はるかなり故郷サンザー


『【第四章 勝利か死か 後編】』

 >>>とよちん   -- 05/05/01-00:19..No.[12]  
     「“あまつかぜ”が入港する。港湾要員総員は受け入れ態勢を取れ。繰り返す“あまつかぜ”が入港する。港湾要員総員は受け入れ態勢を取れ。」
月面あけの海基地の地下ドックに放送がこだまする。
「相原通信参謀殿。“あまつかぜ”が入港します。司令部要員は桟橋で出迎えるようにと、艦隊司令の命令です。」
 生あくびを噛みつぶしている相原に、艦隊司令の副官がスクリーン越しに告げる。
「あ?ああ。分かった。すぐに行く。」
相原は椅子の背に無造作に欠けられていた制服の上着を掴むと、月面基地での勤務先である通信解析室から飛び出していった。地下6千メートルの大深度施設である司令部エリアから出発間際の高速リフトに飛び乗った。そこには、ちょうどスプルーアンス提督と第一戦隊司令である白善華(ペク・ソンヨップ)大佐が乗り合わせていた。円形のリフトの外周には簡素なベンチが設置され、スプルーアンスは腕組みをしながらうつむき加減で座っていた。やせた面長の白人は、額に皺を寄せて目を閉じている。相原は提督を見てあわてて敬礼をするが、緊張のあまり制帽を右手に持ったまま敬礼している。
「まあ、相原君そう堅くなるな。司令はちょいと見かけは怖いが、生粋の宇宙艦乗りさ。敬礼で宇宙船が動かないことはよく分かっていると思うよ。」
「はあ、そうでありますか。」
スプルーアンスは相変わらず、腕組みをして苦虫をかみ殺したような顔をしている。
「こいつはまずいリフトにのっちまったな〜」内心冷や汗を掻く相原であった。
白大佐は行き先である宇宙船ドックの桟橋を高速リフトに設定すると、軽くベンチに腰掛け足を組んだ。色白で、丸顔の東洋人の典型的な様相の人物だ。「まあ、そう緊張せずに座り給え。」相原を諭すと、白大佐は手に持っていた紙包みからパンを取り出し、ほおばり始めた。
「いや失礼するよ、今日は忙しくて食事の時間が取れなかったのでね。」
厳しい顔で腕組みをするやせた白人のスプルーアンスとパンをむしゃむしゃと食べる白大佐の乗るリフトは、相原が直立したまま目的地へ出発した。
リフトが加速すると、その向こうのスプルーアンス提督の帽子が落ちる。彼は相変わらず腕組みをして目を閉じている。かすかにスースーという規則正しい鼻息が聞こえている。
「いや、司令も忙しくて寝ておられんでな。」
提督は居眠りしていたのだった。それに気づいた相原は、急に緊張が解けてベンチに腰を下ろした。


 すでに“あまつかぜ“は月面に対して水平飛行に移行し、徐々に高度を下げている。眼下の月面上には赤と緑の誘導灯が灯り、地下ドックのハッチまで長い直線を描いている。宇宙船の入港は全太陽系測位システムと港口のILSビーコンにより自動化されている。
この時代、あえて操縦士が宇宙船の入港手順を行う必要は無い。だが軍用の装備は自動装置が破壊されたとして使用できるように、あらゆる補助設備が準備されている。とはいえ平時である現在、操縦士も未熟であることから小澤艦長は全自動入港を命令した。
「全自動プログラムにより入港シーケンスを実行します。」
小川航海士は、音声認識コンソールに定義命令を下すと、選択レバーを引き下げた。戦闘艦の操縦システムは音声による命令装置の定義付けにより、一つの制御装置で複数のシステムを動かすことができる。あくまで、目視と復誦により直感的に命令が実行される。民間船ならばコンピュータコンソールでコマンドを入力するか選択する動作を、わざわざレバーやダイヤル操作に置き換えている。一見すると不合理だが、極限の宇宙戦闘時にはこの方式が最も確実でミスが起きにくい。だがこのとき、小川航海士はプログラムの選択に極めて小さなミスを犯していた。入港するのは月面基地であり、重力が地球の6分の一であることを、最新の航法コンピュータは自動的に感知するのだが、彼は環境感知自動プログラムを設定をオートではなく地球に入港するように命令を下していた。
「小川航海士、少し高度が高いようだが、進入角度に問題はないか?」
「は?全自動でありますので、なんとも・・・」
「プログラムの実行状況を目視と計器で監視しないとは何事だ!」小澤の一喝が艦橋に響いた。
「は。はい。」小澤の一喝で小川はすっかり舞い上がってしまった。
「か、艦長。進入角度が0.25度も浅いです。こ、このままではオーバーランして、月面に衝突してしまいます〜!コンピュータが狂ってるんだ、どうしたらいいんですか〜!艦長!」彼は完全にパニックに陥ってしまった。
「小川航海士、ハッチまで、まだ50kmもあるぞ、落ち着け。」
「で、ですが、航法コンピュータの故障なら、ど、どうしたらいいのでしょう。」

