モニターの中の男、微笑しつつ敬礼する。

「おはよう沖田君。私は、ガニメデ基地司令官、藤堂だ」

沖田「・・・宇宙防災安全公社・巡視艇『もがみ』艦長、沖田十三であります」

藤堂「統合軍日本支部から出向。艦長には本日付で着任だったな」

沖田「ご用はなんでしょうか」

藤堂「君と君の艦及び乗組員を借りたい。私の指揮下に入り、作戦行動をとってもらう」

沖田「(ぶっきらぼうな調子で)残念ながら当艦は貨物船の護衛が任務の艦です。どのような作戦か存じませんが、お力になれるかどうか」

藤堂「(さえぎるように)説明する。」

パネルが宇宙空間・・・第11番惑星付近の映像に切り替わる。

39.パネル映像(宇宙空間)

第11番惑星のそばに小さい光点がわずかに見える。

が、ぼんやりしていてわかりにくい。

藤堂の声「第11番惑星付近に飛ばした外惑星軌道探査衛星が捉えた映像だ」

沖田の声「・・・」

藤堂の声「すまない。見にくいな。拡大しよう」

そこには、宇宙空間を疾駆する8つの流星が映っている。

流星・・・赤いごつごつした岩のような球体に薄いベールがかかっている。

藤堂の声「・・・地球に向かっている。光分析で内部に多量の放射性物質を内蔵していることがわかった」

沖田の声「放射能爆弾?」

藤堂の声「そうだ。針路計算の結果、我々が放置すれば99パーセントの確率で地球に到達する。一個あたりの放射性物質含有度から考えて、落下地点では、百万単位で犠牲者が出る可能性がある」

40.もがみ艦橋

藤堂(モニター画面)「現在、光速の5パーセントの速さで飛んでいる。地球到達まであと24時間、わがガニメデ基地の担当する木星軌道まであと20時間だ」

沖田「加速が認められるのですか」

藤堂「(うなづいて)統合軍本部は既に主力艦隊を、タイタン軌道に集結させた。地球本部の情報では、おそらく、タイタン艦隊の戦力で概ね迎撃は成功すると聞いている」

沖田「・・・」

藤堂「我々はいわば、万一の場合の保険だ」

沖田「火星の主力艦隊が残っているのでは」

藤堂「艦隊は、迎撃コースから遠い位置にあってポイント到達が困難な状況にある。それに・・・流星の加速から云って、火星軌道で迎撃しても、無意味だ。タイタンで埒があかなければガニメデで決着をつけるしかない」

沖田「(一瞬、目を閉じて考え込んで、再び目を開けて)戦闘があるという前提で、確認申し上げます」

藤堂「聞こう」

沖田「この艦には非戦闘要員も多数乗りこんでおります。公社のプロパーです。彼らを戦闘に駆り出すには法律的な手続きが必要です。それに戦闘艦ではありません」

藤堂「手続き上の問題はない。もうひとつ・・・『もがみ』は元々巡洋艦として建造され、戦後に巡視艇に改装された艦だ。ポテンシャルはある。武器を装着させれば、戦艦なみの戦闘力をもたせることも可能だ。おそらく実際には何もせずにおわるだろう。以上だが、何か質問はあるかね?」

沖田「乗組員に説明してよいのでしょうか?」

藤堂「君の裁量だろう」

天井パネル、オフになる。