奇襲攻撃
作者: 戦舟   2011年09月25日(日) 04時12分03秒公開   ID:T2SlLVuuolI
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加藤達の操るコスモタイガーUは小惑星の陰から飛び出し、黒色機動部隊の旗艦に向かってフル加速した。
「古屋、チャフ散布開始、デコイはそのまま敵艦隊の真ん中を突っ切らせて、適当な所で他の空母にぶつけちまえ!俺達はこのまま旗艦の飛行甲板を叩く!とにかく、敵艦載機の発進を阻止するぞ!」
「了解!最初の一撃ば成功させなくては。電波妨害が有効なのは、せいぜい5分くらいだと思うね。急げ、隊長!」

「攻撃機部隊、発艦準備宜し。α、β、γ各小隊は所定位置に付け。カタパルト射出準備。」
「配下の各母艦、艦載機の発艦準備完了。攻撃隊発進3分前。」
黒色機動部隊の攻撃準備は着々と整っていた。ハードギアは、相変わらず不機嫌そうな様子で報告を聞いていた。
まったく退屈な戦いだ。あんな反乱分子どもを遊ばせておくから、増長する奴らが増える。女王が何を躊躇していたのかは分からんが、もっと早い時期に全力で叩いておけば良かったのだ。確かに連中の戦艦は、個艦の戦闘力としては中々大した物だ。だがその数は知れている。物量で押し切ってしまえば殲滅出来るモノを何故、今まで放っておいたのだろうか?
彼の心中には、機動部隊の空襲で宇宙海賊達を叩きのめすという作戦が、失敗する可能性は微塵も無かった。それ程に自分の艦隊の攻撃力に絶大な自信を抱いていたのだ。そして、自分達が攻撃を受ける可能性についても、やはり考える事は無かった。そして順調に進行すると思われた作戦の発動直前に、波乱は起こった。
「ハ、ハードギア様!僚艦との通信、途絶!強力なジャミングを確認しました。こ、これは・・・!」
「レーダー、ホワイトアウト!正体不明の電波障害。機能不全発生直前に、複数の機影らしき物が!」
ハードギアは立ち上がると大声で吼えた。
「うろたえるな!電子防護、急げ。通信とレーダーを回復させろ、急ぐのだ!」
その刹那、窓外で紅蓮の炎が上がり、強烈な爆発の振動が艦を揺るがした。明灰色の機体が、その機首に鮮やかな機関砲の発射炎を煌めかせながら、機械化人達の眼前をローパスして行く。束の間、彼等は呆然とその有様を眺めていた。飛行甲板に駐機している爆装した攻撃機は、機関砲の掃射を受けて次々に爆発、そして搭載していたミサイルが誘爆を起こし始めていた。
「敵襲!甲板の攻撃機が誘爆しています。このままでは危険です!昇降エレベーターを閉鎖、防火シャッター降ろせ!消火システム、作動急げ!」
「レーダー、依然使用不能です!敵機の数、確認できません!対空砲も照準不能です!」
ハードギアは唸り声のようなの呪詛の言葉を唇から漏らしながら、燃え上がる攻撃機を凝視した。しかしながら彼が禍々しい言葉を向ける対象は、敵機ではなく自軍の指揮官、ファウストその人であった。
何たる事だ。敵にECM(電子妨害戦)を仕掛けられ、先手を取られるとは。圧倒的航空優勢下で、こんな事など有り得ないはずなのに。海賊どもが有力な攻撃機部隊を保有しているという情報など、聞いておらんぞ。確か新手の戦艦が一隻、奴らに合流したとか言ってはおったが・・・。ファウストの奴、敵の新手に空母がいる事を、私に隠していたのだな?そうまでして俺を陥れたいのか。何たる卑劣漢なのだ、あの男は!
自分の過失は認めず、ただひたすらに味方を呪う指揮官の様子を、部下達は凍り付いたかのように見つめていた。爆炎の照り返しを受け、ハードギアの狂態は幽鬼の如く浮かび上がって見えた。