窓の外を眺めていた古代も、進入灯と目視高度から、明らかに進入角度が浅い事を見て取り、艦橋で何事か起こっていることに気づいた。「ちょっと、おかしいな。」古代がシートベルトを外そうとすると、山田がそれを制した。「この船は小澤君の船だ、艦長にまかせよう。」

 そのころ、見る間に小川航海士の顔面は蒼白になり、一点を見つめたまま震えだしていた。小澤は艦長席から、降りると、小川航海士の後ろまで歩み寄ると、肩に手をかけて穏やかな口調で命令をくだした。「自動プログラムを解除せよ。」
「は、りょ、了解。自動入港プログラムを解除します。」
我に返った小川は、強制解除レバーを引くと、操縦桿に手をかけた。
「よし、進入角度を0.75度になるまで修正。進入灯の数を数えながら微速前進0.5を維持せよ。」
小澤艦長は、小川航海士の肩に手を置き、顔を小川の耳元まで突き出して命令を下す。
「角度、修正完了しました。」
「よし、進入灯の数はいくつだ?」
「3個です。」
「よし、今30km地点だ。角度を1.2度に修正せよ。機関士、速度を0.1まで落とせ。反重力制御は±0で維持せよ。」
「は、はい。了解。修正しました。」
「よし、ハッチと着陸床が見えてきたぞ。高度はどうだ?」
「ただいま500mを切りました。」
「入港管制。こちら、「あまつかぜ」艦長の小澤だ。これより手動操舵により入港する。もし、どっかに引っかけても初心者だから許してくれ。」小澤は通信士からインカムを受け取り自分で管制官に報告した。
「こちら入港管制。勇気ある新米さんを暖かく迎えてやる。寛大な我々は戦艦用の大きな着陸床を用意しているから、どーんと飛び込んでこい。」艦橋内のスピーカーから明るい声が帰ってきた。
気が付くと、小澤以外の艦橋要員全員が青白い顔で、小川航海士を見つめている。小澤は、「あちゃ〜」というふうに制帽の鍔を掴んだ。まいったなーという表情を隠すと。やや低く大きな声で「もっと、肩の力を抜け。お前なら出来るさ。」と言ってやる。
「は、はい、着陸床のILSをダイレクトにキャッチしました。」
「いいぞ、後はILSに乗って下降せよ。ゆっくりとだぞ。飛行機と違って、いざとなれば、この艦は空中に制止することだってできるんだ、落ち着いてやれ。それから、進入速度を毎秒0.01ずつ落とせ。」
「りょ、了解。」
「入港ハッチを通過します。着陸床まであと200メートル、150メートル。」
「いいぞ、そのまま、そのまま。」
「高度10、5、・・・0。速度0着床しました。「あまつかぜ」は音もなく、あまつかぜの数倍大きさを持つ、着陸床の干渉ダンパー上に降り立った。それと同時にガントリーロックが船体を固定した。「本艦はあけの海基地に無事入港した、乗組員各位は入港手順を実行せよ。」小澤は全艦に向けて伝達し、艦長席に身を沈めた。それと同時に着陸床も「あまつかぜ」を載せて地下のドックに下降を開始した。桟橋までは、着陸床ごと運ばれる。巨大な入港ハッチが閉鎖され、漆黒の宇宙が見えなくなる。
「先が思いやられるな〜」とのど元まででかかった言葉を飲み込み、小澤は深いため息を吐いた。
「副長。入港手続きを頼む。それから小川航海士、良くやった。だが、航法コンピュータの設定が重力自動補正モードでなく、地球入港モードになっていたぞ。」
「あ、本当だ。艦長、申し訳ありません。」
「コンピュータに頼らなくても、この艦はお前の操縦通りに動くんだ。計器に目を配り自分の目と腕を信じろ。」
「はい。艦長。」
「それから通信士。インカムを取り上げて済まなかったな、返すぞ。」
小澤は艦長席から、通信士にインカムを放り投げて返した。

