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苦境

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「ファウスト様、ハードギア様の機動部隊より緊急通信です。」
部下の呼び掛けに、ファウストの思考は一時中断される。味方の攻撃機が未だに戦場に現われないという事は、何かしらあったと予想は出来る。ハーロックらに対する手立ては、奥の手とも言える手段が残してあるが、機動部隊が沈黙している理由を確認しない訳にも行くまい。
ファウストは黙ったまま部下を見やり、軽く頷いた。上官の寡黙さの理由を良く理解している彼は、音を立てて踵を合わせると報告を始めた。
「『機動部隊は、敵攻撃機の奇襲を受けた。撃沈の危機は無いが、飛行甲板の損傷により艦載機の発進は当面不可能。敵空母は何処に有りや?』との事です。如何なされますか?」
ファウストの外面は普段と変わらない。だが、その心中には驚愕と悔恨の念が渦巻いていた。
敵空母だと?アルカディア号≠フ艦載機は、殆どが無人機の筈だ。どんな手段で、複雑な状況に対応せねばならん艦隊攻撃を・・・・そうか、あの戦艦か。航空機の運用能力まで持っているとは。それにしても敵攻撃機の発進を見逃していたとは、私もヤキがまわったな。ハードギアの奴に、また余計な恨みを持たれると厄介だ。あの男は、何故か私を政敵と見なしているらしいからな。
「ハードギアに警告してやれ。先程、クイーン・エメラルダス号≠ニの隊列を解いて別行動を取った敵戦艦、あれの目標はおそらくお前達だ、とな。」
彼の部下は、上官の言葉に驚きを隠さなかった。
「しかし、機動部隊にも護衛の戦艦群がいます。ただ一隻で殴りこんで来るというのですか?」
「先程の砲撃を見ていなかったのか。あの戦艦の火力は、今まで我らが知っていた兵器とは違う。もっと異次元的な物だ。先手を取られれば、水雷戦隊と同じ憂き目を見るぞ。すぐに伝えてやれ。尤も、素直に受け取ってくれれば良いがな。」
まったく、理不尽な。男の怨念、嫉妬ほど面倒なモノもあるまい。いっそあの戦艦が厄払いを行ってくれるならば、それも良いと思わないでもないが、部下の面前で口に出して許される言葉ではあるまいな。
戦闘以外での面倒事を意識下にしまい込むと、ファウストは次の行動へと神経を集中した。前方の暗黒ガスの彼方にいる、旧友にして仇敵、キャプテン・ハーロック。奴と直接刃を交える時が来たのだ。
「ゴルバ≠出すぞ。全要塞艦、前へ!壱号艦から十号艦の順、単縦陣で突入する。」

「キャプテン。右舷後方、4時の方向上下角マイナス15度、距離約80宇宙キロ。暗黒ガス雲内に強力なエネルギー反応!何かがいます!」
「螢はん!近いで、そりゃ!何で今まで探知できんかったんや?まあ、あのガス雲じゃあ、レーダー探知が難しいっちゅうのもあるがなあ。」
「推測ですが、多分アイドリング状態でエネルギー消費を抑えつつ、此方を窺っていたのではないでしょうか?・・・不明艦、ガス雲から出て来ます!」
ヤッタランと螢の言葉を受けながらハーロックは考えていた。
戦況は、此方の優位へと転換しつつある。航空戦力を潰し、水雷戦隊も退け、今。最後の戦艦部隊も叩きつつある。このタイミングで出てくるというのは、おそらく連中、ジョーカーを切るという事だな。
状況を素早く判断すると、ハーロックは叫ぶ。
「敵の切り札が来るぞ、気を抜くな!螢、エメラルダスにも状況を伝えるんだ!」
次の瞬間、暗黒ガスを突き破って10体の巨大な黒い塊が浮上して来る。禍々しさを全身に湛えた黒い物体の重量感に、ハーロック達は息を呑んだ。気を取り直した螢が分析を開始する。
「今までに確認されていない艦影です。全長、約1000m、幅、約600m。戦艦というより、移動要塞と言って良いスケールです!艦数10隻、急速に接近して来ます。このままでは、挟み撃ちにされてしまいます、キャプテン!」


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