加藤四郎は、周囲の状況を注意深く確認していた。自分が銃撃した旗艦らしい大型空母が1隻、そしてデコイを無理やりミサイル代わりに叩きつけた他の空母が2隻、火災を起こしている。だが、残り9隻の空母と、護衛艦群は無傷だ。良く訓練された兵士なら、そろそろ最初の混乱から立ち直る筈。彼がそこまで考えた時、後席から大声が聞こえた。
「隊長!6時の方向、高度差プラス二百、距離九百!敵機を確認、機数6!」
次の瞬間、コックピットの真横を曳光弾が掠めた。加藤は反射的に機体を横滑りさせると、推力をリミット一杯まで引っ張った。そのままコスモタイガーUを急上昇させる。冷たい汗が体中から噴き出すのがわかった。
6対1か。こうなると分かっていたつもりだが、やはり少々しんどい対戦だな。何とか突破口を見つけて、相棒ともども生還したいもんだが。
それから暫くの時間、加藤は必死の操縦を行った。自分がどんな機動を行い、どんな攻撃を仕掛けたのか、正確には思い出せない。古屋が敵状を報告する大声も、枯れて聞き取り難くなっている。敵の何機かにはダメージを与えたとは思うのだが、撃破出来たかどうかは分からない。攻撃の結末を見届ける余裕はなかった。
「隊長、もう限界だ。連中のECCM(電子妨害対抗手段)、フル稼働。敵の通信とレーダー、回復!」
古谷が怒声とも悲鳴とも聞こえる報告をして来る。ヘッドアップディスプレイの残弾表示も、既に赤色だ。敵のロックオンを告げる警告音が耳障りに聴覚を刺激した。後方監視レーダーによると、少なくとも2機が喰らいついているのが分かる。そして前方から1機、下方から1機・・・。いよいよ年貢の納め時か?加藤が唇を噛んだ瞬間、耳元に彼女の声が聞こえた。
“いいえ、まだよ。諦めてはダメ。頑張って!四郎。”
彼の心臓は激しく鼓動した。大きく目を見開きながら、脳裏を感慨が走る。
既にこの世を去ってなお、俺にエールを送ってくれるのか?澪・・・! 
加藤は反射的にスロットルを絞ると、機体を左に捻りながら、逆噴射をかけた。体をシートに固定するハーネスが肩に食い込み、重力制御装置の限界を超えた機動である事を彼らに教える。コスモタイガーUの機体は不気味な軋みを発しながら、強引な機動に耐え続けた。その時の加藤には、何故か機体の周囲全ての空間を知覚出来ているような気がしていた。自分の機動と敵機群の位置、そして彼我の未来位置関係。全てを理解した上で、無意識の内に超絶的な回避運動を行っていたのだ。次の瞬間、加藤の視界の眼前に、イモムシ型の機体が銃撃の炎を吐きながら飛び出して来るのが見えた。敵機は彼の行った急減速と急旋回に対応出来ず、コスモタイガーUを追い越してしまったのだ。
「隊長、うだで奴だな、おめは!大した操縦だ。天才だね・・・!」
古屋が圧倒された様子で加藤に話し掛ける。だが、加藤にはそれに答える余裕は無かった。何とか今の攻撃は回避したが、すぐに次の奴が来る。こっちはもう残弾も乏しい。さあ、どうする?
眼前の敵機を注視する加藤の視界に、突如として、降リ注ぐ真っ赤な火線が割り込んできた。さっきまで彼らのコスモタイガーUを追い回していたその機体は、大爆発を起こして砕け散る。
「加藤隊長、古屋、大丈夫か?ケガは無いか?」
唖然とする加藤と古屋のレシーバーに、聞き慣れた仲間達の声が響く。遂に彼らを救う騎兵隊が到着したのだ。
「バカ野郎、お前ら遅いんだよ!おかげで死にかけたじゃねえか!」
満面の笑みを浮かべながら、嬉しそうな大声で僚機を罵倒する加藤。
「隊長、そりゃないよ。これでも全開ですっ飛んで来たんだぜ!?」
二人の搭乗する早期警戒機型の周囲を、3機のコスモタイガーUがボヤきながら素早く取り囲んで護衛体制に入る。古屋が感極まった声で通話した。
「笹井、西沢、坂井・・・。わいーめわぐだのー(ありがとう)助かったんずや。」
すると少しおどけた、そしてホッとしたような感情を感じさせる声色が再びレシーバーに響いた。
「古屋、凄いしゃがれ声だぞ。大丈夫か?それにしても相変わらず訛ってんな、お前。」
「訛ってねえっす!」
古谷の拗ねた叫び声と、僚友達の笑い声を聞きながら、加藤は操縦桿を軽く握りなおした。そして。誰にも聞こえない小さな声で呟いた。
「澪、ありがとう。助かったよ。」
キャノピーの向こう側に、美しい笑顔が見えた気がした。

