エレベーターでメンズのコーナーのある8階まで上がる。
扉が開くとそこは紳士服ばかりがブランド別に区切られて陳列しており、あれほど賑わっていた1階をよそに、人もまばらな印象を受ける。
「いらっしゃいませ。」
若い男性の店員が物静かに言う。
「これなんかどうだい?」
島は鮮やかな真紅のニットを指す。
「熱血漢のあいつにぴったりじゃないか。」と吹き出す。
「やーね。ヤマトの戦闘服を思い出すじゃない。普段まで戦闘班引きずられちゃたまんないわ。」
島はククッと笑いながら、
「へぇーっ、そんなものかねぇ。じゃ、今度はまじめに…」
その瞬間、同じニットに手を触れかけて、ふと二人の指先が触れ合った。
島はあっと、意識して即座に手を引っ込めるが、ユキの方はそんな事には気づかぬ風で、その服を取り上げた。
「これ、いいと思わない? 夏らしくて!」
シンプルな杢グレーのニットである。
島は、つい意識してしまった感情を殺すように明るい声で言った。
「うん、いいよ。きっとあいつに似合うと思うよ。」
「そう?じゃ決めた!これにするわ。」

ユキは嬉しそうである。
精算を済ませ、そこを出るや否や、島が感心したように話す。
「しかし、女の子の買い物って、あれこれ迷って時間のかかるものだと覚悟して来たんだが、君は意外にあっさりしてるんだね。」
「そう、いいか悪いか私って決断力だけは、男性並みみたいね。」
「いやぁ、並みの男を超えてるさ。まあ、そういう所、何度もお手並みを拝見させてもらったけどね。」
「それってほめてるの?けなしてるの?」
「勿論、前者ですよ!」

とりとめのない会話を続けながら、二人はデパートの外へ出る。


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BGM:Marie (C)1999 Yoshichika Kato