第1021話「邂逅」
その夜、沖田は一人バーでグラスを傾けていた。

「今晩は!」
入って来た男は芥子色のコートを纏った、痩せぎすの中年だった。
男は懐から一枚の写真を取り出すと、店のマスターの鼻先に突き付けた。

「この男を見かけなかったか?」
そこに写っていたのは、青のジャケットを羽織った男だった。
・・・少し猿に似ているかもしれない。
「いいえ」
マスターが首を振ると、男は今度は沖田に尋ねた。
「あんたは?」
しばらく写真を見つめていた沖田が、ポツリと呟いた。
「あいつかもしれん。」
「なに!そいつは今どこにいる!?」
椅子を蹴倒さんばかりにして身を乗り出した男に、沖田は穏やかに告げた。

「正確にいうと、いたというべきだな。三日前、科学局で保管しているスターシアのカプセルを至急に防衛本部に移動させることになったという連絡の後、この男に良く似た連絡将校がやってきてカプセルを受け取っていった。ところが、そんな将校はどこにもいない事が判明してね。カプセルの内容は全てコピー済みなんだが、防衛本部は今大騒ぎだよ。」

「そうか・・・・奴め、こんなところでまでコソ泥働きおって・・・!」
「防衛本部が必死になって捜しているが、未だに見つかっていない。
もうここにはおらんだろう」

「そうか・・・・ついでだ、一杯やっていくか」
そう呟くと男は沖田の横の席に、どっかりと腰を降ろした。
「マスター、バーボンを頼む!」
写真を懐に戻そうとする男に、沖田が尋ねた。
「あんたはこの男を?」
「俺は、こいつをずっと追っているんだ。」
「・・・どこまで追うつもりだ?」
「世界の果てまで」
男は大真面目に言ってのけた。

「奴がどこに行こうと、決して逃がさん。地の果てだろうがどこだろうが必ず追いつめて、奴の両手に手錠をかけてやる。」
「そうかね。」
「ところで、あんたはなにをしてるんだ?」

「わしかね?わしも、もうすぐ旅に出るのさ。・・・宇宙の果てまで」
「宇宙の果てか!それは遠いな」
男は笑いもせずにうなずいた。

「そう、遠い。だが、必ずやり遂げると誓ったのだ」
男は沖田の眼を見つめ、大きくうなずいた。

「それじゃあ、乾杯!」
「乾杯!」
二人はグラスを軽く交わすと中身を一気に飲み干した。

「さて。三日前なら、まだ遠くに行ってないかもしれん。マスター、勘定だ!」
男は勘定を払うと立ち上がり、そのままバーを出て行った。

「お知り合いで・・・?」
マスターが遠慮勝ちに聞いてみたが、沖田は手にしたグラスに眼を向けたまま、静かに笑って見せただけだった。

違う時空、異なる世界に生きる男達の人生が一瞬交差した・・・そんなクリスマス・イブがあったのかもしれない。
もーりっつ
2001年07月20日(金) 19時52分50秒 公開
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■作者からのメッセージ
文庫より。2000年のイブにいただいた作品ですね。これまでのお笑い路線とは一線を画す名作です。感動しますね。(コメントBY長田)

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