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過去からの来訪者

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キャプテンハーロックは、ビデオパネルでその戦艦の戦いぶりを見つめていた。雷の如く圧倒的な火力で、巨大な鋼鉄の獣達を易々と引裂き、今また群がる鋼の凶鳥どもを数多の火矢で蹂躙する正体不明の宇宙戦艦。ハーロックは既に確信していた、あれは伝説の宇宙戦艦、ヤマト≠ノ違いない。ハーロックは傍らに誰かがいるかのように呟く。
「なあ、トチロー。我らの先人達が、あれ程の威力を持つテクノロジーを持っていたというのなら、何故易々と機械の体の軍門に下ってしまったのだろう?敗北するにしても、もっと誇り高く戦う事は出来なかったのだろうか?」
すると彼以外誰も見当たらない、機械に埋め尽くされた巨大な空間に、その呟きに答える声が何処からともなく響いた。
「そうだな。俺が思うには、ヤマト≠ェその身を挺して守り抜いた地球の人々は、そのヤマト≠失った事が、自らの信仰の対象を喪ってしまうのと同義だったのではないかと思うんだ。」
「忌まわしくも強大な白い彗星と戦って、辛くも勝利した代償のように地球人類が覇気を失っていくのは、崇める神がいなくなったからだというのか?」
宇宙海賊船アルカディア号の中枢大コンピューター室に、キャプテンハーロックはいた。室内にある人影は彼一人。しかし、話し声は二人。今やこのアルカディア号と一心同体となった大山トチローこそ、そのもう一人の声の主だ。トチローの姿がどうであれ、ハーロックの彼への友情が変わる事は無い。
「・・・あの戦艦、火力や機動力だけではない。的確な操舵、見事な砲術。加えて艦載機隊も高性能かつ高練度だ。友よ、ヤマト≠ヘ単なる御伽噺ではなく、実在した宇宙戦艦だと俺に教えてくれたのはお前だ。あの戦艦について、お前はどう思っている?」
彼の偉大なる友は、機械で合成された音声で語り掛ける。
「お前のカンに間違いはないと思うぞ、ハーロック。かって俺は、伝説の波動エンジンについていろいろと調べた。しかし、残念ながら実物を作り上げる程の情報を得る事はできなかった。機械化人の連中、とことん記録や伝承を潰しにかかっていたからな。しかしな、はっきりとわかった事もある。ヤマト≠ヘ、かって地球の海を圧する為に建造された、地球史上最大最強の戦艦大和≠改造して作り上げられた大宇宙戦艦だ、という事さ。あの艦の勇姿を見ろよ!心臓がバクバク踊り出しそうに興奮しないか?あれこそ漢のフネさ。正直に言えば、あれを設計した奴に少し嫉妬するね。」
ハーロックは目を伏せて軽く笑う。人としての姿を失ったトチローだが、ハーロックの脳裏には、はしゃぐトチローの姿が鮮明に浮かんでいた。
「お前がそこまで褒めちぎるのは、クイーンエメラルダス号以来だな。確かにお前の好みにぴったりの容姿だ。戦闘力も申し分ない。だが俺が感じるのは、そんな表立って見える事よりも、あの艦は背負っている重圧の大きさと、それに押し潰されない強い使命感、精神力が形になって現われている、という事だ。それを感じるからこそ、あの艦がヤマト≠セと思える。」
トチローは暫し沈黙する。少しハーロックの様子を窺った後、彼は、探るように問いかけた。
「ハーロックよ。お前は俺達のアルカディア号が、あのヤマト≠ニ比べると見劣りすると感じるか?俺達の艦には、あんな雄々しいオーラは纏う事は出来ないと思うのか?」
「俺はトチローと一緒に創り上げたこのアルカディア号≠アそ宇宙最高の艦だと思っている。ただな、アルカディア号≠ヘ俺達を縛りつけ、征服しようと欲する輩に負けない力を具現化させる為に、この宇宙に存在するモノだ。ヤマト≠フように、人類の存在を託されて、人々の心の拠り所となったフネとは在り方が違う。」
「・・・ハーロック、お前のその考えは、星野鉄郎を救い出そうと思っているのと同じ所から来ているのか?」


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