苦境
作者: 戦舟   2011年12月18日(日) 05時20分30秒公開   ID:T2SlLVuuolI
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「第22、第40パルサーカノン砲台、大破!全体火力は、82%まで低下しよったで!補修が追いつかん!」
「敵狙撃戦艦、前面に突出していた5隻が後退します!替わって後列にいた5隻が前面に出てきます!シールドのエネルギー中和率が80%を切ります!このままでは、エネルギーコンデンサーが持ちません!」
ヤッタランや螢の悲鳴じみた報告を聞きながら、キャプテン・ハーロックはブリッジの中央に腕を組んで仁王立ちしていた。特に変わった戦術を指示する訳でもなく、正面から敵戦艦部隊と殴り合うままにさせている。既にかなりの数の敵艦を撃沈、撃破したが、海賊島の損害も累積しつつあった。機械化帝国艦隊は、戦線を脱落した艦の補充を後衛が素早く行なっており、すぐに手数が減る様子は無い。ハーロック達は息をつく暇を見出せず、消耗戦の一歩手前、という状況を強いられていた。
「キャプテン、ヤマト≠ニクイーン・エメラルダス号≠ェ、敵水雷戦隊を撃破!隊列を解きます!エメラルダスはこちらに向かってくるようです。ヤマト≠ヘ別方向へ転舵しました・・・ワープ反応!速いっ、何て速いワープなの!!」
螢の言葉に、ハーロックは口元をニヤリと歪める。思惑通りの働きを見せる僚友達に対する満足と感謝の現われだ。
こっちが体を張って時間稼ぎしている間に、上手く事を運んでくれているようだな、エメラルダス。そしてヤマト=B
「螢、エメラルダス達の戦果を確認してくれ。彼女が此方に向かってくる以上、問題は無いだろうがな。念の為だ。」
「はい。敵の水雷戦隊は、既に壊走しています。おそらく、六割以上が撃沈、又は撃破。戦意を喪失しての逃走と思われます、作戦的な転進の様子は認められません。ヤマト≠フ行き先は不明です。一体何処へ向かったのかしら?」
「つまりは、機械化人どもは尻尾を巻いて逃げ出したっちゅう事やな?懐に飛び込む前に、クイーン・エメラルダス号≠ニヤマト≠ノタコ殴りにされて降参ちゅう訳や。」
パルサーカノン砲台を忙しく操作しながら、ヤッタランが状況を確認する。ターゲットスコープを睨みつける目付きは厳しいままだが、口元には、笑みが浮かんでいた。
その時、アルカディア号≠フビデオパネルが反応を見せる。螢が操作すると、スクリーンにクイーン・エメラルダスの流麗な姿が現われた。
「ハーロック、敵水雷戦隊の駆除は終了した。ヤマト≠フ艦載機隊とスペースウルフ隊による、敵機動部隊への奇襲も成功。ヤマト≠ヘ、敵空母に止めを刺す為に転進したわ。私はこのまま、そちらの援護に向かいます。」
アルカディア号≠フ艦内が歓声に沸く。海賊船の乗組員達は、苦しい状況が報われ、戦況を逆転できる手応えを感じていた。

