Yamato Only Novel Deck(ver3.0)


『出撃前夜』

 >>>Alice   -- 03/07/16-23:41..No.[64]  
    男は端整な顔を僅かにゆがめて、ため息をつく。

「困ったものだな、母上にも。」

男の目の前に積み上げられた物、それは、下着のランニングシャツとブリーフだった。それぞれ2ダースはあるだろうか、新品らしく燦然と純白の輝きを放っている。

「今時白のランニングとは…。一昔前、ワイシャツに透けるランニングは、ツキノワグマと陰口を叩かれたのをご存知ないのか…」

文句を言いながらも、男はシャツを1枚広げて、サイズを確かめるために体に当ててみる。

「それに…」
男はパンツに目をやる。
「せめてグレーのボクサーパンツにして欲しかった。」

その時、ノックもなしに突然ドアが開き、女が入ってきた。

「息子や、準備はできたかね?」

「母上!ノックぐらいしてください。」

男はあわててシャツを放り出す。

「別にいいじゃないの、親子なんだから。下着はそれで足りるかねぇ。」

「十分過ぎるくらいありますよ。だいたい我々の体は汗もかかなければ、新陳代謝もないから垢もでない。下着は1セットもあればいいんです。」

「でも、おまえ…」

母親が少し悲しそうな顔をしたので、アルフォンはキツイ言い方を反省した。

「し、しかし、母上のお気持ちは嬉しく思います。」

「母さんは、ただおまえが心配で…。情報将校として抜擢されたのは、すばらしいことだけど、1人息子のおまえが、はるか彼方の地球とやらに行ってしまうなんて…。」

「母上。」

「地球ってのは、どんなところなのかねぇ。私たちは頭髪が抜けやすい種族だから、向こうの気候があわなくて、おまえのふさふさの髪が抜けてしまったらと思うと、夜も眠れないんだよ。」

「私はちゃんと毎晩ケアしていますから、大丈夫です。(…多分)」

「食べる物も不自由するかもしれないと思ってね、レトルトパック入りの惣菜をいっぱい作ったから、これも持っておいき。」

「母上、戦艦には食堂もありますし、もちろんコックもいますから、ご心配はいりません。」

「でも、お袋の味が作れるわけじゃないだろう?ほら、これが母さん特製の肉じゃが、こっちがフリーズドライのみそ汁、そしてこれは漬物だよ。そうそう梅干に塩昆布も忘れちゃいけないね。」

山のようなレトルトパックを前に、アルフォンは本当に困っていた。

「母上、乗組員が持ち込める手荷物は、小型トランク1個だけです。」

「何を言っているの!おまえは技術情報将校なんだから、そのくらいの特例は認めさせればいいじゃないか。資料だとか何とか言って持ち込めば、わかりゃしないよ。」

「………」

「それからこれを見ておいてちょうだい。」

「なんですか、これは?」

「いえね、時間も迫っていることだし、もうメソメソしている暇がないからね。だからお見合い写真を。」

「お、お見合い?」

「そうだよ、おまえもこっちに返ってくれば、もうそろそろ結婚したっていい頃だしねぇ。今だってほら、8人も候補者が上がっているんだよ。私は今この人が一番気に入っているんだけど。水晶都市の設計者でね。」

「母上、やめてください。こんな話でお別れしたくはありません。」

「お別れったっておまえ、地球占領後には帰ってくるんじゃないの?」

「それはそうですが…」

「それとも、まさか地球で誰か見つけようとか思っているわけじゃないだろうね。」

「そ、そんなことは…」

「ダメよ、ダメよ、他星の女なんて!そんなことになるのなら、母さん、お前を星の彼方になんか行かせなかった。」

「わ、わかっていますよ。楽しみにしています、どれだけお見合い写真が増えているか、母上。」



かくしてアルフォン少尉は、山のような下着類とお袋の味レトルトパック及びお見合い写真を、地球侵攻艦に持ち込んだ。もちろん持ち込み手荷物の規定量は遥かにオーバーしていた。

情報将校という極めて重要な役職にありながら、少尉が艦隊旗艦から遠く離れた一軒家を占領早々に借り上げた最大の理由は、地球の女ではなく、その荷物の多さだったことを知る人はあまりいない。



くすりくすりと

>>> 長田亀吉   -- 03/07/17-20:55..No.[65]
 
    笑いました(^^)
本編での「膝枕」もマザコンのなせる技なんでしょうか(笑)
ブリーフってのが彼らしいですね。
暗黒の人だけに白にはこだわってたりして(笑)
 
自分は・・

>>> ぺきんぱ   -- 03/07/17-22:46..No.[66]
 
    ぬは、ぬははは、と笑ってしまいました。
で、読後の感想ですが・・
やっぱり、Aliceさん、上手いっ!
いつの間にか、会話がパート1の雪と雪ママの会話になってるし、
それがぜんぜん不自然じゃなく、さらりと入ってる。
ここんところが『腕』なんですよね。 脱帽です。真似できないや。

 
すばらしい・・・

>>> 火山十三   -- 03/07/19-23:44..No.[67]
 
    すばらしいの一言です。私の小説など足元にも及びません。
勉強させていただきます。
 
うひゃー!

>>> ぴよ   -- 03/07/21-02:54..No.[68]
 
    タイトルを見てワクワクし、いったい誰が主人公だろう…とか思っていましたが、まさかこの御方とは…!
イカルスダイアリーもそうなのですが、Aliceさんの小説を読むと、それまで「ちょっと苦手」とか「イマイチ関心が持てない」とか思っていたキャラに、突然愛着が湧くんですね。(実は山崎さんと加藤四郎くんがそうでした。…元からファンの方すみません。)これはひとえにAliceさんの筆力と愛のなせる技でありましょう。いつもながらすごい切り口です。
というわけで、ワタシの中では従来「宝塚カブレ」という酷評を受けていたア○フォン君、いきなりランクアップです♪しかし、そ〜か〜、アレはヅラではなかったのか〜。顔のほかのパーツと比べて、どうも不自然な色彩と形状だと思っていたのですが(笑)。オチがまた最高ですね!
 
感動しました!

>>> パンダガール   -- 03/09/11-18:43..No.[73]
 
    私、数少ないアルフォン少尉ファンなので、とても楽しく拝見しました。彼ってなんだか死ぬために地球に来たというか、物悲しい雰囲気が漂っているので(またそこが魅力的なんですが)、こういう楽しいエピソードに出会えるとすごくうれしくなってしまいました。
 


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