はるかなり故郷サンザー


『【第三章 暗い夜空 前編】 』

 >>>とよちん   -- 04/12/07-07:07..No.[6]  
     土星の輪の内部に軌道を有する衛星パン。直径はわずかに10kmの岩塊である。輪の内部に軌道を持つため、接近するのは極めて難しい。
一隻のガミラスデストロイヤーが土星の輪の上部を舐めるように航行する。土星の輪は直径数ミリから数センチの小さな氷塊が、同一軌道をほぼ同じ相対速度で回っている。極めて静寂な世界である。
ふいにガミラス艦は輪の切れ目に出た。幅は20km程しかない、まさに運河のような空間である。衛星パンが輪の構成物質を引力によって吸収あるいははじき飛ばした結果出来た、天然の運河である。
 ガミラス艦は慣性制御スラスターにより、静かに方向転換すると、その運河に進入していく。
「コンラッド操縦士、もっと丁寧に繰艦しろ。戦闘機じゃあねえぞ。イオン排出量に注意しろよ。それから反射光を漏らすなよ」
茶色の戦闘服に身を包む艦長が、潜望鏡に似た、艦長用の情報コンソールに捕まりながら操縦士に声をかける。操縦士官、砲術士官、通信士各1名の狭い艦橋内部に、重い緊張がたちこめる。操縦士は艦隊乗組員の戦闘服ではなく、暗緑色の戦闘機用パイロットスーツに身を包んでいる。
「そんなに一度に言わんでください。操縦士っていっても、小型艇の教程しかやってないんですから。」
若い操縦士は額に汗をぬぐいながら答えた。
「そう緊張せずに力を抜け。ただし、極めて慎重にな。」
 艦長は、操縦士の肩を軽くたたく。
「測的した探査衛星に対して反射角を一定に保っています。コンラッドはうまくやってますぜ」
古参兵であろう、砲術士官が報告する。
「この基地を猿どもに知られるわけにはいかん。もうじきバレラスIIの修理も完了する。それまでの辛抱さ。」
 この運河にはビーコンを設置していないため、自動操縦による進入ができない。ガミラスデストロイヤーの操縦士は自分の目とカンに従いながら、艦を進めていく。
「ガーランド艦長。基地の放射防御圏まであと5分です。」
「そうか、もうじき家だな。みんな喜ぶぞ。今日の土産は、是非持ち帰らねばな。」
「今回は、大収穫でしたからね。」
「50トンのコスモナイトと、食料、それに地球人波動エンジン技師の捕虜は大きいな。」

 どこまでも直線に続く運河の遙か先に衛星パンが見えてくる。
「艦長。基地の光学および電磁波防御圏に突入しました。これで、地球人どもには見えなくなりました。」
「我々が、猿どもより優れていると感じられる、唯一の装備だな。なあ、コンラッド。」
ガーランドはふと自嘲気味に笑って見せた。
白っぽい岩石の固まりである、衛星パンが大きく見えてきた。
「敵味方識別信号発信。ゲートを開かせろ」
「了解。」
通信士がコンソールを操作すると、艦橋側面のレーザー発信器から衛星パンに向けてレーザービーコンが発信される。
「若造どもを家に帰すまで、もうしばらくさ。」
がーランドは小さく独り言をつぶやいた。
ガミラスデストロイヤーは静かにクレーターに擬装されたゲート内に進入していった。

 
 同じ頃、月面標準時では午前7時。地球極東州標準時で午後11時。
「母さん、まったく心配性だな〜。」
携帯電話(といっても、現代のものより幾分大きいが)を持ちながら、車に乗り込む相原。幹線道路に面したアパートの一室か出庫する電気自動車。
相原が車を始動すると同時に、部屋のロックが掛かり、ガレージが開く。外は、暗いトンネル状の幹線道路である。時折、輸送用のトラックが通り過ぎる。
「大丈夫だって、今度は太陽系から出る訳じゃないんだし。」
「もう遅刻しそうだから切るよ、月から盛岡までの直通電話は、すごい高いんだからさ」
「今度は、土産を買ってくるよ。土星ワッフルとか買って帰るから。それじゃあね。」
 携帯電話とバックに詰め込んだ荷物を助手席に放り込むと相原は、ステアリングを握り、アクセルを踏み込んだ。何となくレトロな雰囲気な車だが、相原の趣味だろう。
相原の勤務先であった明けの海基地までは、いつもなら30分ほどの通勤時間であった。いつもは、身体一つでの出勤だが、今日の出勤は着替えやら、相棒の通信機などでずいぶんな大荷物になっていた。
「古代さんが来るのか。また楽しくなりそうだ」そう独り言を呟き、ややアクセルを踏み込む。超伝導モーターが心地よい加速を生み出す。
やがて、天井部分が透明になり、漆黒の空が見える。硬化テクタイト製の天蓋まで高さにして100mくらいであろうか、片側4車線の幹線道路は基地に近づくにつれて車両の量が増えていく。やがて、物資搬入用車両のみ優先となり、一般車両は一車線に押し込まれてしまった。そして一般車両の列はまったく、動かなくなった。
 相原はナビを覗き込む。軍用情報では、宙雷戦隊用の補給物資搬入予定が表示されている。
「一個艦隊分の補給物資を運び込んでるのか。こりゃ大ごとだね」
相原は、ナビに11桁の暗証番号を入力した。
「これでよしっと。軍用ネットってどうしてこう、簡単なんでしょうね〜」
勝ち誇った様に相原が眺めている、ナビゲーションに最優先車両と表示された。
「これで、この相原通信参謀様が最優先で基地までご案内ってね。」
 彼の癖は直っていないようだ。


