第9912回 見慣れぬ客 |
のれんをかき分けて入り口の戸を開け店内へ入ってくる島 大介。 島「(笑顔)…こんばんは。おやじさん」 カウンターの向こう側の山崎が笑顔を返す。 山崎「まいど。おっ。ちょうどよかった。(後ろを向いて陳列棚からボトルを取り出して島へ見せる)…いいものが,はいったよ。バラン星から取り寄せた酒だ」 カウンターへ座る島。 島「よく手に入りましたね」 カウンターの上にボトルを置く山崎。 山崎「珍しいだろう? 地中植物のエキスがたっぷり入っているぞ。バランタインっていうんだ。飲むか?」 島「いりません」 山崎「ビーメラ産のロイヤルゼリーはんぺんもあるぞ」 島「遠慮しときます。ここんとこ,ゲテモノばかりで普通の地球の食べ物が恋しいんですよ。焼酎のお茶割りと,わさび漬けください。」 山崎「(ため息)…まったく。若いくせにチャレンジする気持ちが薄いなあ。古代なんか,美味い美味いと食べたあげくに,具合が悪くなってひっくり返ったまま病院行きだぞ。男ならそれぐらいの心意気がほしいもんだ。(作業にかかる)」 横を見る島。 島のふたつ向こうのカウンター席に座っている見慣れない男がひとり。かなり酔っているらしく,無言でうつむいている。動く様子もない。 どうにも気になって,その男の横に座る島。 島「(のぞきこむ)…大丈夫ですか? お加減でも悪くしましたか?」 男「(わずかに顔を上げる)…はい…」 島「(心配そうに)…顔色が悪いですね。すっかり緑色じゃないですか」 うつむいている男。 島「(やさしく)…ここへは初めてですね? 居酒屋やまとへようこそ。私はここの常連の客で,島と申します。お名前は何とおっしゃるんですか?」 顔を向ける男。 男「…わ…私は…」 島「(笑顔)…はい」 男「(懸命に顔を上げて)…な,名前は,げ…げ…(せっぱつまる)…げええええええええええ!!! (床へうずくまる)」 後ろへ跳びさがる島と山崎。 うずくまっている男。 男「げえええ! げえええ!」 はっとする島のアップ。 男に駆け寄る島。 島「(背中をさする)大丈夫ですか!」 落ち着いた様子の男。少し顔を上げる。 男「…す,すみません。実は…あの…私の名前は酔っている時はとても言いにくい名前でして…」 島「(すまなそうに)すみません。知らなかったものですから。でも,縁あって,せっかくここで話す機会ができたのに名前も分からないのでは,あまりにもさみしいじゃないですか。見ると私よりも目上の方とお見受けいたします。その人に”ねえ”とか”おい”とか”おまえ”とかなんて失礼な事は言えないでしょう? ぜひ,お名前を教えていただきたいのです」 男「…なるほど…。そうですね…。(深呼吸)…では,名前を言います…。(決心)」 島「(笑顔)…はい」 緊張する男の表情。 男「わ,私は…げ…げ…(せっぱつまる)…げええええええ!! げええええええええ! (うずくまる)」 後ろへ跳びさがる島と山崎。 うずくまっている男。 男「げええええ! げええええ! …にっつ…」 はっとする島のアップ。 男に駆け寄る島。 島「(背中をさする)大丈夫ですか!」 落ち着いた様子の男。少し顔を上げる。 男「…す,すみません…」 島「(すまなそうに)すみません。とてもつらい思いをさせてしまいました。私が,わがままを言ったばっかりに。本当に申し訳ありません。まったく私は,なんということを…。ところで,お名前は何というんですか?」 男「面白がってない? もしかして」 |
本田 英臣
2006年09月05日(火) 23時19分49秒 公開 ■この作品の著作権は本田 英臣さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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