照準器一杯に広がる敵空母の甲板を凝視しながら、台場正は乾いた唇を舐めた。甲板上には爆装した攻撃機が整列している。狙い通り、奇襲に成功したのだ。発進する前、あのヤマトの指揮官、古代進の発した言葉が思い出された。
『台場君、攻撃機の発進を絶対に阻止したい。ともかく空母の飛行甲板を叩く事が優先される。他の護衛艦達は、二の次だ。』
分かってますよ、古代艦長。いや、艦長代理と言ってたような?すると他に正式な艦長がいるって事かな?
他所事に行きそうな思考を強引に眼前の空母に戻しながら、彼はさらに思う。
いかん、この余分な思考は現実逃避だ。確かに凄い数の敵機だが、こちらが一方的に攻撃出来る千載一遇のチャンス。今までは奴らを迎撃するだけの、受け身一方の航空戦だった。ヤマト≠フお陰で、初めて敵の母艦に牙を突き立てる機会を得たのだ。此処でビビッてどうするんだよ、俺は。
台場の脳裏を、キャプテン・ハ−ロックの不敵な笑みが過ぎる。自分の弱気を見透かされたような気がした彼は、一人コックピットで赤面した。
キャプテン・・・必ず大戦果を手土産に帰還してみせます。その時は、俺を一人前の戦士として認めて下さい!
若者らしい、青臭い直情で気合いを入れ直した台場のスペースウルフは、無傷らしい敵の空母めがけて急降下を開始した。慌てふためいた様子で対空砲火が打ち上げられるが、もう遅い。彼はトリガーに指を掛けると、他の無人機達と、そして自分自身に命令した。
「第一目標、空母!第二、第三目標も空母!・・・フォイア!」
同様の攻撃が、この宙域全体に展開されていた。整然と編隊を組んで奇襲攻撃を仕掛けるコスモタイガーUとスペースウルフに、黒色の空母達は蹂躙され、制圧されつつあった。絶対的な攻撃機の数の少なさから、撃沈に至った艦は皆無だが、全ての空母がその飛行甲板をしたたかに打ち据えられ炎上している。航空戦力としての機動部隊は、壊滅したと言ってよかった。コスモタイガー隊とスペースウルフ隊は絶望的とも言えた数の差を跳ね返し、ハーロックの目論見通りに制空権を手にしたのだ。

「艦長代理!索敵機、タイガーズアイ01より緊急電を受信!タイガー3′Jり返すタイガー3=I古代さん、奇襲成功です!」
ヤマトの第一艦橋に、相原の嬉しそうな声が響く。古代自身も意図的に緊張した感覚を弛緩させ、微笑を浮かべた。やはり、厳しい戦闘の中でもリラックスは必要だ。だが、それと油断とは違う。すぐに意識を切り替えると、彼は通信班長に命じた。
「相原、エメラルダスを呼び出してくれ。」
命じながら、古代は考えていた。奇襲は成功した。ならば此処は更に戦果を拡大しなければならない。

「クイーン・エメラルダス。敵の空母部隊に対する奇襲は成功しました。しかし、おそらく艦載機の発進は阻止出来ても、母艦の撃沈には至っていないと思われます。残念ながら我々の持つ艦載機の数では、そこまでの攻撃力は望めません。ヤマトは水雷戦隊の追撃を中止して、敵機同部隊の攻撃に向かいます。」
「・・・わかりました、古代。機械化人どもの水雷戦隊は、もはや壊走しています。貴方がたは、空母群に止めを刺しに向かって下さい。私は海賊島の援護に向かいます。御武運を、ヤマトのみなさん。」
古代達が敬礼を返すのと同時に、ビデオパネルからエメラルダスは消えた。そしてヤマトに寄り添うように航行していたクイーン・エメラルダス号は大きく舵を切ると、舳先を海賊島へ向ける。彼方に小さく見える要塞小惑星は、周囲の空間を光線と爆発の坩堝に巻き込みながら突進しているのが分かる。
「苦戦しているようね。ハーロック、トチロー・・・」
エメラルダスは呟くと、重力波エンジンの出力を上げた。優雅な飛行船のシルエットは、その姿にそぐわない速度で次の戦場へと急行する。
ヤマトから急速に離れて行くクイーン・エメラルダス号を見送ると、古代は太田の方を振り返った。
「太田!加藤達の送ってきた座標は確認出来ているな?」
「はい。9時の方向、上下角マイナス15度、距離およそ300宇宙キロ。左舷側、約220宇宙キロ先に目視できる暗黒ガス雲の向こう側です。」
「わかった。島、小ワープ準備。暗黒ガス雲の手前まで一気にジャンプするぞ!アナライザー、タイガーズアイ01に着弾観測を命令しろ。」
それを聞いた真田は驚きの声を上げた。
「艦長代理!暗黒ガス雲を盾にして、敵の探知圏外から、主砲の超遠距離射撃で空母を仕留めようというのか?」
真田に視線を向けた古代は、凄みのある笑みを見せながら答える。その表情は、見る者に猫科の大型肉食獣を連想させた。
「真田さん、言ったじゃありませんか。新型波動カートリッジ弾は、100宇宙キロでも届くと。アウトレンジ砲撃で揉み潰してやりますよ。」

⇒To Be Continued...

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