はるかなり故郷サンザー


『【第四章 勝利か死か 前編】』

 >>>とよちん   -- 05/02/08-13:03..No.[10]  
     「こんなはずではなかった。」
 今頃は、将軍にでもなって本星に凱旋しているはずだった。あのときの総統のように。

 ガミラス本星の帝都バレラスで、凱旋するデスラー執政官の青い総旗艦とドメル将軍の白い戦艦が、空を埋め尽くす三千隻の艦隊を率いて降下してくる様子を見上げながら、士官学校の学生だった俺は勝利を約束してくれるガミラス共和国に絶対の忠誠を誓っていた。俺が士官学校を卒業する頃、大マゼラン星雲第七宙域のガミラス人植民惑星国家群を統一したデスラー執政官は総統となっていた。常勝将軍として総統に憧れる気持ちと、若くしてガミラスの絶対権力を握った英雄への嫉妬は、俺の中で相容れぬまま共存していた。宇宙を自由に飛び、常に戦場にあることで葛藤を忘れようとしていたのだろう。

 ガミラス大帝星が大マゼラン星雲の覇権をほぼ確立するころ、俺は巡洋艦の艦長になっていた。総員20名の小さな艦だったが、航続距離の長い巡洋艦は宇宙艦隊の便利屋として宇宙を飛び回っていた。デスラー総統の絶対権力を受け入れない旧元老員派や旧貴族共の艦隊を追い、宇宙海賊共を討伐しながらの航海が続き、やがて連続ワープ可能な俺の艦は銀河系にまで到達していた。俺の航海した後には、超高真空のワープ航路が開かれていた。

 やがて銀河系方面への侵攻作戦が始まった。俺の開いた航路を通り、侵攻部隊5個艦隊500隻,総員6万5千名が送り込まれることとなった。第一の目標は銀河系外縁部であるオクトバス原始星団。その前衛に橋頭堡を築き、銀河系オリオン腕の制宙権を確保することだ。オリオン腕外縁のこの宙域には複数の有人惑星を有する恒星系が存在していることは分かっていた。その大半は未開の異星人共の星だが、いくつかにはガミラス旧勢力残党が逃げ込み、我々の脅威になりうることが情報部により報告されていた。
 戦略価値の低い未開惑星は、その宇宙戦力を破壊し、惑星に閉じこめるか、環境破壊兵器で絶滅させれば事は足りた。思えば、ずいぶん酷いことをしたものだ。あの地球もそうだが、滅亡させられる方の気持ちは、その立場にならねばわからぬものだ。
 「勝利か死か、か・・・」
考えてみれば、圧倒的な科学技術と軍事力を有するガミラス宇宙艦隊に敗北の文字はない。純軍事的に勝利するのが当然なのだから、その上で敗北する指揮官には死で部下の命に対する責任を問うしかない。

 幾度かの艦隊戦と対惑星殲滅作戦の後に、総統は次の指針となる大戦略をガミラス人に示した。そこには、ガミラス帝国による銀河系征服の根拠地として、そして次世代のガミラス本星として、太陽系地球征服計画が計画されていた。俺はそのころには大佐になり、一個戦隊を率いるようになっていた。初陣以来12年が経っていた。無我夢中で戦い続けた日々だったが、気が付くと俺の戦友や部下達には生粋のガミラス人はほとんど残っていなかった。考えてみれば、総統のマゼラン星雲統一の過程で数百の星系が大ガミラス帝国の版図に含まれたのだ、被征服民の比率が増えるのも当然のことだろう。ガミラス本星とガミラス人が滅ぶのは、覇気のままに宇宙を進む総統の夢にすがった、ガミラス本星人の自業自得だろう。だが、彼らを道連れにする道理はあるまい。敗残の将である俺は、死を持って責任を負わねばならない。だが、彼らを巻き添えにすることは出来ない。