 やがて「あまつかぜ」を載せた着陸床は2000メートルほど降下し、地下ドックに到着した。そこには、同様の着陸床が5基あり、9隻の駆逐艦と1隻の軽巡洋艦が二隻ずつ整列している。半数は、この基地地下ドックで建造され、残りは地球衛星軌道上工場衛星と地上で建造されてから、ここに回航された艦だ。そして、全ての艦艇には無数の物資搬入ロボットがコンテナを搬入している。
「あまつかぜ」に桟橋からエアロックが伸び左舷ポートに接続された。内部の気圧が調整され、艦内から扉が開放される。若干の気圧差があるのだろうか、艦内からシューっとエアーが漏れる。
 左舷ポートが解放されると、「あまつかぜ」の副長が安全確認を行い、下船が始まった。まず、副長が駆け足で50メートルほどのボーディングブリッジを走り抜け、港側エアロックに待ちかまえている港湾管理官に乗員名簿を渡し、艦の状態を口頭で説明した。
「あまつかぜ乗員の下船を申請します。」
「では、問題ないので、許可します。」お互いに敬礼して分かれると、副長はボーディングブリッジの電話で艦橋にその旨連絡した。
 ブリッジの窓から一部始終を見ていた小澤は、総員下船を命じた。士官室に現れた小澤は下船準備をすでに完了した新艦長達と司令部要員に敬礼すると、やや、ばつが悪そうに頭を掻いた。
「いや、新米がすこしばかり不手際をしましてな。気づかれましたか。」
「やはり、そうですか小澤先輩。」
「まあ、無事乗り切ったが、君の艦も似たり寄ったりだろうな。新米に怒鳴りつけるとろくな事が起こらんから、気を付けたまえ。」
「そんなもんでしょうか?ヤマトでは雷と鉄拳で鍛えられましたが・・・」
「まあ、そんなもんさ。」

山田情報参謀以下4名と古代以下9名が「あまつかぜ」副長に先導され下船すると、最後尾に小澤が下船した。
港側のハッチを抜けると、やや広い与圧室になっており、そこにはスプルーアンス以下月面組の艦隊司令部要員と126名の宇宙戦士が整列していた。
「総員、敬礼」
小澤は、藤堂司令より託された艦隊旗をスプルーアンスに手渡した。この瞬間、いよいよ、艦隊の総員が揃い、艦隊司令部はスプルーアンス座乗の軽巡洋艦タイコンデロガ号に移った。

 古代は、スプルーアンスの表情に沖田と同じ匂いを感じ取った。だが今は新兵を率いる艦長への不安が全てを塗りつぶしていた。


宇宙艦隊の編成と官位について補足説明。

>>> とよちん。   -- 05/06/26-20:48..No.[14]
 
