『お友達になって下さい。』

 ある夜、思い切って書き込んだ電子伝言板、それは思いの外楽しいものだった。何度か特定の相手とメールを交わし、その日、駅の改札で初めて彼女と待ち合わせをした。


 『目印に赤い薔薇を一輪持って、4時に改札に立っていて下さいね。』


 帰宅を急ぐ人々が一瞬、不思議そうに彼を見ては通り過ぎていく。時計の針は6時をまわっていた。


 「すっぽかすなんて、ヒドイよなぁー。」

 ぼそりと呟いて、薔薇の花をごみ箱に捨てようとした。


 「俺は友達が欲しかっただけなんだがなぁ。」

 思い直して彼は、薔薇を斜めにかけたショルダーバックにごそごそとしまい込み、足取りも重く寮に向かった。


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