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勇戦
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ヤマトのスラスターが鮮やかな色彩の光を放ち、艦首が左側に振られて行く。同時に、メインノズルからの噴射炎がその勢いをさらに増した。彼女はドレッドノートの如く突進を開始する。そして三基の主砲塔が旋回しながら、砲身を生き物の様にくねらせ仰角をかけた。
第一艦橋の射撃制御席で、南部康雄は高まる緊張を精神力で捩じ伏せていた。各主砲塔の指向する目標を、今回の射撃では、敢えてばらばらに照準するように設定している。出来るだけ多くの敵艦にダメージを与え、混乱させる為だ。
砲術のセオリーとはまるで違うが、単艦で多数と渡り合うのはヤマトの常だ。今に始まった事じゃない。頼むぜ、四十六サンチ砲。彼は胸中でそう呟く。
「敵先頭艦トノ距離、90宇宙きろヲ切リマシタ。射撃管制れーだーニヨル、精密計測可能距離ニ入リマス。」
レーダ手席のアナライザーが、刻々と縮まる彼我の距離を淡々と報告する。
「アナライザー、敵左翼水雷戦隊の隻数と隊形を分析、報告してくれ。データーは射撃管制コンピューターに入力、頼むぞ。」
南部の言葉に、アナライザーは頭部のメーター類を点滅させて答える。
「マカセナサイ!私ヨリ優秀ナおぺれーたーハ雪サンダケデス!中型艦約30隻、小型艦約50隻、10個ノ小集団ニ分カレテ上下左右ニ展開中、コッチヲ包ミ込ムヨウニ接近シテキマス。」
南部は唇を舐めながら、攻撃プランを射撃管制システムに入力して行く。彼の意思を忠実に反映し、各主砲塔は小刻みに首を振りながら砲身を上下させた。次の瞬間、南部の手元のパネルが、レッドからグリーンに切り替わった。射撃管制コンピューターが、魔弾の射手を満足させ得る射撃解析値を算出したのだ。
「よおし、全主砲塔、一斉射撃!」
南部は射撃命令を叫んだ。第一艦橋の窓は青白い閃光に満たされ、九つの咆哮が一つに混ざり合う。必殺の巨弾が放たれると同時に、ヤマトの進路は僅かに左に押し出された。強烈な一斉射撃による反動の仕業だ。
遥かな距離を飛翔した波動カートリッジ弾は、その全てが狙い違わず、敵水雷戦隊に命中した。直径46cmの巨弾が3発ずつ、3つのグループを蹂躙する。砲弾は敵艦の装甲板を易々と貫くと、その内部に踊り込み信管を作動させた。次の瞬間、眩い閃光が敵艦隊を包み込む。波動エネルギーがもたらす恐るべき破壊効果、波動融合反応が発生したのだ。爆沈する駆逐艦の炎が、隊列を組んだ僚艦達をも巻き込んで次々と燃え上がり、大規模な爆発へと成長して行く。破壊が破壊を誘発し、一時的に視界を奪う程の閃光が空間を満たしていった。暫くの喧騒の後、爆発が静まる。宇宙を埋め尽くす光点の集団に、ぽっかりと暗い穴が数箇所あいていた。ヤマトはただ一度の一斉射撃で、敵左翼部隊のほぼ三割にあたる艦艇を屠ってしまったのだ。
突如として多数の味方を失った敵水雷戦隊は、恐慌状態に陥った。ヤマトに向かって突撃していた艦艇群は大きく隊列を崩し、進路も乱れ始めた。ヤマトの威力を目の当りにした彼等は純粋に恐怖したのだ、死という物に対して。皮肉にも不死である機械の体を手に入れた事が、かえって彼等の生への執着を増幅していた。
あの攻撃は何だ!? 低級生物である筈の生身の人間共が、あんな破滅的な威力の武器を持っているのか?
機械化帝国の兵士達の多くが、そのような思いを抱いていた。女王プロメシュームへの忠誠(恐怖と言い換える事も出来るが)と、あの超戦艦ヤマト≠ヨの畏怖。二つの感情を分銅として、彼等の行動を司る理性の天秤は、定まる事無く大きく揺れ動き続けた。
結果として、敵水雷戦隊は明らかにヤマトへの接近を躊躇し、その艦隊運動は混乱の度合いを増していった。その間にもヤマトは波動カートリッジ弾の射撃を続け、更に9発の命中弾が新たな波動融合反応を誘発させる。半数以上の僚艦を失った左翼水雷戦隊に、もはや統制は無くなった。逃げ惑う彼等には、もはや宇宙を震撼させる大艦隊の威厳は、微塵も感じる事は出来ない。ただ逃げ惑い、追い立てられるだけの無力な存在へと変貌していた。
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