はるかなり故郷サンザー


『【第四章 勝利か死か 中編】』

 >>>とよちん   -- 05/04/30-14:08..No.[11]  
     椅子に身を預けてしばらくまどろんでしまったのだろう。ガーランドは自分が設定した会議の時間を告げる呼び出し音で意識を覚醒させた。ここしばらく、いつの間にか眠ってしまうことがある。おそらくは、生粋のガミラス人の生理的特徴である、中枢神経のガミラシウム要求特性に起因するのだろう。生理活性を維持する脳細胞表面受容体の活性中心であるガミラシウムの摂取量が減少すると、ガミラス人は徐々に脳細胞活性が衰え、摂取が完全に途絶えれば中枢神経が破壊され死に至る。

「死の直前はまさに脳が爆発する苦痛だそうだ。自分達はここ数十年間で、この苦痛を体験する希有なガミラス人になるだろう。その前に戦死したいものだ。」ガーランドは、一年前に太陽系残留が確定的になった時、軍医長が告げた言葉を反芻した。そして、重い頭を振り軍服の乱れを整えた。

 ここ数ヶ月、ガミラシウム製剤の摂取量は最低レベルに落としている。 とはいえ、銀河系ではガミラシウムは極めて貴重だ。ガミラシウムを必要とするのは、軍医長と機関長と自分の3名だけだが、ガミラシウムそのものの半減期のため、最低量に落としても後3ヶ月しか持たない。それまでに、是が非でもマゼラン星雲に帰還しなければならない。自分の命が惜しいわけでも、ガミラシウム欠乏症の苦痛が怖いわけでもない。この残留部隊員で、座標星が見えない銀河系外宇宙の超真空航路を辿って長距離航海することができるベテランは、もはや自分達3人だけだからだ。マゼラン星雲にさえ行けば、あとはここ数ヶ月で操船技術を教え込んだコンラッドでも、どこかの有人惑星にたどり着ける。本星が滅亡しても末端の植民惑星全部が死に絶えたわけではないだろう。

半減期が極めて短く、核子変換によるガミラシウム生成には、極めて強力な重力により遮蔽された縮退物質の塊、つまりブラックホールが必要である。古い惑星であり、その歴史の内に何度かマイクロブラックホールと衝突し、そのたびに中心核にマイクロブラックホールをため込んだガミラス本星は、天然のガミラシウム転換炉となった奇跡の惑星だ。マイクロブラックホールの寿命は短く、そのような惑星は長期間安定できない。ガミラス本星は、マイクロブラックホールの融合と内核の質量によりブラックホールが安定できる質量に到達した、神の御技と思えるほどの幸運に恵まれた惑星だ。おそらく、太陽系から半径5万光年内にはこのような惑星や核子転換装置は一つも存在しないだろう。

 かつては、巨大な補給船が、ガミラス本星から潤沢に銀河系遠征部隊の末端まで、ガミラシウム製剤を運んできてくれた。しかし、ガミラス大帝星の巨大なロジスティックスは一年前から機能を停止している。

 昔、まだガミラス人が本星を離れて星の海に乗り出したばかりの頃、多くの船乗り達は、ガミラシウム欠乏症に苦しんだ。その後、深宇宙へ航海する船乗りや惑星開拓人達は遺伝子改変技術により、ガミラシウム欠乏症を克服し、やがてそれぞれの惑星環境に適応していった。コンラッドやシュルツの様に肌の色と引き替えに。しかし、ガミラス本星人の超長距離連続ワープによる航海技術の進歩と、軍事的な絶対優位が確立すると、ガミラス本星人を改造する遺伝子改変技術は失われ、逆に異星の環境へ適応した移民の子孫や被征服異星人に対する、ガミラシウムガス順応化遺伝子改変技術と惑星環境改変技術が長足の進歩を遂げた。
 短期的には遊星爆弾で外部からガミラシウムガスを打ち込み大気中に充満させ、長期的には惑星内核にマイクロブラックホールを打ち込み、惑星自体をガミラシウム製造炉とする壮大な技術体系だ。惑星の内核が完全にガミラシウム変換炉となると、マントルが収縮し地殻の下層には巨大な空洞が形成される。そして従順になった被征服民を遺伝子改造によりガミラシウムに順応させて奴隷として使役すればよい。
「随分身勝手な技術思想だな。まさか敗北して本星との兵站線が寸断されることなど想定していない驕った思想だ。良き強き軍人であろうとした自分でも陥ってしまった過ちだ・・・若造等は同じになってほしくないな。」

ガーランドは重い体を引きずるように司令室に向かった。時計は21時を5分ほど回っている。時間厳守のガミラス軍人は全員集合しているはずだ。司令室の扉の前で、崩れそうな膝に力を入れ、冷や汗を拭うと、ガーランドは司令官として何事も無いかのようにドアをくぐった。

 エネルギー節約のため、必要最小限にエネルギー消費を抑えたパン基地は、どこも薄暗い。しかし、総勢47名が集合した司令室は、煌々と照明が灯り、若者達の熱気がみなぎっていた。ガーランドが一糸乱れぬ姿で司令室に入ると、全員が起立しガミラス式敬礼で司令を迎えた。
「ガミラス帝国万歳!ガーランド司令万歳!ガミラス帝国万歳!ガーランド司令万歳!」
 ガーランドが、右手を挙げて返礼すると、その唱和が途絶え、静寂が司令室を支配した。
「諸君。いよいよ、バレラスIIの波動エンジンの修理用コスモナイトを揃えることが出来た。この辺境に残留した駐留部隊総勢47名、全員でガミラスへ、大マゼラン星雲へ帰ろう。」
「うぉおおおおお〜」
まさに歓喜の雄叫びが司令室を満たした。


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