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勇戦
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クイーン・エメラルダスは、驚きの感情を懸命に押し殺しながら、ビデオパネルを見つめていた。たった二度の斉射で、50隻近い敵艦が消滅した光景は、彼女の精神にも大きな衝撃を与えていた。
比較的装甲の薄い駆逐艦や巡洋艦が相手とはいえ、あの威力は一体?ただ強力なだけではない、命中後の誘爆のような反応。あれがハーロックの言う『機械化帝国打倒のカギ』なのね。なるほど、尋常ではないわね。敵とはいえあんな砲撃に曝されるのは、少々気の毒にすら思えるわ。
アラーム音が鳴り響き、エメラルダスは我に返る。敵の右翼水雷戦隊が、クイーン・エメラルダス号の射程距離内に侵入してきたのだ。だが、その艦隊も明らかに動揺が隠せないでいる。何しろ、多数の味方が僅かな間に、それこそ瞬殺されるのを目の当りにした直後だ。接近する速度は大幅に低下し、進路も乱れていた。その様子を見て取ると、エメラルダスはたった一人、自分だけのブリッジ内でため息をついた。
確かに、あれはないわよね。あれ程の破壊、地獄の業火に思える砲撃を見せつけられては。正面切って立ち向かう心が折れてしまうのも理解できるわ。まさかこの私が、プロメシュームの犬共に同情する事になるなんて。
彼女は軽く首を振ると、憐憫の情を心の片隅に追いやる。機械化人全てが敵とは思わないが、今この場では邪魔な感情だ。エメラルダスは呟くように命令する。
「砲撃開始。近い奴から徹底的に排除。」
クイーン・エメラルダス号のコンピューターが主の命令を音声認識し、32門の主砲が一斉に光を放つ。着弾の閃光が彼方の虚空を美しく彩るのが見えるが、敵艦隊からの攻撃は未だ無い。ヤマトの見せた攻撃は、機械化帝国の兵士達から戦意を抜き出して、シュレッダーに放り込んでしまったらしい。戦闘はワンサイド・ゲームの様相を呈していた。
「ふむ、プロメシューム様が懸念される訳だ。あの戦艦、報告どおり波動エネルギーを使用した兵器を搭載している。波動融合反応か・・・。まさか、この目でそれを確認する事があろうとはな。」
漆黒の衣装と仮面を纏った男は、黒色の巨大な要塞艦に座乗し、戦闘宙域から少し離れた空間から戦いの様子を注視していた。彼の名はファウスト=B女王プロメシュームの片腕と謳われ、機械化帝国の軍事面で実質的に頂点に居る男だ。その冷徹さと外見から、何時しか黒騎士≠フ別称を持つに至っている。本来、前線に立つ事など久しく無かった彼が、戦いの現場に身を曝している。その事実が、機械化帝国の、プロメシュームの危機感を如実に表していた。
「出来れば、あの戦艦と正面切って殺りあうのは避けたい所だ。あの砲撃は危険過ぎる。連中の、まずは頭を潰す事を最優先せねばならんな。」
彼は目を細め、ヤマトとクイーン・エメラルダス号が映し出されている物とは別のビデオパネルに視線を移す。
「海賊島、アルカディア号か。久しぶりだな、ハーロック。お前と戦う以上、手抜きは出来ん。そんな事をすれば返り討ちにあうだけだ。私にはまだやるべき事がある。こんな所で死ぬ訳にはいかん。」
黒騎士は独白を終えると、身を翻し傍らにいる部下に下命する。
「ハードギアの機動部隊に極秘通信を送れ。攻撃部隊の発進を急がせろ。あの戦艦と、クイーン・エメラルダス号を足止めさせるのだ。」
巨大な暗影達が、暗黒ガスの中に身を潜める。ウラリア式制圧自動惑星ゴルバ≠アの巨大な浮遊要塞群こそが、機械の体を人類に授けた神々の大いなる遺産、機械化帝国の決戦兵器であった。恐るべき脅威が、ヤマトとハーロック達に接近しつつあった。
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作者:
戦舟
投稿日:2011年07月30日(土) 01時52分21秒
BYTE数:9 KB (4712字)
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