はるかなり故郷サンザー


『【第三章 暗い夜空 後編】』

 >>>とよちん   -- 04/12/26-02:03..No.[9]  
    古代を始め新艦長9名、新しい司令部参謀達は司令部専用輸送車両に乗り合わせて宇宙港に向かった。建設中の首都メガロポリスを抜けると、宇宙軍専用地下パイプウェーに入る。ガミラス戦以来、防衛軍の専用設備はすべて大深度地下に建設されている。やがて、パイプウェーは旧横須賀地区に建設された宇宙港エリアに進入した。旧司令部同様、新設された宇宙港では物資の搬入と建設工事の喧噪のまっただ中であった。司令部専用輸送車両は優先通行車両であるため、通常車両をオフリミットした車線を走る。
 
「艦隊司令部に敬礼!」
 一足先に乗艦していた小澤を始め乗組員総勢14名が左舷露天甲板に整列して古代以下新艦長と指令部員を迎えた。返礼しつつ、左舷のタラップから乗艦した。
「司令部要員乗艦完了しました。」
 副長を兼ねる砲術長が宣言すると、全艦にそれを告げる笛が響き渡る。小澤は、左舷タラップから続く通路で彼らを敬礼で出迎えた。
「古代以下9名乗艦許可願います。」
「許可します。」
敬礼しつつ、新品の塗料の臭いが乗艦する古代の鼻腔をくすぐる。まるで、ヤマトに最初に乗り込んだ時の様だ。沖田の旗艦えいゆうの艦内に充満した薄いシアン臭と血のにおい、横浜に繋留されているヤマトの男臭い汗の臭いとも違う、エネルギーあふれる感じだ。
 古代達の後に続き、暗緑色の制服を着た参謀達が小澤に対して挨拶する。
「山田以下艦隊司令部要員4名乗艦許可願います。」
「許可します。では、小官は艦橋にて指揮を執ります。各位は士官室のシートに着席してください。出港は0900です。」
 小澤は、そう言い終わると狭い通路を艦橋に向かった。わずかに1.5mの幅の通路を艦軸中央に向かうと、狭いタラップを上る。戦艦ならば、通路幅は3m以上であり、艦橋までエレベーターで向かうのだろう。艦の大きさ的には「えいゆう」と同程度の小型艦である。
「あ!艦長、艦橋へ!」
ぬ〜っと顔をのぞかせた小澤に気づき、あわてて砲術長が宣言する。
「皆、配置に就いているか。」
「はい、艦長!」
 小澤は若い乗組員達の顔を見渡す。制帽のつばを掴み、正す。そして、
「では、往くか・・・・」
 といい、小澤は小さくほほえんだ。
「出港用意、錨を上げろ。」
「了解、錨を上げます。外部接続ポート解除。補助動力始動します。」
「艦内、内部動力に切り替え完了」
「補助動力出力100%」
「反重力推進器にコンタクト!船体浮上!」
「船体起こせー!」
駆逐艦「あまつかぜ」の船体は、何の音も上げず緩やかに上昇を開始した。艦橋内部に太陽の日差しが差し込む。
「船体上昇、高度100、150・・・500安全規定高度を確保」
「現在の上昇率を維持しつつ、波動エンジン点火用意」
「波動エンジンシリンダーへの閉鎖弁オープン。補助動力より波動エンジンシリンダーへエネルギー充填80、90、・・・100%完了。フライホイール接続準備よし。」
「よし、行くぞ!」
「波動エンジン始動!フライホイール接続点火!あまつかぜ発進!」
「あまつかぜ発進します!」
後部のノズルから空気をイオン化した赤い炎がほとばしる。横須賀基地の着陸床が見る間に小さくなって行く。それどころか、東京メガロポリスも小さくなり、やがて遊星爆弾により穿たれた巨大なクレーターがその輪郭を見せる。横浜付近に着弾した遊星爆弾によって関東地方南部をえぐり取られた弾痕が見渡せる。古代の両親をはじめ、五百万人以上を死傷させた傷跡だ。駆逐艦あまつかぜは、さらに、日本列島全域を見下ろせる高度へと見る間に舞い上がる。座席に固定された体にかなりのGを感じる。ヤマトほどの大型戦艦ではもっと緩やかな加速のため、感じることは無い加速度だ。
「大気圏離脱します。」
「よし、第二宇宙飛行に切り替えろ。波動エンジン大気圏外出力へ移行。」
「了解、波動エンジン大気圏外出力へ。大気圏航行用波動エンジン・ファンジェット停止。」
「重力制御による軌道修正を第二フェーズへ移行。高度450km。軌道傾斜角度65度の宇宙艦隊専用第一軌道に乗りました。本艦軌道進行上至近に輸送船1、軽巡1を確認。回避コースは確保しております。」
「よし、地球を一周した後に、第一軌道より月軌道への遷移を行え。民間船の航路を横切るぞ、十分に気を付けろ。」
「了解。軌道変更シーケンスを開始します。」
「衛星軌道管理局とのデータリンク完了。設定航路軌道上の障害物クリア。本艦航路を妨害する民間船の航行を当該空域に認めず。」
「よし、航海士、月軌道へ向けて第二加速せよ」
「了解!」
駆逐艦あまつかぜは、その船首を月に向けて宇宙空間を突き進む。いまだに地球の懐であるが、以前彼らが目にしていた赤い地球ではなく、ほとんどを青い海で覆われた姿である。地球の反射光が美しい。
「みんな良くやった。初航海にしては上出来だ。月軌道までは自動航行であるが、民間船の往来が激しい内海であるから、十分に注意するように。」
「了解しました。艦長。」
「それでは、艦内全機構の再チェックにかかれ。」
「了解!」
艦橋の若い乗組員達が唱和する。
あまつかぜは、暗黒の宇宙に舳先を向けて加速する、その先には月が白い光芒を放っていた。月と地球の反射光、それ以外は全くの闇であった。地球で見上げた雲の少ない青く輝く空とは対照の極というべき宇宙だ。そして、この宇宙こそが新しい戦場なのだ。

