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宇宙に抱かれて見る夢は・・・

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島が、唐突に言った。
「おい、島!」
「真田さん!」島が顔を上げて言う。
「僕には、この歌声がギィを呼んでいるように聞こえるんです。」
「むぅ!」
「ギィも、たぶん、行きたがっている。」
島の言葉に、古代が黙って頷いた。

ギィは、宇宙服を着るのを嫌がった。
「ギィが、彼女達と同種族であるなら、このまま宇宙空間に出しても、大丈夫だとは思うが・・・」
真田の自信無さげな進言に、島は白衣姿のギィを抱き上げた。島自身は、宇宙服を着込んでいる。
「本当に、大丈夫なのか?」
古代が、不安そうに声をかけた。島が、黙ってギィに目をやると、ギィは嬉しそうに笑い、島の首に腕を回した。
「ギ、ギィー」直接、島に触れないのが不満そうだ。
「行ってくる!」
島は、ハッチに向けて歩き出した。

内側のハッチが閉まり、しばらくして、外側のハッチが開き始めた。空気が抜けていくのがわかる。
島の左手は、緊急停止ボタンにかかっていた。ギィに異変があれば、いつでも押せるように。
けれど、ギィは驚くほど変わりなく、島にじゃれついていた。まるで、散歩に連れて行ってもらえる子犬のようだった。
ハッチが全開となり、島はゆっくりと足を踏み出した。ともすれば、腕の中のギィが、浮き上がってしまいそうだった。

島と、島に抱きかかえられたギィの二人は、第1デッキに立っていた。その周りを、少し離れて女性達が漂っている。そのうちの一人が、泳ぐように、すうーっと二人に近づいた。手が届くかと思われた時、そのまま泳ぎ去っていった。
ギィは、そんな彼女達と島の顔を、交互に見ている。
そんなギィを、島は黙って見つめていた。
「・・・・・・・」
ギィの口が動いた。
「ギィ、真空の中では音は伝わらないんだ。」
島は、少し笑って言うと、ヘルメットのバイザーをギィの額に押し付けた。そうすると、バイザー越しに、ギィと顔を見合わせる事になる。
「ギィ〜、シーマー!」
ギィの声が、ヘルメットを伝わって聞こえた。
「なんだい、ギィ?」
「ギ、ギィ〜!」
ギィが笑う。島も笑い返した。
「さあ、ギィ!みんなの所へお帰り!」
そう言って島は、抱きかかえていた腕を、ゆっくりと離していった。ギィの体が少しずつ浮き上がっていく。
ギィは、島の首に回した腕に力を入れた。体は宙に浮き、その腕だけで、島にしがみついている。
「シーマー!ギギィー、ギィ!」
バイザーに額をつけ、ギィが叫ぶ。
「行くんだ!ギィ!!」
島の言葉に、ギィは首を振る。
「ギィ、僕は、いつでも、宇宙に戻ってくる。そしたら、また会えるさ。」
ギィの腕を、そっとはずしながら、島は言った。
「シ〜マ〜〜・・・」
ギィの額がバイザーから離れ、その腕も島の手から離れていく。
一瞬、島の視界が白衣でふさがれた。思わず、その白衣を掴んだ時・・・、その中に、ギィの体は無かった。
宇宙に目をやると、半透明の体になったギィは、仲間に取り囲まれて、少しづつヤマトから遠ざかっていく。両腕は、まだ島のほうへと伸ばしていた。
「ギィ、元気でな!」
島は、白衣を大きく振った。
『シ〜マ〜!』
ギィの声が聞こえた気がした。

「行っちまったな。ギィのやつ・・・」
少し淋しそうに古代が言った。
「いったい彼女達は、どういう生命体だったんでしょう?」
相原が、真田に問い掛けた。
「そうだな、これは憶測でしかないが、彼女達は、あの歌声で宇宙船を呼び寄せて、そのエネルギーを吸収していたんじゃないのかな。」
「ギィの声が、あの歌声の効力を打ち消す事ができたのも、彼女達の仲間だったからですか?」
太田の質問に、真田は大きく頷いた。
「彼女達の歌声は、異星人になんらかの精神的作用を及ぼすと考えられるな。」
「それって、地球の古い伝説にありましたよね。確か・・・」
「セイレーン!」
「ローレライ!」
南部と相原が同時に声をあげた。


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