確かに戦場の空気が変わりつつあった。海賊島の正面で隊列を組み、その宇宙要塞へと集中砲火を向けている黒い鋼鉄の獣達。その後方から、スマートなシルエットの宇宙戦艦が急速に接近していた。飛行船を模した彼女の艦体。その全てから破壊の炎を撒き散らす様子は、恐ろしくも美しい。クイーン・エメラルダス号≠ノよる攻撃は、全ての注意を海賊島へと向けていた機械化帝国の戦艦部隊に、奇襲を受けたに等しい衝撃を与えていた。突然の攻撃に反応できず、その隊列は後方から徐々に切り崩されていた。
「水雷戦隊は、空間魚雷の射程に入る前にすり潰されてしまったな。クイーン・エメラルダス号≠フ速射能力には相変わらず脱帽するが、それよりも今回はあの戦艦だ。あの一発あたりの破壊力はあまりに危険だ。」
戦況を遠望しながら、黒衣の男は一人ごちた。数の力で海賊島を絡め取ろうと画策したが、腹背から圧力を受けては対応出来んかもしれんな。我が配下達はどうにも突発的な状況に弱い。想定通りの状況ならば、一糸乱れぬ洗練された艦隊運動を行えるのだが。此処は新たな命令を与え、建て直しを計らねばならん。
「ファウスト様、ハードギア様の機動部隊より緊急通信です。」
部下の呼び掛けに、ファウストの思考は一時中断される。味方の攻撃機が未だに戦場に現われないという事は、何かしらあったと予想は出来る。ハーロックらに対する手立ては、奥の手とも言える手段が残してあるが、機動部隊が沈黙している理由を確認しない訳にも行くまい。
ファウストは黙ったまま部下を見やり、軽く頷いた。上官の寡黙さの理由を良く理解している彼は、音を立てて踵を合わせると報告を始めた。
「『機動部隊は、敵攻撃機の奇襲を受けた。撃沈の危機は無いが、飛行甲板の損傷により艦載機の発進は当面不可能。敵空母は何処に有りや?』との事です。如何なされますか?」
ファウストの外面は普段と変わらない。だが、その心中には驚愕と悔恨の念が渦巻いていた。
敵空母だと?アルカディア号≠フ艦載機は、殆どが無人機の筈だ。どんな手段で、複雑な状況に対応せねばならん艦隊攻撃を・・・・そうか、あの戦艦か。航空機の運用能力まで持っているとは。それにしても敵攻撃機の発進を見逃していたとは、私もヤキがまわったな。ハードギアの奴に、また余計な恨みを持たれると厄介だ。あの男は、何故か私を政敵と見なしているらしいからな。
「ハードギアに警告してやれ。先程、クイーン・エメラルダス号≠ニの隊列を解いて別行動を取った敵戦艦、あれの目標はおそらくお前達だ、とな。」
彼の部下は、上官の言葉に驚きを隠さなかった。
「しかし、機動部隊にも護衛の戦艦群がいます。ただ一隻で殴りこんで来るというのですか?」
「先程の砲撃を見ていなかったのか。あの戦艦の火力は、今まで我らが知っていた兵器とは違う。もっと異次元的な物だ。先手を取られれば、水雷戦隊と同じ憂き目を見るぞ。すぐに伝えてやれ。尤も、素直に受け取ってくれれば良いがな。」
まったく、理不尽な。男の怨念、嫉妬ほど面倒なモノもあるまい。いっそあの戦艦が厄払いを行ってくれるならば、それも良いと思わないでもないが、部下の面前で口に出して許される言葉ではあるまいな。
戦闘以外での面倒事を意識下にしまい込むと、ファウストは次の行動へと神経を集中した。前方の暗黒ガスの彼方にいる、旧友にして仇敵、キャプテン・ハーロック。奴と直接刃を交える時が来たのだ。
「ゴルバ≠出すぞ。全要塞艦、前へ!壱号艦から十号艦の順、単縦陣で突入する。」

「キャプテン。右舷後方、4時の方向上下角マイナス15度、距離約80宇宙キロ。暗黒ガス雲内に強力なエネルギー反応!何かがいます!」
「螢はん!近いで、そりゃ!何で今まで探知できんかったんや?まあ、あのガス雲じゃあ、レーダー探知が難しいっちゅうのもあるがなあ。」
「推測ですが、多分アイドリング状態でエネルギー消費を抑えつつ、此方を窺っていたのではないでしょうか?・・・不明艦、ガス雲から出て来ます!」
ヤッタランと螢の言葉を受けながらハーロックは考えていた。
戦況は、此方の優位へと転換しつつある。航空戦力を潰し、水雷戦隊も退け、今。最後の戦艦部隊も叩きつつある。このタイミングで出てくるというのは、おそらく連中、ジョーカーを切るという事だな。
状況を素早く判断すると、ハーロックは叫ぶ。
「敵の切り札が来るぞ、気を抜くな!螢、エメラルダスにも状況を伝えるんだ!」
次の瞬間、暗黒ガスを突き破って10体の巨大な黒い塊が浮上して来る。禍々しさを全身に湛えた黒い物体の重量感に、ハーロック達は息を呑んだ。気を取り直した螢が分析を開始する。
「今までに確認されていない艦影です。全長、約1000m、幅、約600m。戦艦というより、移動要塞と言って良いスケールです!艦数10隻、急速に接近して来ます。このままでは、挟み撃ちにされてしまいます、キャプテン!」
それがお前の隠しダマか、ファウスト=Bいや、正、物野 正=Bそいつがジョーカーだというのなら、お前も座乗しているのだろう?お前と刃を交える事など、望んでいた訳ではない。だが、降りかかる火の粉は払わねばならん。
「副長!使用可能な全砲門をあの巨大要塞群に向けろ!正面の艦隊は、とりあえず無視だ!」
「ホンマでっか、キャプテン?背後を無防備にさらすのは、あまりにリスクが高すぎまんねん!」
「大丈夫だ、背中は必ず彼女が守ってくれる!」
驚いてビデオパネルを振り向くヤッタランの視界に、敵艦隊と海賊島の間に全速で回り込むクイーン・エメラルダス号の姿が飛び込んできた。激戦の中、被弾による損傷も認められるが、その攻撃力は健在だった。体中から粒子ビームやミサイルを迸らせて敵艦隊の行く手を遮ろうとしている。
「ヤッタラン副長。エメラルダスが頑張っている間に、あの要塞達を叩かねばならん!急げ、一斉射撃だ!」
意を決したヤッタランは、手元にある射撃制御盤を操作し目標を選定する。パルサーカノンは破壊されて数を減らしているとはいえ、まだ八割以上の砲台が健在だ。第一目標は、単縦陣の先頭にいる奴だ。彼は眦を決すると、ターゲットスコープを覗き込み、引き金に指を掛けた。
「パルサーカノン、斉射三連!いきまっせ!」

