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奇襲攻撃

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「隊長!6時の方向、高度差プラス二百、距離九百!敵機を確認、機数6!」
次の瞬間、コックピットの真横を曳光弾が掠めた。加藤は反射的に機体を横滑りさせると、推力をリミット一杯まで引っ張った。そのままコスモタイガーUを急上昇させる。冷たい汗が体中から噴き出すのがわかった。
6対1か。こうなると分かっていたつもりだが、やはり少々しんどい対戦だな。何とか突破口を見つけて、相棒ともども生還したいもんだが。
それから暫くの時間、加藤は必死の操縦を行った。自分がどんな機動を行い、どんな攻撃を仕掛けたのか、正確には思い出せない。古屋が敵状を報告する大声も、枯れて聞き取り難くなっている。敵の何機かにはダメージを与えたとは思うのだが、撃破出来たかどうかは分からない。攻撃の結末を見届ける余裕はなかった。
「隊長、もう限界だ。連中のECCM(電子妨害対抗手段)、フル稼働。敵の通信とレーダー、回復!」
古谷が怒声とも悲鳴とも聞こえる報告をして来る。ヘッドアップディスプレイの残弾表示も、既に赤色だ。敵のロックオンを告げる警告音が耳障りに聴覚を刺激した。後方監視レーダーによると、少なくとも2機が喰らいついているのが分かる。そして前方から1機、下方から1機・・・。いよいよ年貢の納め時か?加藤が唇を噛んだ瞬間、耳元に彼女の声が聞こえた。
“いいえ、まだよ。諦めてはダメ。頑張って!四郎。”
彼の心臓は激しく鼓動した。大きく目を見開きながら、脳裏を感慨が走る。
既にこの世を去ってなお、俺にエールを送ってくれるのか?澪・・・! 
加藤は反射的にスロットルを絞ると、機体を左に捻りながら、逆噴射をかけた。体をシートに固定するハーネスが肩に食い込み、重力制御装置の限界を超えた機動である事を彼らに教える。コスモタイガーUの機体は不気味な軋みを発しながら、強引な機動に耐え続けた。その時の加藤には、何故か機体の周囲全ての空間を知覚出来ているような気がしていた。自分の機動と敵機群の位置、そして彼我の未来位置関係。全てを理解した上で、無意識の内に超絶的な回避運動を行っていたのだ。次の瞬間、加藤の視界の眼前に、イモムシ型の機体が銃撃の炎を吐きながら飛び出して来るのが見えた。敵機は彼の行った急減速と急旋回に対応出来ず、コスモタイガーUを追い越してしまったのだ。
「隊長、うだで奴だな、おめは!大した操縦だ。天才だね・・・!」
古屋が圧倒された様子で加藤に話し掛ける。だが、加藤にはそれに答える余裕は無かった。何とか今の攻撃は回避したが、すぐに次の奴が来る。こっちはもう残弾も乏しい。さあ、どうする?
眼前の敵機を注視する加藤の視界に、突如として、降リ注ぐ真っ赤な火線が割り込んできた。さっきまで彼らのコスモタイガーUを追い回していたその機体は、大爆発を起こして砕け散る。
「加藤隊長、古屋、大丈夫か?ケガは無いか?」
唖然とする加藤と古屋のレシーバーに、聞き慣れた仲間達の声が響く。遂に彼らを救う騎兵隊が到着したのだ。
「バカ野郎、お前ら遅いんだよ!おかげで死にかけたじゃねえか!」
満面の笑みを浮かべながら、嬉しそうな大声で僚機を罵倒する加藤。
「隊長、そりゃないよ。これでも全開ですっ飛んで来たんだぜ!?」
二人の搭乗する早期警戒機型の周囲を、3機のコスモタイガーUがボヤきながら素早く取り囲んで護衛体制に入る。古屋が感極まった声で通話した。
「笹井、西沢、坂井・・・。わいーめわぐだのー(ありがとう)助かったんずや。」
すると少しおどけた、そしてホッとしたような感情を感じさせる声色が再びレシーバーに響いた。
「古屋、凄いしゃがれ声だぞ。大丈夫か?それにしても相変わらず訛ってんな、お前。」
「訛ってねえっす!」
古谷の拗ねた叫び声と、僚友達の笑い声を聞きながら、加藤は操縦桿を軽く握りなおした。そして。誰にも聞こえない小さな声で呟いた。


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