     ここまでの登場人物にはそれぞれ、階級がついていますが、よく分からないと思います。そこで、補足説明します。
 ヤマト劇中では、艦隊司令と艦長が兼任されて描かれておりますが、あれは人的資源が極めて枯渇してる戦況下における特例だと考えられます。本来、艦隊司令部というのは複数の艦艇を統制し、戦術を指揮しなければなりません。艦レベルの指揮を執りつつできるような職責ではありません。おそらく二十三世紀初頭においても、軍隊では二十世紀の軍制を継承していると考えられます。そこで、艦隊の中でそれぞれの肩書きと階級がどのような職責をになっているかを以下にまとめてみました。駆逐艦艦長というのは、かなり下っ端だというのが分かると思います。

連合艦隊(二個艦隊以上で連合艦隊を構成)
 ・連合艦隊司令 (大将)         
 ・連合艦隊司令部付き参謀長(中将または少将)

艦隊(二個戦隊以上で一個艦隊を構成)
 ・艦隊司令(中将)            
 ・艦隊司令部付き参謀長(少将または准将)

戦隊(戦闘艦4隻で一個戦隊を構成)
 ・戦隊司令(准将または大佐)       
 ・戦隊司令部付き参謀長 (中佐または少佐)

戦艦艦長(准将または大佐)
巡洋艦艦長(大佐または中佐)
駆逐艦艦長(少佐)
水雷艇(大尉)

戦闘艦各課長(大尉)
各課班長 (中尉または少尉)
各課分隊長 (少尉または准尉)イスカンダル航海時の古代・島は本来ここ
士官はここまで。

以下下士官兵となります。

 また、各司令官には各級司令部付きの参謀が存在します。高級司令部では作戦、人事、情報、補給、通信など5課程度の参謀がおり、それを束ねるのが参謀長となります。参謀長は作戦立案補佐のみならず、各戦闘単位が円滑に連携できるように配慮する責務を負います。
 
 本来、軍人は実戦部隊の指揮と参謀勤務を繰り返して昇進していきます。それによって、より大きな戦闘単位を指揮する訓練をするわけです。古代君のように、艦長ばかりで昇進し続ける人物はかなり特異ではないでしょうか。
どっとはらい。





 
第三太陽系外周艦隊の陣容について(オリジナル設定)

>>> とよちん。   -- 05/06/28-10:34..No.[15]
 
    今回登場した太陽系第三外周艦隊の陣容を述べておきます。
 戦闘艦艇としては、軽巡洋艦(さらばのパトロール艦に相当)1隻、駆逐艦10隻、補給艦2隻からなります。この艦隊は、後にタイコンデロガ移籍に伴い、旗艦がヤマトに変更されます。
 さて、この陣容は、古代守予備役准将が著した戦術研究に則って編成されました(オリジナル設定)。高速駆逐艦隊による肉薄雷撃により敵艦隊を分断し、2戦隊が連携して、分断した敵艦隊を半包囲しつつ軽巡洋艦の波動砲射程に追い込むことを戦術の骨子としています。古代守のオリジナルでは、波動砲は想定されず、濃密な宇宙機雷原に追い込み、損傷したガミラス艦を空間騎兵隊による接舷戦闘で制圧することを想定していました。(オリジナル設定)
 さて、外周艦隊それぞれの艦艇は、標準設計図を元に、地球連邦加盟各国の造船所および月面工廠にて建造されました。命名権は、造艦費用を負担した各国が持つため、それぞれのお国柄を反映したものになっています。しかし、艦長と乗組員は連邦直轄の宇宙戦士訓練学校が受け持つので、出身国籍はバラバラになります。

直衛隊
  旗艦 軽巡洋艦 300 タイコンデロガ(米)
     駆逐艦  305 超勇(中)
          310 エレクトラ (EU)
     補給艦  3001 くにさき(日)
          3002 Mr・ロバーツ(米)

第1戦隊 駆逐艦  301 ゆきかぜ*(日)
          302 みねかぜ (日)
          306 スプレイグ (米)
          307 アーレイバーグ(米)

第2戦隊 駆逐艦  303 あまつかぜ*(日)
          304 かみかぜ(日)
          308 ブイヌイ(露)
          309 ベドウィ(露)
              *戦隊旗艦


 


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