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奇襲攻撃
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「澪、ありがとう。助かったよ。」
キャノピーの向こう側に、美しい笑顔が見えた気がした。
照準器一杯に広がる敵空母の甲板を凝視しながら、台場正は乾いた唇を舐めた。甲板上には爆装した攻撃機が整列している。狙い通り、奇襲に成功したのだ。発進する前、あのヤマトの指揮官、古代進の発した言葉が思い出された。
『台場君、攻撃機の発進を絶対に阻止したい。ともかく空母の飛行甲板を叩く事が優先される。他の護衛艦達は、二の次だ。』
分かってますよ、古代艦長。いや、艦長代理と言ってたような?すると他に正式な艦長がいるって事かな?
他所事に行きそうな思考を強引に眼前の空母に戻しながら、彼はさらに思う。
いかん、この余分な思考は現実逃避だ。確かに凄い数の敵機だが、こちらが一方的に攻撃出来る千載一遇のチャンス。今までは奴らを迎撃するだけの、受け身一方の航空戦だった。ヤマト≠フお陰で、初めて敵の母艦に牙を突き立てる機会を得たのだ。此処でビビッてどうするんだよ、俺は。
台場の脳裏を、キャプテン・ハ−ロックの不敵な笑みが過ぎる。自分の弱気を見透かされたような気がした彼は、一人コックピットで赤面した。
キャプテン・・・必ず大戦果を手土産に帰還してみせます。その時は、俺を一人前の戦士として認めて下さい!
若者らしい、青臭い直情で気合いを入れ直した台場のスペースウルフは、無傷らしい敵の空母めがけて急降下を開始した。慌てふためいた様子で対空砲火が打ち上げられるが、もう遅い。彼はトリガーに指を掛けると、他の無人機達と、そして自分自身に命令した。
「第一目標、空母!第二、第三目標も空母!・・・フォイア!」
同様の攻撃が、この宙域全体に展開されていた。整然と編隊を組んで奇襲攻撃を仕掛けるコスモタイガーUとスペースウルフに、黒色の空母達は蹂躙され、制圧されつつあった。絶対的な攻撃機の数の少なさから、撃沈に至った艦は皆無だが、全ての空母がその飛行甲板をしたたかに打ち据えられ炎上している。航空戦力としての機動部隊は、壊滅したと言ってよかった。コスモタイガー隊とスペースウルフ隊は絶望的とも言えた数の差を跳ね返し、ハーロックの目論見通りに制空権を手にしたのだ。
「艦長代理!索敵機、タイガーズアイ01より緊急電を受信!タイガー3′Jり返すタイガー3=I古代さん、奇襲成功です!」
ヤマトの第一艦橋に、相原の嬉しそうな声が響く。古代自身も意図的に緊張した感覚を弛緩させ、微笑を浮かべた。やはり、厳しい戦闘の中でもリラックスは必要だ。だが、それと油断とは違う。すぐに意識を切り替えると、彼は通信班長に命じた。
「相原、エメラルダスを呼び出してくれ。」
命じながら、古代は考えていた。奇襲は成功した。ならば此処は更に戦果を拡大しなければならない。
「クイーン・エメラルダス。敵の空母部隊に対する奇襲は成功しました。しかし、おそらく艦載機の発進は阻止出来ても、母艦の撃沈には至っていないと思われます。残念ながら我々の持つ艦載機の数では、そこまでの攻撃力は望めません。ヤマトは水雷戦隊の追撃を中止して、敵機同部隊の攻撃に向かいます。」
「・・・わかりました、古代。機械化人どもの水雷戦隊は、もはや壊走しています。貴方がたは、空母群に止めを刺しに向かって下さい。私は海賊島の援護に向かいます。御武運を、ヤマトのみなさん。」
古代達が敬礼を返すのと同時に、ビデオパネルからエメラルダスは消えた。そしてヤマトに寄り添うように航行していたクイーン・エメラルダス号は大きく舵を切ると、舳先を海賊島へ向ける。彼方に小さく見える要塞小惑星は、周囲の空間を光線と爆発の坩堝に巻き込みながら突進しているのが分かる。
「苦戦しているようね。ハーロック、トチロー・・・」
エメラルダスは呟くと、重力波エンジンの出力を上げた。優雅な飛行船のシルエットは、その姿にそぐわない速度で次の戦場へと急行する。
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