あまつかぜが向かう暗い宇宙の先に、月が白く輝く。

 月面明けの海基地。
 施設の大半は地下に築かれ、月面上にはわずかな監視哨と宇宙港のハッチが見えるのみである。
 地下施設の一角。白い壁に穏やかな間接照明が光る。不自然で過剰な清潔感と表現できる通路が延びる。微かにオゾン臭がする。ふと白衣を纏った一団と、将官の制服を着た長身の軍人がすれ違った。白衣の一団に古風な聴診器を首から提げた白髪の男がいる。彼の存在が、ここが病院であることを示している。聴診器は緩やかに揺れる。引力が六分の一であるために、振り子運動は緩やかになる。
 短く借り上げた金髪にやや色の濃いサングラスを架けた軍人が通路の奧に向かう。サングラスの下の義眼が光る。二名の警備員が守る一室の前に止まると、警備員に合図し、そして、自動ドアから内部に入る。
内部は、医療機器が所狭しと置かれ、中央にはやや大きなベッドが置かれている。すべてのチューブとコードは中央のベッドに横たわる人物に集中している。各モニターは生命データを表示しているのだろう。
 注意深くベッドに歩み寄ると、サングラスをとる。
「スプルーアンス君か」
ベッドに横たわる人物の目が開く。口は開かないがベッドサイドのスピーカーから電子的な声がでる。呼吸機器によりふさがれた喉を通すことなく、脳から直接声が紡がれている。
「沖田。いよいよ、行って来るよ。貴様の子供達と一緒にな。」
「・・・頼む。」
「大丈夫、全員生きて帰す。貴様には土星での借りがあるからな。」
「・・・・右目は救えなかった。」
「気にすることはない、俺の不運をもって先にあの世に行っただけだ。」
スプルーアンスは、沖田の手を握りしめる。
病床の沖田の黒い瞳には、動かない体に似つかず遙かに暗い宇宙が映っている様であった。


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