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感情

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機械化母星メーテル。不老不死の機械の体を宇宙全体に提供する巨大な工場惑星。その支配者、女王ラー・アンドロメダ・プロメシュームU世≠ヘ、恐怖に慄いていた。反逆者であるハーロックとエメラルダスを足止めし、あわよくばどちらか片方でも抹殺できれば。軽い気持ちで送り込んだ前衛艦隊が、八割以上を撃沈されて敗退。それだけならば、怒りこそすれ、恐れるような事ではなかった。問題は、アルカディア号とクイーンエメラルダス号に味方する、謎の超戦艦が現れた事。そしてその艦が、あの忌まわしき波動エンジン≠搭載している、と報告された事だった。過去、機械化帝国の根幹を成すテクノロジーを与えたもうた神々達が、あれ程恐れていた波動エネルギー。全て抹殺し、この宇宙から消し去った筈のあの猛毒が、どうして突然蘇り、襲ってきたのか?あの猛毒は、我らの鋼の体を、紙を燃やすが如く容易く葬る。恐らく、この要塞と化した機械化母星すらも・・・!地獄のような光景を想像した彼女の恐怖心は、冷静な判断力を何処かへ押し流してしまった。
「集結させた全艦隊を発進させよ!アルカディア号とクイーンエメラルダス号の討伐に向かえ!できる限りこの惑星メーテルから離れた場所で捕捉、撃滅するのだ!彼奴等に助力しようという正体不明の戦艦も、一緒に葬ってしまうのだ、急げ!!」
狂気すら感じさせる彼女の剣幕に、諌めようとする部下などいよう筈もない。そんな言葉を発すれば、それこそ一瞬で消去されてしまうに違いなかった。
数刻の後、宇宙を圧する大艦隊が機械化母星を発進した。その数は宇宙戦艦だけで40隻を数え、総数は200隻を越えていた。惑星メーテルに残った艦は、親衛隊直属の十数隻のみ。それほど女王は恐れていた、宇宙戦艦ヤマト≠。

機械化帝国の皇女は、悶え苦しむ自身の心を、抑えきれずにいた。自分の分身であり、自分と同じ名を冠する、この惑星メーテルを破壊する。愛しい母親を裏切る。考えただけでも狂ってしまいそうだ。でもそうしなければ、あの少年は・・・星野鉄郎は!押し潰されそうな感情で、叫び出してしまいたい衝動に身を委ねそうになった時、彼女は異変に気付いた。地鳴りのような響きが次第に高まり、周囲に充満する。宇宙戦艦が装備する、重力エンジンの雄叫びだ。メーテルは窓際に駆け寄り、空を見上げた。集結していた艦隊が次々と発進して行く。一体、何事が?束の間だが、葛藤を忘れて艦隊を見上げる彼女に、胸に下げたペンダントが語り掛けた。
「メーテル、999へ行け。宇宙で何かが起こっている。それが何か確かめるのだ。だが気をつけろ、プロメシュームに、あの哀れな機械の女に気取られてはならんぞ。」
メーテルはペンダントをそっと握り締めると、哀願するかのように呟いた。
「お父様、お願いです、お母様ともう一度・・・」
「それ以上言うな、メーテル!!今は黙って私の指示を実行するんだ。お前はこの宇宙を救わねばならん、忘れるな。・・・あの女は、もう手遅れなのだ。」
喪服の皇女は、悲しそうに目を伏せると黙って立ち上がった。
お父様、貴方もお母様と同じ。自分の思う理想を実行するという狂気に突き動かされているわ、そんな惨めな姿になってまで。宇宙5大頭脳の一人とまで謳われた賢者、あのドクター・バンが。何て悲しい事なのでしょう。

メーテルは、自室を出てオプチカルエレベーターに乗り込んだ。宇宙艦隊の予期せぬ発進に、周囲は喧騒の渦だ。平素ならば視線を集めて止まぬその美麗な容姿すら、今ばかりは気に止める者もいなかった。幾つかのエレベーターを経て、階段を昇る。銀河鉄道の終着駅プラットホーム。貴婦人と呼ばれた蒸気機関車C-62-48≠フ姿そのままに、銀河超特急999号は停車していた。プラットホームにメーテルの姿を認めた車掌が、慌てて車外に飛び出してきた。


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