主な登場人物悪友とわし。クラスで一番のスケベ「歩く生殖器」とあだなされる利根君。彼はキャラクターの割に字が達筆なので、清書及び題字担当。特技は無いが、大金持ちのおぼっちゃん高橋。会計を担当。さらに、ブラスバンド部の山田君少し大人の広岡君、 ブターシャが・・・いた。

 ブターシャの転校の挨拶が朝一番にあるなら、その時点には本が完成していなくてはならないのだ。どうしても、今晩中に本を完成させる必要がある。

 高橋は一時間後、帰って来たが、案の定、例の教師に呼び出しを食い、こっぴどくしかられた。初めての経験だったのだろう、目にいっぱい涙をためていた。出てきた高橋は、12時30分に校庭の裏の林の中で、悪友が印刷済みの原紙(ホッチキス止めしてないもの)を持って待っていると、わしらに告げた。

 「大胆な奴」、と改めて、わしは悪友を尊敬した。

 かくして、わしらは、相談した。集団でいけば、目立つ。分かれて行動すべきであろう。作戦も立てた。利根が高橋をいじめる。それをみた、広岡が止めに入り、利根とけんかする。騒ぎを起こすのである。例の若い教師が広岡らに手を取られている間にわしが、原稿を受け取る、という作戦であった。作戦の名前はどうする、と利根君。わしは、答えた。「ダミー・ヤマト作戦や!」・・・トホホなネーミング。

 作戦は始まった。ただ、実際には、シナリオ通りいかなかった。やりあっているうちに利根と広岡が本気で喧嘩してしまったのである。所詮は中学生であり、自分の感情を制御できることなどできなかったのだ。だが、おかげで、騒ぎそのものはリアルになり(と、いうか、ホンモノになってしまったのだが)、わしは悠々と裏庭の林の中に侵入できた。そこに・・・あいつはいた。

 あいつ・・・悪友は制服を着ていた。学校にいくといって出かけたせいだろう。わしは、何か声をかけようとしたが、あいつは、それを制した。そして「追われている。時間がない」といった。「ここも危ないかもしれん」・・・そういいながら、「これや」とあいつは紙袋に入った原紙をわしに渡した。わしは、ずしりとした、その紙袋を受け取りながら、「○○(悪友の名前)・・・」とつぶやいた。悪友は、もう、疲れた、捕まる。だから、後は頼む、といった。わしは、言った。「今日中に作業をせなあかん。そして、各自の家では作業も出来んし、本もおいとかれへん。教室も同じや」といった。ホッチキスで綴じて本を完成させる作業が残っているのだ。簡単なようで馬鹿にならない。それなりのスペースがいる。公園その他は既に学校側の制空圏内と化していた。悪友は言った。「一つだけ、手がある」

 悪友は、新設された体育館の天井なら大丈夫だろうといった。あそこなら、作業する場所もあるし、出来た本を置いておいても取られない、没収されない。教室なら、ほかの同級生にめちゃくちゃにされるだろうし、各自の自宅では、親が破棄するだろう。

 午後2時。天井裏に集まったのは・・・いや、行けたのは、わしひとりである。利根と高橋、広岡は先の喧嘩事件で目をつけられ、下校を余儀なくされた。悪友はまだ、逃げ回っている。わしは、あの後、追及は受けたが、何とかクリアしたのだ。ほこりまみれの天井裏には、ゴキブリの死体とかもあった。生きてるやつもいた。もう、ほとんど秘境探検である。蜘蛛の巣なんかもあり、そこには当然蜘蛛も在宅中で、つらい、のである。まあ、向こうもびびったろう。

 わしは、なんとか、ホッチキスでページ止め作業を開始した。まず、各ページを狭いスペースの中で、並べていく。30ページ分で、全部で15束の紙の固まりがある。中に「ん?」と思うページがあった。が、わしは、手を止めずに、せっせと孤独な作業をしていった。そして・・・10冊の・・・・たった、10冊の本がこの世に完成した。わしは、そっとそれらを紙袋に入れた。そして、天井裏の秘密の場所に隠した。

 だが、これが、まずかった。わしは、そろりそろりと気づかれないように天井から降りていったつもりだが、降りた瞬間、例の教師が立って待っていたのである。せっせとつくった本は全て、先公に没収された。職員室へご案内、だ。わしは、わめいた。が、体育館天井裏への侵入だけでも重罪であり、権利を主張できる立場ではなかった。さらに、高橋をそそのかして、テストをサボらせた疑いもかけられており(まあ、事実といえば、そうなのだが)、角材でケツを殴打されつつ、罵倒されたのであった。わしは、「終わった」と思った。夜の7時くらいまでしぼられ、親が迎えに来た。ぺこぺこ頭を下げた。わしは、心から悲しくなった。

 帰宅してから、悪友の家に電話をかけた。正直に全て話した。「わかった」とだけ、あいつは言った。


今日は長いね。ここまで読んでくれてありがとう。

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