73.もがみ艦長室(つづき)

沖田「却下する」

佐渡「艦長!!」

沖田「(下を向いたまま、じっと空間の一点をみつめて)肺を再構築するに足るナノシステムを投入するには、かなり大量に輸血する必要がある」

佐渡「艦長・・・」

沖田、再び、目を閉じる。

沖田「危険過ぎる。技師長の体は逆に、ナノシステム含有血液しか受けつけないはずだ。代りの血を輸血できない場合、バイオノイドは深刻な機能不全を来たしうる」

村田、じっと沖田を見る。

沖田「能力において自分たちを凌駕するバイオノイドを血でしばろうという人間の業だ」

沖田、また、瞳を開く。

沖田「徳川が快方に向かっても、あいつが舵を握れるわけじゃない。舵を握るのは、君しかいない。輸血の結果・・・村田技師長が完全ではなくなり、艦の操舵に支障が生じれば、やはり脱出に致命的な障害となる。ただでさえ、成功の確率の少ない脱出作戦を我々は選択しているんだ・・・15分だと?業務に支障は無いだと?虚偽の報告は重罪だぞ、技師長」

村田、無表情に聞いている。

沖田「それに、ナノシステムは単に輸血すれば、それでいいというものではない。むしろ、通常の内臓移植手術よりも高度な医療技術が医者に求められるはずだ」

沖田、佐渡をちらと見る。

沖田「(表情を消して)輸血は許さん」

佐渡「艦長!!」

沖田、立ち上がり、ハッチへと歩く。

佐渡、立ち上がって、沖田の背中に叫ぶ。

佐渡「艦長は何故戦わないんですか!!」