにフィルター処理を施される。そして、数種の解析が施された後に現れた画像は、古代にとって、また長年戦い続けた地球防衛軍の軍人にとって見慣れた物だった。むしろ、嫌悪の象徴とでも言ってよい、暗緑色の悪魔であった。
「見たとおり、ガミラスのデストロイヤー級と輸送船だ。装甲材質のスペクトル解析も間違いなくガミラスであることを証明している。」
「ガミラスの残党が太陽系付近に残留していることは、過去3週間にわたるガミラス軍用タキオン通信波の傍受解析や、これらの監視衛星によって掴んでいた。今回われわれは、このデストロイヤー級の追跡を無人強行偵察艦で行い、どうやら土星空域に彼らの拠点があるらしいことを掴んだ。しかも、ここ、2週間で土星空域における貨物船遭難が8件発生し、その全てにおいて遭難船は発見されていない。」
画面上には過去数週間にわたる土星空域での遭難事件の発生点と、監視衛星による未確認物体の軌跡が表示された。白い軌跡の全てが土星の輪とタイタン付近に集中していることが見て取れる。
「諸君らも知っているとおり、タイタンの鉱物資源は地球復興の生命線であり、特にコスモナイト等宇宙船材料採掘と輸送の安全確保は防衛政策上もっとも重要事である。そこで、防衛軍司令部として土星空域におけるガミラス残党の掃討作戦を立案した。また遭難した輸送船乗員が捕虜となっている場合は、救出作戦も予想される。」
古代をはじめとする10名の若い士官にどよめきが起こった。顔を見合わせて、戦いの予感に昂揚するもの、不安に顔を強ばらせる者。古代は平静を保ちつつ、視線を長官へ向けた。そこには、穏やかに若い士官達の様子を見守る藤堂長官の背筋を伸ばした姿があった。
「だが、現在の防衛軍宇宙戦力は整備中であり、ほぼゼロといって過言ではない。だからこそ、ガミラス残党が太陽系内で活動することを阻止できないでいる。」
古代は「ヤマトでなら・・」と言いかけるのを押さえた。ヤマトは今、休息を必要としていた。戦士達も、ヤマトの船体も、長い旅の疲れを癒さねばならなかった。それに、ガミラス人とて、故郷の星を失い、さらに最前線に取り残されているのだ。彼らの気持ちを考えると、複雑な心境を持たざるを得ない。ヤマトが銀河系内を航行しているときに遭遇したガミラス宇宙廷の若いパイロットの顔が浮かぶ。「あいつは、無事に生きているだろうか・・・」不思議と心が通じたガミラスパイロットと、タイタンのガミラス残党とがオーバーラップする。
「これまでに掴んだ情報を総合すると太陽系内および近傍のガミラス残留部隊の戦力は、デストロイヤー級駆逐艦5隻と超ド級戦艦が1隻、数隻の輸送艦、また太陽系内パトロール艇は無数に残っていると考えられる。」
古代の心境を察することなく、技術士官が立ち上がりスクリーンに新造艦艇のデータが映される。
「艦政本部宇宙造船局の平賀です。よろしく。」
階級は少将なのだが、随分と砕けた雰囲気の人物だ。
「艦政本部では、短期間での宇宙戦力整備に向けて、3000トン級駆逐艦新ゆきかぜ級の建造、配備を進めております。この艦は、単船殻に装甲板を兼用させることで軽量化を実現し、大出力新型波動エンジンの搭載により最大戦速50宇宙ノットの性能を発揮いたします。ガミラスのデストロイヤー級が35宇宙ノットであることから、15宇宙ノットの優速であります。」
古代は「ゆきかぜ」の名前にはっとした。兄の乗艦であり、地球防衛軍旧日本艦隊最後の駆逐艦である。
またその50宇宙ノットという速力も驚異的である。
ヤマトが太陽系内で発揮できる最大戦速は27宇宙ノットであり、波動エンジンを搭載しない旧型艦ではせいぜい15宇宙ノットである。それ以上の速度では太陽系内に無数に存在する直径数センチから数メートルの小天体を捕捉しても回避することが出来ない。
小天体とは言え、相対速度50宇宙ノットで衝突すれば、ヤマトの装甲板でも瞬時に溶解して大穴が開くことは必至である。エンジンの性能のみではなく、旋回性能、多次元フェイズドアレイレーダー、操縦システムなどの全てが一年前から長足の進歩を遂げたことが示されている。

