9914回 仕事帰りの客 |
のれんをかき分けて入り口の戸を開け店内へ入ってくる島 大介。 島「(笑顔)…こんばんは。おやじさん」 カウンターの向こう側の山崎が笑顔を返す。 山崎「まいど。おっ。ちょうどよかった。(後ろを向いて陳列棚からボトルを取り出して島へ見せる)…いいものが,はいったよ。ガミラス本星から取り寄せた酒だ」 カウンターへ座る島。 島「よく手に入りましたね」 カウンターの上にボトルを置く山崎。 山崎「珍しいだろう? 酸の海の海洋深層水で造った酒だぞ。サンシャインっていうんだ。飲むか?」 島「いりません」 山崎「バラン星産の,ばらの丼もあるぞ」 島「遠慮しときます。ここんとこ,ゲテモノばかりで普通の地球の食べ物が恋しいんですよ。ポンジュースと,あじの干物ください。」 山崎「(ため息)…まったく。お前が喜ぶと思って危ない橋渡って取り寄せてるんんだぞ。古代なんか,美味い美味いと,この酒をがぶ飲みしたあげくに,酸でトロントロンに身体溶けちゃって倒れたツボから這い出して,闇にかくれて生きてたぞ。早く人間になれるといいな。あいつ。(作業にかかる)」 横を見る島。 見ると,ふたつ隣のカウンターに男がふたり座っている。軍服を着ているので,どうやらふたりとも仕事場からの帰り道らしい。ひとりは上司らしく,顔を真っ青にして怒っている。もうひとりは部下で,顔を真っ青にしてうなだれている。 ドメル「…一体,どういうことだね! ゲール君! 訳を説明したまえ!」 ゲール「…はい。実は,つい居眠りをしてしまったんです」 ドメル「言い訳するな!」 ゲール「そんなぁ。訳を言えって言ったから言ったのにぃ。しかもこれ,言い訳になってないじゃないですかぁ…」 ドメル「…反省の色がないな。わびの言葉ひとつも言えないのかね!」 ゲール「…大変,申し訳ありませんでした…」 ドメル「あやまって済むか!」 ゲール「そんなあ」 ドメル「(頭をかかえる)…ああ! 何という事だ! 私の責任だ! お前なんかに任せた私が馬鹿だったんだ!」 ゲール「…司令…」 ドメル「(頭をかかえている)」 ゲール「(見つめている)…司令…」 ドメル「(頭をかかえている)」 ゲール「そんなに自分を責めないでください」 ドメル「お前が言うな」 顔を出す島。 島「(ドメルへ)…あの。一体,どうなさったのですか?」 顔を向けるドメル。 ドメル「いや。実はですね…」 島「説明するんですか…」 ドメル「…私たちは総統閣下へ献上する酒を運んでいたのですがね。(ゲールをにらむ)…こいつに警備を任せていたにもかかわらず,その大事な酒を何者かに盗まれてしまったんですよ。犯人の足取りを追ってここまで来たんですが手がかりが何も無くなってしまって…」 島「何てお酒なんですか?」 (知らないぞお!!) 振り返る島とドメルとゲール。 両手を振っている山崎。千手観音(せんじゅかんのん)みたいになっている。 山崎「俺は知らないぞ! 知らない! 酒なんて知らないぞ! 酒ってなんだっけ? 全然意味わからん! サンシャインなんて知らない。知らない。そんな酒見たことも聞いたこともないぞ! サンシャインって何だ? サンシャイン? サ…サンシャインン? 何だ? サ…サンサンと?」 見つめている島とドメルとゲール。 島「わかりやすいですよ。おやじさん」 |
本田 英臣
2006年11月07日(火) 23時02分23秒 公開 ■この作品の著作権は本田 英臣さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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