67.イオ地表
赤い岩の大地。
その大地の割れ目に潜む様に「もがみ」が挟まっている。
68.もがみ医務室
ハッチが開いて、村田が入ってくる。
しかし、誰も居ない。
村田、部屋を見回して、佐渡の不在を確認すると、奥の集中医療室のドアに目をやる。
規則正しい足音を立てて、集中医療室へ向かう村田。
69.集中医療室
じっと徳川を保護しているカプセル。
そして、傍らのデスクについて、じっとそれを見ている佐渡。
ピーっという呼び出し音。
佐渡、無視して考え込んでいる。
もう一度呼び出し音。
佐渡「(疲れた表情で)どうぞ」
さっとドアが開く。
村田がドアのところに立っている。
村田「薬をもらいにきた」
佐渡「(無表情に村田を見て)ああ。そうでしたね。気管支炎・・・すみません」
と、立ち上がり、医務室に向かう。
70.医務室
村田、患者用のチェアに座っている。
佐渡、集中医療室から、部屋に入ってくる。
村田「身体機能に異常でもあるのか」
佐渡「え?いや・・・」
佐渡、自分のデスクに着いて、引出しをごそごそと探り、薄い紙袋を取出す。
薬らしい。
佐渡「はい、これ」
村田に紙袋を渡す。
村田「機関長のことか」
佐渡「患者のプライバシーですから」
村田「私は、第2副長でもある。現時点では、艦長に次ぐ艦の指揮権を持っている。艦長と情報は共有している」
佐渡、黙って首を横に振る。
佐渡「(つぶやくように)ナノシステムさえあれば・・・」
村田、じっと佐渡を見つめる。
佐渡「(自嘲ぎみに)無いものを夢見ても意味がありませんね。それにあったとしても、ナノシステムへの指令を下すのは、医者です。ナノシステムの報告を受け、情報を交換しながら必要な投薬、血圧の調整などを外部から行います。ナノシステムによる治療とは、医者がミクロの手としてナノシステムを使って、患者の体内で行う戦闘のようなものです。失敗すれば、機関長の場合・・・命が」
村田。
佐渡「(哀しそうな目で)僕には・・・自信がありません。タイタンでもそうだった。ナノシステムが無いからってのは言い訳で、僕自身、ナノシステムを使う高度医療の経験がないんです。僕は・・・(うつむいてしまう)」
佐渡、集中医療室に目をやる。
村田、不思議そうに佐渡を見つめる。
村田「(淡々と)医務長」
佐渡、村田の方を向く。
村田「(淡々と)なぜ・・・戦わない?」
佐渡、「は?」という表情で村田を見返す。