「この“ゆきかぜ”級は小型であるため波動砲はもとより、大出力ショックカノン等、巨大なエネルギー変換装置を必要とする兵装は装備できません。そこで、主兵装は衝撃波弾頭を装備した速射型宇宙魚雷ということになります。この宇宙魚雷はプロトタイプをヤマトの航海で実戦試験したもので、非常に有効であることが証明されております。また、将来的には縮退タキオン粒子を炸薬とした波動エネルギー魚雷の装備を予定しています。」両舷に16門の魚雷発射管を備えた駆逐艦の性能緒元が次々と表示される。
「しかし、ワープ機関の装備はこの大きさでは不可能であるため、外宇宙で運用する場合は、大型母艦により目的宙域まで輸送せざるをえません。とわいえ、建造コスト、期間は非常に低く抑えられるため、世界各国の造船所および月面造船工廠において量産体制に入り、既に10隻が進宙しております。」
 
 これまで、背筋を正して静観していた長官は目を開き、おもむろに語り始めた。
「言うなれば、波動エンジン搭載艦艇としては極めて限られた戦域のみで運用される艦種ということになる。ヤマトの様に大出力ショックカノン砲や波動砲を搭載する訳でもない。しかし、太陽系内に限定した運用ならば機動力と、十分な配備数で強力な防衛力たりえると考えている。」
「諸君を、第三太陽系外周艦隊第一宙雷戦隊に転属を命じる。そして、それぞれ新型駆逐艦の艦長に任命する。」
「無論、戦果を期待しているが、生還が第一義であり最優先であることは、厳命しておく。」
一同の顔を見渡し、一呼吸おいて、
「さて、艦隊司令であるが、旧北米連合艦隊護衛隊長のスプルーアンス少将が任に着く。提督はすでに月面明けの海基地で、艦隊を引き渡され君たちを待っている。」
スプルーアンス提督の顔がスクリーンに映し出される。宇宙会戦の戦傷であろう、頬から右目の上端まで傷跡があり、右眼球には義眼がはめられている。義眼によるすごみだけでなく、歴戦の勇士であることを伺わせる厳しさを漂わせている。
「宙雷戦隊司令部はスプルーアンス提督の乗艦によって地球標準時明日1600をもって第三太陽系外周艦隊旗艦軽巡洋艦タイコンデロガ艦内に移る。なお、情報部の山田少佐は情報参謀として艦隊司令部に出向する。」
「だから模造紙に手書きの張り紙だったのか。」ふと、隣に座る士官が呟く。細表であごひげを蓄えているが、歳は25位だろうか。
「何か、質問は?」
 スッと挙手をする大柄の士官。古代より2人右隣に居た、士官が挙手し、起立した。一同の視線が集まるが、動じる様子はない。
「旧日本艦隊旗艦“えいゆう”砲術長、小澤治三郎少佐であります。質問してもよろしいですか」
「どうぞ。」長官は静かに答えた。
「今回の任務は了解いたしました。艦は艦長のみでは動かせませんが、乗組員はどうなるのでありますか?」
「現在、地球防衛軍には航宙士官、砲術士官はいうに及ばず人的に全てが不足している。生き残りの米州連合艦隊、欧州連合艦隊、日本第二艦隊の尉官、曹官級の大半を教導部隊に編入し、宇宙戦士訓練学校生の教育に当たっている状態だ。今回、ようやく特別課程および高等課程合わせて140名の修了生を送り出すことができた。この卒業生が君たちの指揮下に入る。」
長官の言葉が切れるのを、待ちきれないように小澤は声を荒げた。
「ということは、宇宙戦士訓練学校出のヒヨッコばかりで戦線に赴けと。」
すこし古代はうつむく。その古代がヒヨッコなのだ。いかに英雄だ、少佐だと言われても、まだ19歳の若者であることには変わりがない。
古代の様子を察してか、小澤は少し咳払いをして、やや押さえた口調で続ける。
「強力な雷装、新型エンジンとはいえ、戦力は扱う人間が全てを決めます。乗組員の養成をいかがお考えですか?」
「小澤君、君の言うとおりだ。だが、実戦の中でしか次世代を担う人材教育は出来ないと思う。ガミラス本星無き今、本格的な戦闘経験を積むのは当分無いかもしれん。だからこそ、私は若者達にこの任務を与える決意をしたのだ。ガミラスと戦い抜き、生き抜いた君たちの姿を彼らに見せてやってほしい。」
「分かりました。我が戦隊も教導部隊ということですね。」
