主な登場人物悪友とわし。クラスで一番のスケベ「歩く生殖器」とあだなされる利根君。彼はキャラクターの割に字が達筆なので、清書及び題字担当。特技は無いが、大金持ちのおぼっちゃん高橋。会計を担当。さらに、ブラスバンド部の山田君少し大人の広岡君、 ブターシャが・・・いた。

 12月。ブタ―シャは、放課後の教室でじっと涙を溜めながら、言った。「転校するねん」

 その時点での本の完成度は、半分くらい。あと一週間は時間を要すると思われた。

 ブタ―シャのいない教室で、スタッフは遂にイラストをかける人間がいなくなるという事実を前に意気消沈した。「もうやめよう」「無理やったんや、本なんか」と高橋君が言う。わしは、なんだかんだで、ブタ―シャが集団の意欲を代表していたことを痛感した。今度こそ、駄目かもしれない、とわしは思った。

 表紙は、利根君が書いた題字「不滅の第三艦橋」だけが、びしっと書かれていた。放課後の教室。夕日も差していた。寄せた机の上に置かれた表紙の原稿・・・。皆がじっとそれを見詰めたまま、無言になった。

 広岡君が沈黙を破った。

 「あいつが・・・ブタ―シャがかわいそうやんか」

 広岡君の目に涙が溜まっていた。

 「せっかく、仲間になれたんやんか」

 わしには、その意味が重く、ずしりと伝わった。広岡君にとっては、あの一件以来、この「ヤマト研究会」の仲間が久しぶりの仲間だったのだ。思えば、少しずつずれたやつらが、集まっていた。それぞれが、やっと得た「仲間」だった。わしとて、親に無理やり辞めさせられた部活動の代わりを求めていたのだ。

 わしは、無言で、机上の表紙をみつめたまま、広岡君の言葉につられて、呆然と涙をこぼした。自分自身と、一人一人の寂しさが、混じっていた。

 悪友が、口を開いた。

 「よし」

 け、こいつまで、泣いている。

 「わしが、表紙描く。」

 皆は泣きながら、笑った。悪友は、美術が全然駄目だった。絵など描ける男ではないのだ。

 「ブタ―シャに、本を、渡すんや!!」

 悪友は、叫んだ。

 わしらの心の中に、熱いものがこみ上げた。

 「うおーっ」と叫んだ。みな、ブタ―シャが好きだったのだ。わしは、生涯、このときのことを忘れることは無いだろう。

 ブタ―シャの転校まで、あと46時間だった(つづく)

 

BGM:Beautiful Lost:(C)98 Moto


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