「コンラッドであります。ガーランド司令。お食事をお持ちしました。」
「おう。入れ。」
コンラッドは破れたパイロットスーツに赤褐色の宇宙戦闘用ジャケットを羽織った姿で、トレーを持ってきた。トレーには粗末な食事と深い青色の酒をついだグラス、そして緑色の小さなカプセルがのっている。あのヤマトの航海の時のように、あるいは食糧危機にあえぐ地球の地下都市の配給食のようである。
「今日は、凱旋記念でありますので、コック長が酒を特配してくれました。それからガミラシウム製剤です。食後に忘れずに飲むようにと医務長からの伝言です。」
「おう、豪勢だな。お前達は済ませたのか?」
「いえ、これからであります。」
「そうか。飯が済んだら、今後の作戦計画について打ち合わせを行う。21:00に総員を司令室に集合させてくれ。」
「了解しました」
ガーランドはグラスから少し酒を口に含むと、コンラッドに向き直り、やや優しい目線になり口を開いた。
「コンラッド、ずいぶん顔色が悪くなったな。まるで地球人の様だぞ。」
「いえ、司令、私の故郷ではこの肌の色が普通です。ガミラス本星型大気に順応するために遺伝子改良手術を受けていますが、ガミラシウムガスを呼吸しなければ色素は落ちてしまいます。」
「そうだったな、シュルツとお前は同郷だったか。奴も妙な肌色だったがな。」
「シュルツ司令は故郷の英雄です。戦死なさいましたが。偉大な敵と戦っての結果ですから、本懐だと思います。」
「ああそうだな。奴とは銀河系侵攻作戦開始からの戦友だったが、先に逝ってしまった。勇敢で気持ちの良い奴だった。負けるときは奴と一緒に戦死すると思っていたが、人生とは思い通りにはいかないものだな。」
ガーランドはトレーの上のカプセルを口に放り込むと、もう一口酒を含んで、飲み下した。
「どうだ、故郷に帰りたいか?」
「ええ。ですが、司令。司令の・・・本星はすでに・・・。」
「ははは。気にするな、俺の故郷は大マゼラン星雲だ、ガミラスも良いが、お前の故郷も良いところだろう。行ってみたいものだ。宇宙空間でお前を拾い上げる確率を考えると、お前とはよほど強い縁で結ばれている様だな。シュルツも同郷となればなおのことだ。」
「はい、司令。あなたには命を救われました。もし、ヤマトから解放された私の機体を見つけてくださらなければ、ましてガミラス軍法に従って処分されていたら・・・。」
「ガミラス軍法における死は、指揮官にこそ適応されるものだ。お前に何の責任が有ろう。あのころの我が軍はガミラス軍人の精神をねじ曲げて理解していたにすぎなん。生きて、ガミラスの・・・故郷の為に戦え。」
「はい。ありがとうございます。閣下こそ、よろしければ私の故郷においでください。新しい帝国軍を作るためにも、閣下に来て頂ければ、きっとガミラス帝国は再建できます。ガミラスワインのデスラー紀元95年物ほどでは有りませんが、地酒の良いものがありますし。」
「それは、楽しみだな。」
「それでは、コンラッドヒルベルト失礼します。ごゆっくりどうぞ。」
コンラッドの退室を見送ると、口元に自虐的な笑みを浮かべてガーランドはつぶやいた。
「もっとも、俺の体は大マゼラン星雲まで持つまい。だが、あいつ等をそこまで送り届ければ、その時こそ軍と帝国への責任が、そしてシュルツへの借りも返せるか・・・」
 ガーランドは残りの酒を飲み干すと、椅子に深く体を沈めた。


設定補足です。

>>> とよちん。   -- 05/06/26-20:13..No.[13]
 
     補足しますと、デスラーが総統に就任する以前のガミラスは、貴族が元老院を構成し軍と政府を集団指導する政治形態だと設定しました。元老院が軍司令官として任命したのが執政官となります。そして、平民であるガーランドが18歳で士官学校学生だった時代、20代前半のデスラーはすでに執政官の地位にいます。その時代、ドメルは白色の戦艦ドメラーズI世を駆り、デスラーの片腕として勇名を馳せていました。このときの宇宙戦力がデスラーの権力簒奪の原動力となったと考えられます。その後はマゼラン方面軍主力として、ドメルに与えられたものと考えられます。
 おそらく、ヒス副総統は本来貴族の実力者として、形骸となった元老院を抑える役割を担っていたのでしょう。旧勢力を骨抜きとする獅子身中の虫としての役割は、彼にぴったりの役割でしょう。また、デスラーとドメルによる軍事独裁体制に対して、表向きは協力しつつも本来の貴族としてのプライドが時折表に出ていると考えると、劇中における彼の態度(軍法会議のシーン)に納得ができます。
 


▼返信用フォームです▼

Name
URL
Title       
Message
Forecolor
Password     修正・削除に使用(4〜8文字)




■修正・削除: 記事Noと投稿時に入力したパスワードを入力し
edit(修正)又はdelete(削除)を選びupdateボタンを押下

No. Pass
あっぷっぷ Ver0.595 Created by Tacky's Room