「そのとおり、だからこそ、生還することを第一義としたのだ。若者に生き抜き、最後の勝利を掴ませる術を見せてやってほしい。なお、各艦に配属される乗組員のデータは各員に渡したファイルに入っているので、後ほど確認するように。」
敬礼して小澤は着席した。
「よろしい。全員、明日0800に横須賀基地第二バースに係留している駆逐艦303号「あまつかぜ」に乗船、9000、月面明けの海基地に向け出港せよ。なお、以後小澤少佐が艦長として「あまつかぜ」の指揮にあたれ。解散。」
全員が起立し敬礼する。
「古代。君には駆逐艦301号「ゆきかぜ」に乗ってもらう。お兄さんの守君の艦と同じ名だ。しっかりやってくれたまえ。そうそう、それから相原通信士だが、彼には戦隊司令部付きの通信参謀の辞令を出してある。」
「相原も・・・ですか。」
「実は、今回の作戦において、君のお兄さんが作った艦隊運用ドクトリンを参考にしておるのだ。スプルーアンス少将が、非常に高く評価してね、弟である君を引き抜いたという訳だ。それに、今回の作戦では艦隊内暗号通信が非常に重要でね、地球で最高の無線技師として相原君を配属したのだよ。」
「そういう事でありますか。」
「これを君に渡しておく。古代守予備役准将のオリジナルだよ」
 古めかしい、紙メディアの表紙に、
 宙雷戦隊戦闘運用要項 日本艦隊護衛隊 古代守
と書かれている。古代守らしい几帳面な筆跡だ。古代はこれを受け取ると、懐かしい共にでも合うような顔をした。「兄さん・・・」
「長官、ありがとうございます。」敬礼する古代。
「うむ、では頑張ってくれたまえ」
藤堂長官は、返礼し、他の艦長達にも声をかけていく。不意に、小澤が歩み寄り、大きな声で話しかけてきた。
「古代君。よろしく頼む。古代守や真田とは、士官学校の同期でな。よく門限破りに無い知恵絞ったものさ。」
「そうですか、小澤先輩。」
「奴が、我が艦撤退の盾としてガミラスに突っ込んでいったとき、俺は「えいゆう」の艦橋で見送ることしか出来なかった・・・ああいう戦闘は、もうしたくないな。」
古代には、小澤の言わんとしていることが解っていた。
「では、明朝「あまつかぜ」で待っている。」
敬礼すると、不器用なウィンクで古代に合図を送る。その向こうでは、雪がトントンと書類を束ね、それをファイルに挟むと、小脇に抱えて退室しようとしている。
ちょっとあわてた古代は小澤に素早く敬礼をするが、制帽のツバに当たる。バツが悪そうに帽子を整える。
「雪。ちょっと待ってくれ。」
「古代艦長。勤務中ですよ。」
「ちぇー。英雄の丘で7時に待ってるからね」
「新艦長。ご命令ですか?」
「そう、命令だよ」
「了解。古代艦長さん。」
そう言い残すと、雪は長官と共に退出した。良い香りが古代をちょっと照れさせ、古代は照れ隠しに頭を掻いてみたりする。
ふいに古代は小さく独り言をつぶやいた
「女の子ってのはマセてるな〜」


楽しく拝読してます^^

>>> 長田亀吉   -- 04/11/30-00:10..No.[3]
 
    「らしい」セリフのやりとりや、作者独自の補完がとてもつぼをついていて楽しく拝読してます。これからもマイペースで頑張ってください^^
 
長田艦長、ありがとうございます。

>>> とよちん。   -- 04/12/06-03:53..No.[4]
 
    これからも、マイペースでアップしていきますので、よろしくお願いしま
す。ちょっと理屈っぽい文章になっちゃったので、読みにくいかもしれま
せん。なが〜い目でみてやってください。
だんだんミリタリー色を薄めて物語っぽくしていきます。舞台背景の雰囲気を出すために最初だけ堅いですが、おつきあいください。

 
山田安彦

>>> とよちん。   -- 04/12/06-04:02..No.[5]
 
    ちなみに、皆さん山田安彦という人物を覚えていますでしょうか?
ヤマト2でガトランチス兵を尋問した、あの奇怪な人物です。
彼がなぜ、ヤマトに乗り込んだのかというところを、このお話で解釈してみ
ようと思っています。それ以外にも、古代が1stで拿捕したガミラスパイロットも出演します。
 


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