次の日の朝・・・。期末試験は既に終わっていて、クラスはリラックスした雰囲気だった。そんな中で、わしは、とても皆と顔を合わせられなかった。じっと下をうつむいていた。実際、ヤマト研究会のメンバーは互いに口も訊かず、ムスッとしていた。悪友も、だ。わしは、「ああ、俺はひとりになってしもた」と思った。

 やがて、朝の連絡会が終わり、先生(あの若い教師ではない。中年の女教師である)が、廊下で待っていたらしいブタ―シャを招き入れた。そう。最後の挨拶だ。ブタ―シャは「これまで、ありがとう」と芸の無い平凡な挨拶をしてぺこりと頭を下げた。先生は云った。皆で「○×さん(ブターシャの本名)を見送りましょう」といった。窓の外をみると校庭の前に車が来ていた。ブタ―シャはアレに乗って、どこかのまちに行ってしまうのだ。

 校庭に出た。クラス委員(わしがクラス委員になるのは翌年である)が、寄せ書きを書いたサイン色紙をブタ―シャに渡した。女子の代表が、花束を渡した。ブタ―シャは「ありがとう」といい、また、ぺこりと頭を下げた。車の前では、ブタ―シャのお母さんらしい人がいて、やはり、ぺこりと頭を下げていた。ブタ―シャは、悪友をちらりとみたが、悪友は、目を逸らした。

 「じゃ、さよなら」といって、ブタ―シャは最後に一礼すると、車へ向かって歩き始めた。そして、車の前にいって、親子で再び一礼し、車に乗り込んだ。車のエンジンが始動する。

 その時だった。「待ってくれ!!」と叫んだ男がいた。

 悪友だった。ゆっくりと走り出す車を悪友は走って追いかけ始めたのだ。あいつは、なんと、走りながら、ズボンの中から一冊のボロボロの冊子を取出した。高く、かざした。それこそ、われらが「不滅の第三艦橋」であった!わしも、利根君も、高橋君も、広岡君も、そして、悪友と喧嘩して脱会を宣言した山田君もじっとそれをみていた。広岡が「わしらの・・・本や」といった。わしは・・・・。皆、悪友のあとを追って、走り出した!

 悪友は走った。だが、車との距離はどんどん開いていく。気付いたブタ―シャはちらと後ろを振り返った。悪友は、叫んだ。「お前が好きなんや!」・・・わしは、悪友が迷っていたこと、そして、それを振り切ったことを悟った。自分の気持ちを正面から認めるのに、時間もかかったのだろう。そして、悪友は・・・こけた。

 その悪友の手から、冊子を奪い取った男がいた。山田である。山田は、悪友をちらとみて「どんくさいやつやのう」と言い捨てると、凄いスピードで、校庭を駆けていった。そして、スピードを緩め、停車した車に追いつき、窓の外からブタ―シャに本を渡した。車は長く停車もせず、再び走り出した。わしらは、校庭にヘタりながら、それを見送った。すぐに小さくなってみえなくなった。


 映画なら、これで終わりだが、生きているので、続きがある

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