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嵐の前

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キャプテン・ハーロックはアルカディア号のブリッジから、前方に展開する機械化帝国の大艦隊を見渡していた。まだ艦影を確認する事は出来ないが、無数の光点が群れを成して移動する様子は、威圧感と、そして何か美しさすら感じさせる。ハーロックは、微笑を浮かべているようにも見える表情で、傍らのヤッタランに語り掛ける。
「副長、打ち合わせ通り海賊島≠ヘ呼び寄せてあるな?」
「あいな、小惑星REIJI6565=A120秒後に本艦の後方5宇宙キロにワープアウト。」
ハーロックの問いに答えながら、ヤッタランは思う。 キャプテン、ご機嫌や。戦場でのキャプテンみたいのを、ホンマに餓狼みたい≠チて言うんやろな。

海賊島≠ヘ小惑星を改造した、宇宙海賊達の秘密基地だ。普段は何基かの海賊島≠ェアルカディア号の後方を、一定の距離を保って自動追尾している。ハーロックが呼び寄せたREIJI6565≠ヘ、彼とトチローの父親達より受継がれる最も古株の海賊島≠セ。かって太陽系にあった、大山トチローの遠いご先祖様の名前(高名な劇画作家だったらしい)が付けられていた小惑星は、その子孫達によって加工改造されていた。今ではハーロック達の補給基地兼保養所、そして宇宙要塞である。

ハーロックと副長の会話を聞いていた螢は、少し残念そうな様子でハーロックに話し掛けた。
「でもREIJI6565≠ヘトチローさんのお父様やキャプテンのお父様達の残して下さった、思い出深い小惑星でしょう?この戦闘で失なわれてしまうかもしれません。良いんですか?」
ハーロックは、窓外の無数の光点を凝視したまま螢に答える。
「たとえREIJI6565≠ェ失なわれる事になっても、この戦いに勝たねばならん。トチローの父君、ドクター大山や、我が父、グレート・ハーロックがまだ健在だったとしても、REIJI6565≠ェ立派に戦って散っていくならば、俺達を咎める事はないだろう。むしろ喪失を恐れるあまり、大切な戦力を使うべき時に使わない事の方が、犯してはならぬ愚行なのだ。あれだけの大艦隊を敵にして、こちらは無傷と言う訳には行くまい。むしろ最も被害が少ない戦法だと、俺は思っている。」
父親達の遺産をすり潰す覚悟を語ったハーロックは、険しい表情になって視線をブリッジ内に向けた。
「螢、敵艦隊の編成と隊形を急いで分析してくれ。敵の出方を知りたい。」
レーダーパネルを見つめながら、有紀螢は素早くキーボードを叩く。瞬く間に、敵艦隊の概要を表すグラフがビデオパネルに投影された。
「大まかな数値ですが・・・戦艦40隻、巡洋艦60隻、駆逐艦100隻。中央に戦艦部隊をマルチ隊形で配置。両翼を巡洋艦と駆逐艦の水雷戦隊が固めています。戦艦の内、正面にいるおよそ十数隻は重装甲の狙撃戦艦です。」
螢の報告を聞いたヤッタランは、呆れたような、諦観したような様子で呻いた。
「しっかし、なんちゅう数や。キャプテン、狙撃戦艦は盾代わりに間違いあらへん。あれの重装甲を矢面に立たせて、こっちに殴り合いの消耗戦を強いる算段や。こっちがヘロヘロになった所で、向こうは選手交代。真打ち戦艦部隊登場って考えとるで!おまけに両翼の小魚どもが、こっちを包囲しながら雷撃戦を挑もうっちゅう魂胆も見え見えや。どないする?」
ハーロックは腕を組み、険しい表情を緩めないまま、ヤッタランに答えた。
「・・・どれだけ消耗しようとも、奴等は我々を倒しさえすれば良いのだからな。戦力が腐るほど豊富であれば、消耗戦もありだ。目的達成の為に手段を選ばない指揮官ならば、やるだろう。それよりも、他に気になる事がある。・・・螢、敵の空母部隊は?見つからないのか?」
螢は、レーダーのレンジを切り替えて、再度スイープする。何度か同じ行為を繰り返した後、彼女はハーロックを振り返った。


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