東京メガロポリス宇宙艦隊士官用官舎。午後11時。
 小澤は乗組員の記録を読みながら、頭にたたき込んでいた。10人の新艦長もそれぞれ同じことをしているだろう。各艦乗組員総勢14名。小さな3000トンの駆逐艦所帯である。
もう最後のコーヒーを飲んでから何時間になるだろうか。
 ふと乗員名簿を読みながら昔の、といってもほんの4年ほど前を思い出していた。苦しいばかりで何の希望も見出せなかった時代だ。
4年前地球防衛軍日本艦隊は総勢65隻25万トン、米州欧州連合艦隊はまだ150隻以上が健在で、戦艦、巡洋艦などの大型艦艇が方形陣を形成して正面からの砲雷撃戦を繰り広げることができた。しかも、ガミラス冥王星前線基地もようやく建設されたばかりで、駐留艦隊もほんの30隻程度でしかなかった。 
いかに強力なガミラス艦隊といえども、おいそれと艦隊決戦ができるような戦力ではなかった。数度にわたる外惑星宙域での戦闘でも、多大な犠牲を払いながらもほぼ互角に渡り合うことができた。
 しかし、遊星爆弾の無差別攻撃が本格化されると、地球環境の悪化は目に見えて加速し、人的・物的資源のほとんど全てを深深度地下都市建設に振り向ける必要があった。もはや地球の工業力では損耗艦の補充はおぼつかなくなっていた。戦局は雪崩を打って悪化しつつあることは艦隊士官でなくても明らかであった。一度の会戦ごとに艦影は目に見えて減少していった。
 そして最後の冥王星会戦。まさに死に魅入られた地球人の最後の戦闘の様相であった。
 戦艦「えいゆう」の燃えさかる艦橋砲塔主砲管制室の有様が、思い出される。応答の無くなった主砲管制室に向かい戦闘艦橋から駆け込むと、そこには、炎と冥王星空域の絶対零度が渦巻いた地獄があった。生きたまま焼かれた乗組員が、瞬時に凍り付く様を緊急閉鎖されたハッチから見るだけしかできなかった。
「もう、あんな戦いはしたくないな。」
そうつぶやくと、乗員リストを閉じ、ため息をつく。
 そして、死地へ追い込むかもしれない新しい部下達のデータを目で追い始めた。


登場人物紹介

>>> とよちん   -- 04/12/24-09:35..No.[7]
 
    ども、とよちんです。
登場人物が増えてきたので、ここら辺でオリジナルキャラクターと新しい人物設定したキャラクターを紹介します。皆さんご存じのキャラクターは省きます。

コンラッド・ヒルベルト; ガミラス残留部隊の戦闘機パイロット。ヤマト13話で古代に拿捕された少年兵。ガミラス本星滅亡後に、太陽系残留部隊に合流し、海賊さながらに生き延びてきた。生粋のガミラス人ではなく、被征服民族の末裔。放射性ガスなしの地球型大気中でも生存可能。ガミラス軍人としての誇りと、被征服民の悲哀の間で苦悩する。

アドルフ・ガーランド; 太陽系残留部隊司令。ガミラス突撃艦隊司令として、太陽系外周を航行中に、冥王星基地が壊滅した。太陽系の反対側に居たためにシュルツ特攻に間に合わず、生き残る。その汚名と、コンラッド等若いガミラス兵を生き延びさせる義務感とに苦しむ。若き司令官。

小澤治三郎;古代と同じく駆逐艦303号「あまつかぜ」艦長。元戦艦「えいゆう」砲術長。部下思いの苦労人。古代守の同期生であり親友の弟として古代進を暖かく導く。砲術のエキスパート。
  
アーノルド・D・スプルーアンス少将; 地球防衛軍太陽系外周第三艦隊宙雷戦隊司令。沖田提督の古い友人で、沖田に命を救われたことがある。このときに、右目を失った。

山田安彦; 地球防衛軍情報部少佐。対敵情報分析室勤務。太陽系外周艦隊宙雷戦隊情報参謀としてスプルーアンス提督の乗艦「タイコンデロガ」に乗り込む。かつてのガミラス戦により、家族と恋人を失い、ガミラス人を極めて憎む。ガミラス残存部隊の殲滅を生き甲斐にしてきた男。ただし、地球至上主義に対しては疑問を抱いている。

相原義一;軽巡洋艦「タイコンデロガ」乗艦の艦隊司令部通信参謀。軍用暗号のスペシャリストとして、山田少佐とコンビを組む。ハッカーとしての能力は趣味で磨いた。

藪義之;軽巡洋艦「タイコンデロガ」の艦長。ヤマトの藪機関士の兄。弟の死の真相は知らされていない。生きて帰り、英雄扱いされる古代に、微妙な感情を抱く。

 


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