まったく、本当に今度の戦いは貧乏くじの連続だわ。雲霞のような水雷戦隊と戦ったと思ったら、今度はより重装甲重火力の戦艦どもと、同じように殺り合えって言うのだから。いくらこのフネが戦闘艦だといっても、こう傷だらけになる始末では、この艦の前所有者、ゾナラーナに申し訳ない。それにしても、あの巨大な要塞艦、あれは初めて見るタイプだわ。トチロー、ハーロック、気をつけて。背中は任せておきなさい。
クイーン・エメラルダス号≠ヘ、孤独な戦いを強いられていた。敵戦艦部隊の動きに、変化が現われていた。海賊島への砲撃を中止すると、クイーン・エメラルダス号≠包囲する動きを取り始めている。海賊島よりも先に彼女を叩こうという意図が明白だ。だがエメラルダスは信じた。彼女の想い人と親友を。敵の戦艦部隊は、確かに強力だ。だが、海賊島の奮戦により、その数は開戦時の7割程にまで打ち減らされていた。ここを踏ん張れば、あの巨大要塞群を駆逐した海賊島と、再度共闘できる筈。集注砲火を浴びつつも、絶え間なく火線を放つクイーン・エメラルダス号≠フ背後で、宇宙空間が白い光に満たされて行く。海賊島が指向可能な全砲門を、自動惑星ゴルバの群れに向かって一斉射撃したのだ。

海賊島が装備しているパルサーカノンは、アルカディア号≠フ主砲とほぼ同型の物である。稼動中の砲は90門近い。その内の、ゴルバ達に指向可能な約半数の砲門が、一斉射撃を三連射。そして、複数の火線が集合した光り輝く赤白色の巨大な光弾が、一列に並んで向かってくる黒い集団の先頭艦に連続して着弾した。激しい閃光が迸る。海賊島の誰もが、敵艦に大ダメージを与えた事を確信した。だが次の瞬間、ハーロックは目を瞠った。命中したエネルギーブレットは、ゴルバの表面で弾かれ、四方に飛散って宙に消える。あの強力なパルサーカノンの斉射が、敵の巨大要塞に打撃を与える事が出来ない。アルカディア号のブリッジは騒然となった。ヤッタランの叫び声に、驚愕が滲み出ていた。
「キャプテン、あいつパルサーカノンを受け付けん!全部弾きよったで!?どうなっとるんや?」
「敵要塞の周囲に、不自然な空間の歪みが確認されました。これは物凄い出力の偏向バリアです!」
螢の報告も悲鳴に近い。そしてその間にも、敵は猛スピードで接近を続けているのだ。
あれ程の集中砲火を無効化してしまうとは、凄まじいシールドだ。もっと接近して攻撃すれば、効果があるだろうか?だが、それは諸刃の剣だ。奴らの攻撃力は、果して如何程の物なのだ?
ハーロックの思考が次の行動とリスクを考える間に、ゴルバ達の隊列が連続して発砲を開始した。強力な光の束が次々と海賊島に着弾する。その衝撃で、要塞島は大きく揺れ動いた。
「キャプテン、敵の攻撃で此方のシールドが・・・!中和率、さらに8パーセント低下しました。こんなのを続けて喰らったら、シールドが持たない!あの主砲は、従来の狙撃戦艦の比ではありません!」
「怯むな!副長、砲撃を続けるのだ。機関室、魔地機関長。重力エンジンの出力を上げろ!余剰エネルギーをシールドの維持に回せ。螢、重力波ミサイル発射準備。エネルギー弾が駄目なら、実弾をお見舞いするのだ!」
ハーロックが大声で命令する。その声に応えるように、海賊島の砲門は唸りを上げて光弾を放った。高速で接近を続けるゴルバ群との距離は、既に30宇宙キロを切っている。宇宙戦艦の砲戦距離としては、至近距離と言って良かった。そして発射された火線は、全て狙い違わず敵隊列の先頭に刺さったかに見えた。
「駄目や!この距離でも全部弾かれとるで!化けモンや、あいつら!!」

⇒To Be Continued...

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